BlueNote TOKYO

'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , 大西順子 - - report : JUNKO O...

2012/10/28

大西順子 - JUNKO ONISHI
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公演初日リポート:JUNKO ONISHI TRIO



1993年にアルバム『WOW』で衝撃のソロ・デビューを果たした大西順子が、20周年アニバーサリーを前に選んだ道は「引退」でした。そう決意するに至るきっかけは、前号のタブロイド版フリーペーパーにおける菊地成孔との対談で触れられている通りです。

ぼくが見た初日セカンド・セットは、異様な熱気に包まれていました。それはたぶん、ほかのセットでも同様なのではと思います。「これが最後の演奏だ」という大西順子側の何か吹っ切れたようなプレイ、そして「この瞬間を一音たりとも聴きのがすわけにはいかない。もう最後なんだから」と前のめりになって音を浴びるオーディエンス側の気迫がぶつかり、スパークしていたといえばいいでしょうか。

演奏曲目は、ファンにはおなじみのものばかり。初期のレパートリーである「EUROGIA」も、ジャッキー・バイアードの楽想を発展させた(といっていいでしょう)近作「THE THREE PENNY OPERA」も登場しました。後者は目下の最新作『バロック』にも収められていますが、大西順子はMCでこのCDを“私の最後のアルバム”と紹介していました。

共演メンバーは、大西いわく“大阪が生んだ天才ベーシスト”こと井上陽介、そしてドラムスはクインシー・デイヴィス(米国ミシガン州生まれ、カナダ在住)が担当しました。両者とも繊細なときは思いっきり繊細に、はじけるところでは思いっきりはじけることができるプレイヤーです。彼らの陰影に富んだリズムは、間違いなく大西に大きなインスピレーションを与えていたと思います。

この日のステージにはまた、ジャズの歴史を彩ったピアニストへのオマージュ的な要素も感じられました。アーマッド・ジャマルのアレンジを用いた「DARN THAT DREAM」は確かにジャマルの『ライヴ・アット・ブラックホーク』に入っていたヴァージョンに通じるものがありましたし、まさかのダブル・アンコールで演奏された「JUST ONE OF THOSE THINGS」は偉大なるアート・テイタムの吹き込み(56年)に則ったものでしょう。

いっぽう、ホレス・パーランの「USTHREE」では、パーラン版ではドラマーがブラッシュで演奏していたところを、大西版ではクインシー・デイヴィスがリム・ショット(スネアの端をスティックで叩いてアクセントをつける)を用いて、1960年のオリジナル・ヴァージョンとはまた違った興奮をかもし出していました。

大西順子がいかに多くのレコードやCDを聴いて学び、練習を積み重ね、現在の位置に到達したかが伝わってくるステージでした。ブルーノート東京への出演は本日が最後ですが、ラスト・ツアーはまだまだ続きます。ジャズ・ピアニスト=大西順子の総決算を、ぜひどうぞ。
(原田 2012 10.27)


● 10.27sat.-10.28sun.
JUNKO ONISHI TRIO
☆ 参考:セットリストはこちら


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'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , 大西順子 , 渡辺香津美 - - report : 渡辺 ...

2011/05/08

渡辺 香津美 - KAZUMI WATANABE
渡辺 香津美 - KAZUMI WATANABE


リポート:渡辺 香津美 meets 大西 順子 -DUO-



渡辺香津美と大西順子のデュオ・ライヴが実現するとは、誰が想像できたでしょう。
どんなレコーディングでも、どんなジャズ・フェスティバルでも、ふたりのセッションは行なわれていませんでした。15年ほど前、NHKの紅白歌合戦で、日野皓正・元彦の兄弟や宮川泰と一緒に、吉田拓郎のバックを務めたのが、渡辺香津美と大西順子のほぼ唯一の共演だったとのことです。
「いったいどんな演奏になるのだろうか?」、「異種格闘技のようなものになるのだろうか?」と、わくわくしながら会場に向かったのは、ぼくだけではないはずです。

プログラムは「STELLA BY STARLIGHT」、「‘ROUND MIDNIGHT」のようなジャズ・スタンダード曲、そしてふたりが持ち寄ったオリジナル曲で構成されましたが、そのオリジナル曲の選曲がまた、とんでもないのです。渡辺側が「遠州つばめ返し」、「UNICORN」を持ちこめば、大西側は超大作「THE THREEPENNY OPERA」を持ってきます。およそ、デュオには向かない“難曲”ばかりです。並のミュージシャンがおいそれと手を出せば、指をつってしまうようなナンバーばかりです。しかしそこに、ぼくは「このライヴを単なる一夜のセッションに終わらせてなるものか」という、ふたりの高いミュージシャンシップ、チャレンジ精神を見ました。エレクトリック・ベースやドラムスがタイトなビートを打ち出しているはずの渡辺ナンバーを大西がアコースティック・ピアノで表現し、ホーン・セクションが暴れまわっているはずの大西ナンバーで、エフェクターを駆使した渡辺の自由奔放なエレクトリック・ギターがうねる。「面白いじゃないか!」と、ぼくは快哉をあげました。

渡辺がソロを弾いているときは当然、大西がバッキングを担当し、大西がソロを弾いているときはその逆になるのですが、その受け渡しの素早さ、巧みさも大きな聴きどころのひとつでした。「STELLA」や「MUSICAL MOMENTS」では4小節ずつソロを交換しあうのですが、互いのフレーズに触発されて、どんどん演奏が白熱していくのが手に取るようにわかりました。

一日限定の貴重なライヴでしたが、近いうちに連続公演が行なわれることを心から楽しみにします。
(原田 2011.5.7)




● 5.7sat.
KAZUMI WATANABE meets JUNKO ONISHI -DUO-


渡辺 香津美 - KAZUMI WATANABE


'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , 大西順子 - - report : JUNKO O...

2011/02/26

大西 順子 - JUNKO ONISHI
大西 順子 - JUNKO ONISHI


公演初日リポート:JUNKO ONISHI TRIO



大西順子が気心の知れたメンバーと、本日まで「ブルーノート東京」で圧巻のパフォーマンスを展開しています。彼女のブルーノート公演はいまや恒例になっていますが、話題の新作『バロック』を発表してからは初めての登場です。昨年の秋にはその参加メンバーと共にホール・コンサートを行ないましたが、より親密感のあるクラブで味わう大西順子の世界は格別です。

今回の共演者は、1994年のニューヨーク「ヴィレッジ・ヴァンガード」公演以来、折に触れて一緒にプレイし続けているレジナルド・ヴィール(ベース)と、やはり大西とは90年代初頭からのつきあいとなるグレゴリー・ハッチンソン(ドラムス)。90年代のジャズ界に彗星のようにあらわれた彼らも、すっかり貫禄を増し、大西との組み合わせは文字通りのオールスター・トリオといった感じです。

ぼくがハッチンソンと大西のコンビネーションを初めて聴いたのは確か1993年、五反田で行なわれたホール公演だったと思います。当初予定されていたベテラン・ドラマーのビリー・ヒギンズが病のため来日不可能となり、急遽ハッチンソンが参加したのでした。しかし大西との見事な連携はヒギンズの不在を補って余りあるもので、ハッチンソンは代役の域を超えた熱演で才能を強烈に印象付けてくれました。ぼくは「ブルーノート東京」の椅子に座りながら、今からもう20年も前になろうという当時のステージをダブらせつつ、さらにスケールを増した大西とハッチンソンの“音の対話”に聴き入ったのでした。

トリオが一丸となって疾走する「BACK IN THE DAYS」、ベースの胴体をパーカッション代わりにするだけではなく、スラッピング奏法まで織りまぜてレジナルド・ヴィールが熱演した「THE THREE PENNY OPERA」、往年のアーマッド・ジャマル・トリオに表敬した「DARN THAT DREAM」(左手にブラシを持ち、右手でハンド・ドラミングを繰り広げるハッチンソンが圧巻でした)などなど、リキの入ったパフォーマンスが次々と続きます。いっぽう、「NEVER LET ME GO」では染み入るようなバラード・プレイを聴かせてくれました。先日のロイ・ハーグローヴ公演ではロイみずからヴォーカルをとっていたスタンダード・ナンバーですが、大西のピアノもよく歌っていました。

ぼくはセカンド・セットを拝見しましたが、セット・リストを見るとファースト・セットもセカンド・セットも曲目のダブりは殆どありません。全セット通して聴きに来るファンの方がいらっしゃるというのも、とてもよくわかります。充実したトリオ・ジャズを、近距離でお楽しみください。
(原田 2011 2.25)


● 2.25fri.-2.26sat.
JUNKO ONISHI TRIO

大西 順子 - JUNKO ONISHI


'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , 大西順子 - - report : JUNKO O...

2009/09/12

大西順子
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公演初日リポート:大西順子トリオ


今日まで大西順子が「ブルーノート東京」に出演しています。3年連続です!

前半は「BACK IN THE DAYS」、「MUSICAL MOMENTS」など、ベスト・セラー中の最新作『楽興の時』からのオリジナル曲が続きます。CDで聴いたときにも自在な発想、怒涛の展開に引き込まれたのですが、ライヴではさらにそれが何倍にも膨らんで発展しているような印象を受けました。井上陽介のベースが低域を駆けずり回り、大西順子のピアノからガッツ、パッション、ファイアーが溢れ、そこにジーン・ジャクソンのドラムスが鋭く切り込む。とくに「MUSICAL MOMENTS」はあまりにもドラマティックに“進化”していて、音楽は生き物なのだなあ、と改めて痛感させられました。

ピアノ、ベース、ドラムスという、いわゆるピアノ・トリオの演奏は、巷ではBGMとしても活用されることが多いようです。しかし大西、井上、ジャクソンの演奏は決してそうなり得ません。すごい緊張感、尋常ではない密度を保ちながら、強靭にスイングするからです。ビリー・ストレイホーンの名曲「Lush Life」をイントロ代わりに挿入したスロー・テンポの「PORTRAIT IN BLUE」でも、それは替わりません。

プログラム後半では、今から30年前に亡くなったベース奏者/作曲家のチャールズ・ミンガスが書いた「SO LONG ERIC」も演奏されました。これも単なるミンガスのカヴァーというよりは、しっかり“大西順子の「SO LONG ERIC」”になっているところが、さすがです。生前のミンガスはとにかく“模倣”を嫌ったといいます。チャーリー・パーカーのフレーズを吹いてしまったジャッキー・マクリーンは“お前はパーカーじゃないんだ。マクリーン自身を演奏しろ”と殴られ、ケニー・バレルは“Be Yourself”とハッパをかけられました。が、この日の大西順子トリオの演奏を聴いたら、さすがのミンガスも巨体を揺らしてニンマリするに違いありません。

考えてみれば、この日のバンド・メンバーは全員“ミンガス”というキーワードで結びつきます。井上陽介は自身のアルバム『ドリフティング・インワード』でミンガスの「Pithecanthropus Erectus(直立猿人)」を取り上げていましたし、ジーン・ジャクソンはミンガス未亡人が携わるミンガス・ビッグ・バンドのメンバーでもあります。同じフレーズを執拗に繰り返しながらテンションを高めていく大西のプレイには、かつてミンガス・バンドで活動したホレス・パーランに通じる粘っこさがありました。
と思ったら、アンコールでは、そのパーランの代表曲「Us Three」が飛び出したではないですか。もちろんこれも、“大西順子の「Us Three」”になっていることは、いうまでもありません。パーランのヴァージョンではアル・ヘアウッドがブラシでドラムスを叩いていましたが、ジャクソンはスティックを使って大西のピアノを煽りに煽ります。

スケールの大きな、実に気持ちいいステージでした。きくところによると、この日のセカンド・セットでは演目の殆どを入れ替えて、エリック・ドルフィーの「SOMETHING SWEET, SOMETHING TENDER」や、ライチャス・ブラザーズがヒットさせた「YOU'VE LOST THAT LOVING FEELIN'(ふられた気持ち)」も演奏されたといいます。今日はいったい、どんなプレイが飛び出すか。大西順子トリオは文字通りの絶好調、痛快なスリルに溢れています。
(原田 2009/9/11)


● 大西順子トリオ
9/11 Fri - 9/12 Sat.

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1970年生まれ。ジャズ誌編集長を経て、2005年ソロ活動を開始。
著書に『原田和典のJAZZ徒然草 地の巻』(プリズム)
『新・コルトレーンを聴け!』(ゴマ文庫)、
『世界最高のジャズ』(光文社新書)、
『清志郎を聴こうぜ!』(主婦と生活社)等。
共著に『猫ジャケ』(ミュージックマガジン)、
監修に『ジャズ・サックス・ディスク・ガイド』(シンコーミュージック・エンターテイメント)。好物は温泉、散歩、猫。
ブログ:http://haradakazunori.blog.ocn.ne.jp/blog/