BlueNote TOKYO

'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , 山中千尋 - - report : CHIHIRO...

2012/12/15

山中千尋 - CHIHIRO YAMANAKA
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公演初日リポート:CHIHIRO YAMANAKA TRIO



“満を持して”という言葉が、これほどピッタリ来るステージは他にありません。人気ピアニスト、山中千尋がついに登場しました。これまでニューヨークやミラノのブルーノートでは演奏したことがあるそうですが、「ブルーノート東京」での公演は正真正銘、これは初めて。超満員のファンは、歴史的な瞬間を目撃した、といっていいでしょう。

山中千尋は昨年、アルバム・デビュー10周年を迎えました。ということは、ぼくが彼女のライヴを最初に見たのはさらにその数年前ということになります。渋谷のクラブで、菊地成孔、水谷浩章、外山明とグループを組んで演奏していました。今なら数秒でソールド・アウトになるであろう、とんでもなく豪華な顔ぶれですが、なにしろ20世紀の話です。ぼくが見たときはかなり空席もあって、お客さんの沸き方も熱狂的というところまではいかず、山中千尋のMCも今日とは異なってずいぶんたどたどしかった記憶があります。

しかし2001年にファースト・アルバムを発表以来、彼女の人気はうなぎのぼり。あれよあれよという間に、スターの座を獲得してしまいました。そのパフォーマンスは自信と活気にあふれ、MCのボキャブラリーも増え、CDも次々とベスト・セラーを記録しています。

この日は、彼女が「家族のようなトリオ」と語るマウロ・ガルガーノ(ベース)、ミケーレ・サルガレッロ(ドラムス)との演奏。約5年間、山中は彼らと共演を繰り返し、グループの音を磨きこんできました。オープニングは、近作のアルバム・タイトルでもある「BECAUSE」。ビートルズの『アビー・ロード』に収められていたナンバーですが、山中はまずベートーベンの「月光」的なイントロダクションからはじめ、しだいに「BECAUSE」のメロディを前面に出しながらも、アドリブ部分になると速いサンバ風リズムに乗せて、ミシェル・ペトルチアーニ「LOOKING UP」を思わせる展開へと もつれこみます。1曲の中で、さまざまな物語を味わわせてくれるのです。

続いてはポール・デスモンド作、デイヴ・ブルーベックの演奏でヒットした「TAKE FIVE」。もちろん山中千尋の解釈は一筋縄ではいきません。ベース・ソロが始まるあたりから、ブルーベック作「IN YOUR OWN SWEET WAY」に通じるコード進行に沿って演奏が進みます。

いっぽう、デューク・エリントン作「IN A MELLOW TONE」は、テンポを思いっきり落として解釈。先日もマッコイ・タイナーが「ブルーノート東京」でとりあげたナンバーですが、そのときは弾むようなテンポで演奏していました。エリントンの自作自演と山中千尋のヴァージョンを続けて聴けば、「アレンジしだいでこんなに曲の印象が変わるのか」と誰もが驚かれることでしょう。いっぽう、「JUST ONE OF THOSE THINGS」では山中流ビ・バップというべき世界を展開。イントロとエンディングに使われたフレーズは、’80年代後半にハービー・ハンコックがこの曲をとりあげるときに用いていたものである、と断言できましょう。彼女がいかにいろんなミュージシャンを聴き、勉強し、吸収してきたかを物語るようです。

ラストはもちろん、“この曲なくして山中千尋のライヴは成立しない”といわれるほどの大定番「八木節」。常に全力のライヴを聴かせてくれる彼女ですが、「八木節」にはその全力モードをさらに加速させるパワーが備わっています。3人一丸となっての熱い音のせめぎあいは、まさしくバトルと呼ぶにふさわしいものでした。山中千尋が行なってきたライヴの数だけ、ジャズにアレンジされた「八木節」がこの世に存在しているはずですが、常に最新の「八木節」が最高である、という状態をキープすることは、並大抵のことではありません。

今夜も彼女は、「八木節」の最高記録を更新してくれるはずです。公演は本日限りですが、近い将来必ず「ブルーノート東京」で長期公演を行なってくれることでしょう。
(原田 2012 12.14)


● 12.14fri.-12.15sat.
※12.15sat. 2nd Showでは『アフター・アワーズ2』リリース・パーティー(主催:ユニバーサル ミュージック)が行われます。
詳しい情報、チケットの購入は
http://store.universal-music.co.jp/fs/artist/c/jazzstoreから
お問い合わせ:
ユニバーサル ミュージック カスタマーサービス・センター
TEL 045-330-7213

CHIHIRO YAMANAKA TRIO
☆ 参考:セットリストはこちら


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