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'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , JIM HALL - - report : JIM HAL...

2012/06/04

ジム・ホール - JIM HALL
ジム・ホール - JIM HALL


公演初日リポート:
JIM HALL TRIO
with SCOTT COLLEY & JOEY BARON



この日を待ち望んでいました。

パット・メセニー、ビル・フリゼール、ジョン・スコフィールド、ジョン・アバークロンビー等、数え切れないほど多くの名手たちに影響を与えている“現代ジャズ・ギターの父”、ジム・ホール久々の来日公演です。今年で82歳とのことですが、その指先にまったく衰えはみられません。美しく幻想的なハーモニー、粒立ちの良いシングル・ノート(単音)、たとえようもなく豊かな歌心。ただただ聴きほれるしかない幸せな時間を味わわせていただきました。

プログラムは“ジム・ホール傑作集”というべき内容で、「BIG BLUES」、「CAREFUL」、「BEIJA FLOR」等、熱心なファンなら冒頭の1小節を聴いただけで「ああ、あの曲だ!」と声をあげるに違いないものばかりでした。しかし同じ曲を繰り返しプレイしても、常に新鮮な印象を与えるのがホールのすごいところ。こういう存在を本物の巨匠というのです。

現在のホールはスティーヴ・ラスピナ(ベース)〜テリー・クラーク(ドラムス)か、スコット・コリー(ベース)〜ジョーイ・バロン(ドラムス)と組むことが多いのですが、今回は後者のトリオ、つまり近作『Hemispheres』と同じメンバーによるパフォーマンスです。

コリーのプレイは堅実そのもの、バロンは主にブラッシュとスティックを巧みに使いわけながら御大のギターをサポートします。短いソロも聴かせてくれましたが、これほどメロディアスにドラムを叩く奏者は、ぼくの知る限りほかに故シェリー・マンがいるぐらいです。

ホールは演奏中、ギターについているトーン・コントロール(音量を調節するつまみ)をよくいじります。そして時折エフェクターを手で操作しながら、音色を変えてゆきます。その一方で「CHELSEA BRIDGE」のようなバラードでは、徹底的にボリュームを抑えながら、まるで睡眠中の赤ちゃんをそっと抱きかかえるような優しくて繊細なプレイを披露。水を打ったように静まり返った超満員のオーディエンスの間に、微妙なニュアンスに富んだギター・ソロが響き渡ったのは本当に感動的な情景でした。

ラストは“私の生涯の盟友、ソニー・ロリンズの曲だ”というMCから「ST. THOMAS」に流れ込みました。エフェクターを通した音色はまるでパット・メセニーのギター・シンセサイザーのようです。イントロ部分では「鉄道唱歌」(今も新幹線車内などで聴くことができます)のメロディを引用し、客席を沸かせます。ホールはこの曲を‘72年の傑作『ALONE TOGETHER』でも演奏していますが、そこにこのイントロは登場しません。しかし‘76年の来日公演以降、「ST. THOMAS」をプレイする時は必ずといっていいほど「鉄道唱歌」が挿入されます(先日、ぼくがニューヨークで彼のライヴを聴いたときにも出てきました)。
親日家ジム・ホールの、さらなる長命と御活躍を願ってやみません。
(原田 2012 6.3)


● 6.3sun.-6.6wed.
JIM HALL TRIO
with SCOTT COLLEY & JOEY BARON
☆ 参考:セットリストはこちら


ジム・ホール - JIM HALL