BlueNote TOKYO
ARCHIVE 2012/06

2012/06/29

'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , SADAO WATANABE - - report : SADAO W...

渡辺貞夫 - SADAO WATANABE
渡辺貞夫 - SADAO WATANABE


公演初日リポート:
SADAO WATANABE presents
SADAO WATANABE N.Y. QUARTET
featuring DANNY GRISSETT, VICENTE ARCHER & OBED CALVAIRE



説明不要の重鎮・渡辺貞夫が、ニューヨークで出会った新しい友人たちと共に会心のステージを繰り広げています。

ピアノのダニー・グリセットはカリフォルニア州ロサンゼルス生まれ。バリー・ハリスやハービー・ハンコックの指導を受け、2003年からニューヨークで活動を続けています。先日はトランペット奏者トム・ハレルのバンドで「コットンクラブ」に出演していました。ベースのヴィセンテ・アーチャーはニューヨーク州ウッドストック出身。16歳までギターを弾いた後、ベースに転向しました。ウィントン・マルサリスやロイ・ヘインズのバンドでも活躍経験のある逸材です。ドラムスのオベド・カルヴェールは4ビートやファンクからロック系まで、すべて万能の名手。「ブルーノート東京」にはリチャード・ボナや渡辺香津美のバックで登場したことがあります。

そんな3人を従えて演奏する渡辺貞夫は、ひょっとしたら昨年のステージよりもさらにペースをあげているのでは?と思えるほど絶好調。艶やかなアルト・サックスの音が、梅雨のしめっぽい空気を突き破るように爽快に響きます。オープニング「ONE FOR YOU」では、アドリブの途中でチャーリー・パーカーの名演「EMBRACEABLE YOU」のフレーズまで飛び出したではありませんか。パーカーといえば渡辺貞夫に最大の影響を与えた人物のひとりで、今なお永遠の憧れです。ぼくはこの1曲で、すっかりいい気分になってしまいました。

その後も、盟友チャーリー・マリアーノが書いた16ビートの「BYE BYE BABE」、アップ・テンポの4ビートで演奏された「GEMMATION」など必聴のナンバーが並びます。そしてプログラム後半では、ブラジル・サルバドールの海岸にインスピレーションを受けて書いたという「ITAPUA」、カリプソ〜サンバ調の「SONG OF MAY」、アントニオ・カルロス・ジョビンの「CHEGA DE SAUDADE」を立て続けに披露。クラブにいち早く夏の空気を運びました。

「CHEGA DE SAUDADE」はディジー・ガレスピー、スタン・ゲッツなど多くのジャズ・ミュージシャンから愛されている曲ですが、大抵の場合、アドリブ部分は一発モノ(ワン・コード)か、“逆循”で行なわれます。しかし渡辺貞夫は原曲の持っている、美しいけれども難しいコード進行を尊重し、鮮やかなソロを聴かせてくれました。

もちろんダニー、ヴィセンテ、オベドも各ナンバーでキラリと光るプレイを披露。1950年代から第一線で活動し、チコ・ハミルトンやゲイリー・マクファーランドと共演、ニューポートやモントルーのジャズ・フェスティバルでも絶賛を博してきた“レジェンド” 渡辺貞夫との共演は、彼らにとっても良い刺激になっているようです。

公演は7月1日まで行なわれます。「同じ曲を一日に2度演奏するのは、どうも楽しくない」ということで、ファースト・セットとセカンド・セットのレパートリーが大きく異なるのも特徴です。ぜひお越しください!
(原田 2012 6.28)


● 6.28thu.-7.1sun.
SADAO WATANABE presents
SADAO WATANABE N.Y. QUARTET
featuring DANNY GRISSETT, VICENTE ARCHER & OBED CALVAIRE
☆ 参考:セットリストはこちら


渡辺貞夫 - SADAO WATANABE


2012/06/27

'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , HILARY KOLE - - report : HILARY ...

ヒラリー・コール - HILARY KOLE
ヒラリー・コール - HILARY KOLE


公演初日リポート:
HILARY KOLE


「日本に6,7回は来ていると思うけど、ブルーノート東京で歌うのは初めて。ついにこの舞台に立てて嬉しいわ」。そう言いながら、ヒラリー・コールは満面の笑顔で歌い始めました。

子供の頃から歌が大好きで、やがてマンハッタン・スクール・オブ・ミュージックに入学。数々のミュージカルにも出演し、ヘミングウェイもよく宿泊したというニューヨーク「アルゴンキン・ホテル」内にあるクラブ「オーク・ルーム」での公演はソールド・アウトを記録しています。デビュー作『魅せられし心』は日本のAMAZON.COM年間ジャズ・チャートで3位にランクされました。実力と美貌を兼ね備えた歌姫として、人気はうなぎのぼりです。

この日の1曲目は「‘DEED I DO」でした。インストゥルメンタルではそれほどとりあげられることがありませんが、ペギー・リー、レイ・チャールズ、エラ・フィッツジェラルド、ダイアナ・クラールなど数多くの歌手に愛されているナンバーです。ヒラリーは原曲のメロディを自由に変えて歌い、すぐさまスキャットに突入します。続いて歌い始めたのは「ISN'T THIS A LOVELY DAY」という、これも歌い手に人気のある楽曲。冒頭のヴァース(前歌)部分をア・カペラでこなし、その後コーラス(主題)部分に移ります。ジョン・ハートの卓越したギターが、ヒラリーの歌声に彩りを添えていきます。

「私が大好きなものが3つあるの。FOOD、LOVE、そしてJAZZ」。こう前置きして始まったのは、これまた渋い「BETTER THAN ANYTHING」です。鬼才シンガー・ソングライター、ボブ・ドローの傑作ですね。3拍子に乗って、ヒラリーは軽やかに歌います。その後もドリ・カイミ作のボサノヴァ「LIKE A LOVER」、ラテン・リズムから4ビートになる「I ONLY HAVE EYES FOR YOU」、ビートルズ・ナンバー「AND I LOVE HER」を女性の視点からカヴァーした「AND I LOVE HIM」といった名曲の数々を、つぎつぎと楽しませてくれました。また、「DON'T EVER LEAVE ME / ONCE UPON A SUMMERTIME」のメドレーでは、ピアノの弾き語りも聴かせてくれました。

ジャズ・ヴォーカルの新歌姫、ヒラリー・コールのステージは本日も開催されます。
(原田 2012 6.26)


● 6.26tue.-6.27wed.
HILARY KOLE

☆ 参考:セットリストはこちら


ヒラリー・コール - HILARY KOLE


2012/06/25

菊地雅章 - - report :MASABUMI...

MASABUMI KIKUCHI TRIO菊地雅章トリオ
MASABUMI KIKUCHI TRIO菊地雅章トリオ


公演初日リポート:
菊地雅章トリオ


鬼才・菊地雅章が久々にニューヨークから戻り、圧倒的なライヴを繰り広げています。

1950年代後半からジャズ・シーンで活躍し、原信夫とシャープス&フラッツ、渡辺貞夫グループ等に在籍。盟友・日野皓正との双頭クインテットは‘60年代後半以来、何度もメンバーを変えて続いています。ソニー・ロリンズ、エルヴィン・ジョーンズ、ギル・エヴァンス、マイルス・デイヴィスらとも共演し、‘81年のアルバム『ススト』は、今なお“時代の先を行った傑作”として賞賛されています。‘90年代にゲイリー・ピーコック、ポール・モチアンと組んだ“テザード・ムーン”でも数々の名盤をリリースしてきました。ザ・バッド・プラスのイーサン・アイヴァーソン等、彼をリスペクトするミュージシャンも引きをきりません。

ここ数年は体調が芳しくなかったともききますが、今回の公演は、ぼくが以前に生で聴いたとき(2004年)よりも若々しいのではないか、と思えるほど、足取りもプレイも軽やかでした。充電期間を経て、その音世界はいっそう深く、広がりを増したようです。

パーソネルはトーマス・モーガン(ベース)、トッド・ニューフェルド(ナイロン弦のアコースティック・ギター)との3人編成。トーマスは菊地がECMレーベルから出した新作『サンライズ』にも入っており、ほかにもジョン・アバークロンビーやデヴィッド・ビニー等のグループで活動しています。彼はとにかく、反応が鋭い。ピアノとの呼応を聴いていると、いかに良い耳の持ち主であるか、いかに頭に浮かんだことを音に素早く移す才能に恵まれているかがわかります。トッドはリー・コニッツ、タイシャン・ソーリー、ジェラルド・クリーヴァーとの共演でも知られる精鋭。この日は、いわゆるクラシック・ギターをマイク収音(ピックアップは使用しない)で聴かせてくれました。弦をこする音、楽器の胴体にからだが触れる響きまでもが音楽の一部として機能しています。

演目はすべてインプロヴィゼーション(即興演奏)だったとのことです。ぼくが聴いたステージは、約90分の中で、6つの断章が披露されました。ピアノが主導権をとるナンバーがあれば、ベースから始まるナンバーもあり、ギターが雰囲気を設定するナンバーもあります。しかし、どれもが“音の会話”であることに変わりはありません。

公演は本日もあります。耳をすまし、身を乗り出して、3人の奏でる世界に没入してみてはいかがでしょうか。
(原田 2012 6.24)


● 2012 6.24sun.-6.25mon.
MASABUMI KIKUCHI TRIO
菊地雅章トリオ



MASABUMI KIKUCHI TRIO菊地雅章トリオ



2012/06/21

'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , BOB MINTZER BIG BAND - - report :BOB MINT...

ボブ・ミンツァー - BOB MINTZER
ボブ・ミンツァー - BOB MINTZER


公演初日リポート:
BOB MINTZER BIG BAND
with special guest KURT ELLING


バーデン・パウエル、パット・メセニー、ジョン・コルトレーンの曲が一同に会するライヴなど、いまだかつてあったでしょうか。あっと驚く名曲の数々を、最高にかっこいいアレンジとタイトなアンサンブルで聴かせてくれる凄腕集団、それがボブ・ミンツァー・ビッグ・バンドです。

イエロージャケッツのサックス奏者としても人気を集めるミンツァーですが、彼のもうひとつの活動の主軸には常にビッグ・バンドがあります。バディ・リッチやジャコ・パストリアスのビッグ・バンドにプレイや作編曲で貢献し、’83年頃に自身のビッグ・バンドを結成(確か最初はホーン・マン・バンドと名乗っていたはずです)。『カモフラージュ』、『インクレディブル・ジャーニー』あたりを、全フレーズを覚えこんでしまうぐらい聴き込んだというビッグ・バンド好きは世界中にいるはずです。『オマージュ・トゥ・カウント・ベイシー』では遂にグラミー賞を受賞し、“ミンツァー・ビッグ・バンドここにあり”を更に幅広いファン層へと印象づけました。

「ニューヨークとロサンゼルスから友人たちをたくさん連れてきたよ」と、MCでミンツァーは語りました。メンバーの大半は、ざっと見たところ彼と同世代でしょうか。あの激動の’70年代に、一緒に腕を磨いたであろう百選練磨のツワモノが揃っています。ドラムスはジャコ・ビッグ・バンドの同僚であり、スタン・ケントン、メイナード・ファーガソンのフルバンでも腕を振るった名手ピーター・アースキン。ピアノはイエロージャケッツの盟友、ラッセル・フェランテが担当します。サックス・セクションにはアルト・サックスのボブ・シェパードやテナー・サックスのボブ・マラックの顔も見えます。トランペットのボブ・ミリカンも含めて、“ボブ率”が高いのもミンツァー・バンドの特徴です。

プログラム中盤には、スペシャル・ゲストとしてヴォーカリストのカート・エリングが登場しました。アルバム『ライヴ・アット・MCG』でも共演していた両者ですが、いざ目前で味わうジョイントは格別です。カートは相変らずオシャレで、黒いシャツと紫色のポケットチーフがよく似合います。共演1曲目はパット・メセニーの「MINUANO」。これに歌詞をつけ、歌おうというのですから大胆不敵です。実に聴きやすく美しいメロディですが、いざ口ずさもうとなると半音のとり方が異様に難しいこのナンバーを、カートは易々と歌いこなします。しかも途中で音階を1オクターヴあげます。普通の男性ならキーが高すぎて声が出ず、ひっくり返ってしまうところでしょう。しかしカートはノリノリで、全身でリズムをとりながら歌いこなします。世界一流のプロの真骨頂を見せられたような気分です。彼はまた、ジョン・コルトレーン作「至上の愛」のパート2、「RESOLUTION」にも歌詞をつけて歌いました。

「ビッグ・バンドの公演ということは、ひょっとしてミンツァーのソロが少ないのかな?」とお思いの方もいらっしゃるかもしれませんが、その心配は無用です。太い音でテナー・サックスをバリバリと、たっぷり聴かせてくれます。アンサンブル・ファン、アドリブ・ファンの両方を満足させてくれるのが、ボブ・ミンツァー・ビッグ・バンドなのです。
(原田 2012 6.20)


● 6.20wed.-6.23sat.
BOB MINTZER BIG BAND
with special guest KURT ELLING



ボブ・ミンツァー - BOB MINTZER


2012/06/14

MIKE STERN - - report : MIKE ST...

MIKE STERN - マイク・スターン


公演初日リポート:
MIKE STERN BAND
featuring RANDY BRECKER, JOHN PATITUCCI & DAVE WECKL


ハーモニー、超絶プレイ、グルーヴ感、両ステージ違ったセットリスト、サイン会。。。どれも絶好調!!
マイク・スターン、ランディ・ブレッカー、デイヴ・ウェックル、ジョン・パティトゥッチのスーパー・ジャズ・フュージョン・ロックバンドは6.17sun.まで。


● 6.13wed.-6.17sun.
MIKE STERN BAND
featuring RANDY BRECKER, JOHN PATITUCCI & DAVE WECKL
☆ 参考:セットリストはこちら


マイク・スターン - MIKE STERN


2012/06/08

'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , JASMINE KARA - - report : JASMINE...

JASMINE KARA - ジャスミン・カラ
JASMINE KARA - ジャスミン・カラ


公演初日リポート:
JASMINE KARA
with DJs presented by "Good Music Parlor"
6.7thu. Hiroko Otsuka
6.8fri. Shuya Okino(Kyoto Jazz Massive)
6.9sat. DJ JIN(Rhymester)
6.10sun. DJ Mitsu The Beats(GAGLE/Jazzy Sport Crew)



北欧にものすごくソウルフルな若手女性シンガーがいるらしい。

ぼくがこの話をきいたのは確か、ことしの初めだったと思います。アルバム『Blues Ain't Nothing But A Good Woman Gone Bad』を聴いて、なによりもまず驚いたのが選曲のマニアックさと“男臭さ”。チェス・レーベルゆかりの曲を中心に歌っている、というところにもたまらなく興味を惹かれました。いわゆるブラック・ミュージックの名門レーベルはたくさんありますが、正直いってチェスのサウンドはモータウンやスタックスほどには日本で浸透していないような気がします。しかし“チェスのブルースやロックがなければローリング・ストーンズやビートルズの音楽性は変わっていただろう”といわれるほど、ロック界への影響は絶大です。

ジャスミン・カラは、チェス・レーベルの伝説的プロデューサーであるマーシャル・チェスの監修で、前述アルバムを完成させました。昔から筋金入りのソウル・ミュージック好きだったという彼女にとって、マーシャルとの出会いはまさに“神イベント”だったはずです。ライヴの前半では、彼に捧げた新曲「I LOVE U」も聴くことができました。

今回の初来日公演は、『Blues Ain't Nothing But A Good Woman Gone Bad』からの曲が中心でした。大半がカヴァー・ヴァージョンです。「MY BABE」はリトル・ウォルター、「ORDINARY JOE」はテリー・キャリアー、「GRITS AIN'T GROCERIES」はリトル・ミルトンの歌で広まりました。この3人はいずれも、男気を濃厚に漂わせながら歌う芸風の持ち主です。
ジャスミンは、こうした“男歌”を、女性目線で表現します。彼女の力強い歌声、演奏することが楽しくてたまらないといった感じのバンド・サウンドに耳を傾けながら、「ははあなるほど、オリジナル・ヴァージョンのここがこういうふうになって、女性の歌になってゆくんだな」と、ぼくはひとりうなずいてしまいました。

エンディングではなんと、ダレル・バンクスのカヴァー「OPEN THE DOOR TO YOUR HEART」を聴かせてくれました。ダレルは1970年に32歳で亡くなった(警官に射殺された)男性シンガーで、Pファンク一党を組む前のジョージ・クリントンともつながりがありました。ぼくはこの「OPEN〜」の入ったアナログ盤を高校生の頃に入手し、それこそ穴があくほど聴きこんできました。「70年代にリトル・ミルトンがカヴァーしていたけれど、最近はとりあげられていないナンバーだな」と思っていたのですが、それがこの日のステージで聴けるとは!
もちろん「まだ原曲に馴染みがない」という方にも、ジャスミンのステージは思いっきり楽しんでいただけることと思います。なにしろイントロもメロディも、アレンジも本当にかっこいいのです。そして彼女には、とても華やかな存在感があります。

思いっきり高まりました。スウェーデンが生んだファンキー・レディのステージに接して、皆さんもぜひ、高まってください!!
(原田 2012 6.7)


● 6.7thu.-6.10sun.
JASMINE KARA
with DJs presented by "Good Music Parlor"
6.7thu. Hiroko Otsuka
6.8fri. Shuya Okino(Kyoto Jazz Massive)
6.9sat. DJ JIN(Rhymester)
6.10sun. DJ Mitsu The Beats(GAGLE/Jazzy Sport Crew)
☆ 参考:セットリストはこちら


JASMINE KARA - ジャスミン・カラ


2012/06/04

'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , JIM HALL - - report : JIM HAL...

ジム・ホール - JIM HALL
ジム・ホール - JIM HALL


公演初日リポート:
JIM HALL TRIO
with SCOTT COLLEY & JOEY BARON



この日を待ち望んでいました。

パット・メセニー、ビル・フリゼール、ジョン・スコフィールド、ジョン・アバークロンビー等、数え切れないほど多くの名手たちに影響を与えている“現代ジャズ・ギターの父”、ジム・ホール久々の来日公演です。今年で82歳とのことですが、その指先にまったく衰えはみられません。美しく幻想的なハーモニー、粒立ちの良いシングル・ノート(単音)、たとえようもなく豊かな歌心。ただただ聴きほれるしかない幸せな時間を味わわせていただきました。

プログラムは“ジム・ホール傑作集”というべき内容で、「BIG BLUES」、「CAREFUL」、「BEIJA FLOR」等、熱心なファンなら冒頭の1小節を聴いただけで「ああ、あの曲だ!」と声をあげるに違いないものばかりでした。しかし同じ曲を繰り返しプレイしても、常に新鮮な印象を与えるのがホールのすごいところ。こういう存在を本物の巨匠というのです。

現在のホールはスティーヴ・ラスピナ(ベース)〜テリー・クラーク(ドラムス)か、スコット・コリー(ベース)〜ジョーイ・バロン(ドラムス)と組むことが多いのですが、今回は後者のトリオ、つまり近作『Hemispheres』と同じメンバーによるパフォーマンスです。

コリーのプレイは堅実そのもの、バロンは主にブラッシュとスティックを巧みに使いわけながら御大のギターをサポートします。短いソロも聴かせてくれましたが、これほどメロディアスにドラムを叩く奏者は、ぼくの知る限りほかに故シェリー・マンがいるぐらいです。

ホールは演奏中、ギターについているトーン・コントロール(音量を調節するつまみ)をよくいじります。そして時折エフェクターを手で操作しながら、音色を変えてゆきます。その一方で「CHELSEA BRIDGE」のようなバラードでは、徹底的にボリュームを抑えながら、まるで睡眠中の赤ちゃんをそっと抱きかかえるような優しくて繊細なプレイを披露。水を打ったように静まり返った超満員のオーディエンスの間に、微妙なニュアンスに富んだギター・ソロが響き渡ったのは本当に感動的な情景でした。

ラストは“私の生涯の盟友、ソニー・ロリンズの曲だ”というMCから「ST. THOMAS」に流れ込みました。エフェクターを通した音色はまるでパット・メセニーのギター・シンセサイザーのようです。イントロ部分では「鉄道唱歌」(今も新幹線車内などで聴くことができます)のメロディを引用し、客席を沸かせます。ホールはこの曲を‘72年の傑作『ALONE TOGETHER』でも演奏していますが、そこにこのイントロは登場しません。しかし‘76年の来日公演以降、「ST. THOMAS」をプレイする時は必ずといっていいほど「鉄道唱歌」が挿入されます(先日、ぼくがニューヨークで彼のライヴを聴いたときにも出てきました)。
親日家ジム・ホールの、さらなる長命と御活躍を願ってやみません。
(原田 2012 6.3)


● 6.3sun.-6.6wed.
JIM HALL TRIO
with SCOTT COLLEY & JOEY BARON
☆ 参考:セットリストはこちら


ジム・ホール - JIM HALL