BlueNote TOKYO

'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , ERIC LEWIS - - report : ERIC LE...

2010/10/29

エリック・ルイス - ERIC LEWIS
エリック・ルイス - ERIC LEWIS


公演初日リポート:ERIC LEWIS


「ブルーノート東京」の店内に入るなり、客席の中央に配置されたグランド・ピアノが視界に飛び込んできます。蓋は取り払われ、中に張られている弦がむき出しになっています。しかし、どこを探しても椅子はありません。なぜなら、エリック・ルイスは椅子を使わず、右足を前に出して折り曲げ、左足を後ろに伸ばしながら、鍵盤に覆いかぶさるようにピアノを弾くからです。

ごった返す客席をかきわけるようにしながら、エリックはピアノの前に立ちました。両手ひじには銀のサポーターをしています。精悍な表情はまるで格闘家のようです。演奏の前に、彼はこう語りました。「私の演奏しているのは“ロックジャズ”なんだ。ジャズのインプロヴィゼーション(即興演奏)とハリウッド映画のエキサイトメントを加えながら、ロック・ソングをプレイするんだよ」そして、猛烈な勢いで「MR.BRIGHTSIDE」を弾き始めました。CD『ROCKJAZZ VOL.1』の冒頭にも入っていましたが、タッチの強さ、アクションの激しさを体感できるライヴで聴くのはまた格別です。うめき声をあげ、汗を飛ばし、ほぼ1曲ごとに水分補給をする姿は、まさにアスリート。

いわゆる電気的な音色の加工はしていませんが、「PAINT IT BLACK」ではピアノの弦に紙を挟んで琴のような音を出し、「HUMAN NATURE」では弦をミュートしてエレクトリック・ギターのカッティング(リズムを刻むこと)のような効果を出していました。「そうだ、ピアノは鍵盤楽器であると同時に弦楽器だったんだよな」と、改めて思い出させてくれた一瞬です。

最初の2,3曲を聴いたとき、失礼ながらぼくは「こんなに飛ばして、エリックの体力は果たして最後まで持つのだろうか」といらぬ心配をしてしました。しかしエリックはエンディングに向けてさらにテンションを高め、ニルヴァーナの「SMELLS LIKE TEEN SPIRIT」で大爆発、握手攻めにあいながらファースト・セットを終えました。もちろんその後にはセカンド・セットが控えています。30日まで毎ステージ、エリックは日本のファンを“ロックジャズ”という技で羽交い絞めにしてくれるに違いありません。

こういうスタイルの演奏家は世界を探しても他にいないでしょう。しかしエリックは新人ではありません。カサンドラ・ウィルソン、エルヴィン・ジョーンズ、ウィントン・マルサリスなどのバンドで活躍し、来日経験も少なくないので、ジャズ・ファンの間ではそれなりに知られていました(当時はもちろん、椅子に座ってピアノを弾いていました)。しかし彼は、正統派ジャズ・ピアニストとしての地位にあきたらなかったのでしょう。より幅広い音楽ファンに、自分のサウンドを伝えたかったのでしょう。
新生エリック・ルイスはまさしく、“ロックジャズ”に賭けているのです。
(原田 2010 10.26)

● 10.28thu.-10.30sat.
ERIC LEWIS


エリック・ルイス - ERIC LEWIS