BlueNote TOKYO

'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , ELDAR - - report : ELDAR

2009/10/03

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公演初日リポート : ELDAR


伸び盛りのアーティストのライヴに接するのは、実に気持ちがいいものです。新鮮な音を浴びると、全身の細胞が若返っていくような気がします。

今年22歳のピアニスト、エルダーのステージが本日まで行なわれています。
ぼくが彼の生演奏を体験するのは、これで4度目です。もう3年以上前になるでしょうか、初めてライヴに接したときの印象は、率直に言って、決してはかばかしいものではありませんでした。あまりの超絶技巧にゲップが出そうになった、というのが正直なところです。また、さまざまなタイプの曲がこなせて、ジャズ・ピアノの歴史をそのままかかえこんだように多彩な奏法をみせるのはいいとしても、なんというか、技の博覧会を強引にみせつけられた、という印象も持ちました。そのときはスタンダード・ナンバーを数多く演奏していましたが、せっかくの美しいメロディやコードが、テクニックを優先するあまり、ないがしろにされているのではないか、とも思いました。

が、それはもう過去の話といっていいでしょう。なにしろ伸び盛りのアーティストなのです。エルダーは短期間で、驚くほどのスケールの大きさを身につけました。持ち前の技巧をフルに生かしながらも、それを無理なく包み込む雄大な曲を書き、固定メンバーとのバンド・サウンドを確立しました。もともとテクニックにおいては抜きんでているのですから、こうなれば鬼に金棒です。

1曲目「EXPOSITION」の出だしを聴いてすぐに、ぼくは「エルダー、また一段とすごくなったな!」と叫びたくなりました。音楽に対する視野がますます広がり、プレイする楽しさがピアノ全体から飛び散ってくるかのようです。アルマンド・ゴラの地を這うエレクトリック・ベース、ルドウィッグ・アフォンソのオクトパス・ドラミングとの絡み合いは、会話であると同時に討議であり、鋭く美しいアンサンブルです。ほとんど曲間なしで続けられた「BLUE SKETCH IN CLAVE」にも参りました。それぞれが別々のリズムを生み出しながら、巨大なラグビーボールが超高速で転がっているようなウネリを生み出して演奏をクライマックスに導く。意表をつくハーモニーと、妙に叙情的なメロディ・ライン。こんなピアノ・トリオ、聴いたことがありません。

でもこの2曲は、彼らにとってはまだプレリュードに過ぎなかった、ということを、ぼくは「THE EXORCIST」で知ることになります。エルダー本人の説明によると、この曲は21拍子とのこと。もっとも聴く側にとっては、それが何拍子であろうが関係ありません。肝心なのは演奏の質なのですから。が、このグルーヴ感は、なんなのでしょう。踊れる拍子であるわけがないのに、体が自然に揺れ、足でリズムをとらずにはいられません。

それにしても、痛快なライヴでした。天才、神童といわれて久しいエルダーですが、ぼくにとって彼は、いや、アルマンドもルドウィッグも、“グルーヴ・モンスター”です。
(原田 2009/10/2)



● 2009 10/2 Fri.-10/3 Sat.
ELDAR



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