【JAM vol.243】MARCUS GILMORE
text = Mitsutaka Nagira
彼の存在抜きに21世紀のジャズは語れない
ジャズの歴史を見てみると、ドラマーが生み出す新たなリズムが時代を作ってきたのがわかる。アート・ブレイキーやマックス・ローチ、トニー・ウィリアムスやエルヴィン・ジョーンズらの名前をあげるまでもなく、どんな時代でも変革には偉大なドラマーの名演が必須だった。そんなことはジャズ史の常識なので、ドラマーが重要だなんて話をわざわざするのが野暮なのは僕だってわかっている。それでも21世紀以降のジャズにおけるドラマーの貢献が特筆すべきものだったことは間違いないだろう。クリス・デイヴ、マーク・ジュリアナ、ケンドリック・スコット、ネイト・スミス、マカヤ・マクレイヴン、優れたドラマーが次々に現れ、それぞれが刺激的なドラムを叩き、名盤に貢献してきた。
そんな中でもマーカス・ギルモアは独自の立ち位置にいるドラマーだ。レジェンド・ドラマーのロイ・ヘインズの孫として知られる彼は20歳ごろからスティーヴ・コールマン周辺の"M-Base"と呼ばれるコミュニティでの活動を通じて注目を浴びた逸材だった。若き日から高度かつ難解なリズムを扱うミュージシャンたちとの活動を繰り返しながら、自身の音楽性を確立していった。なかでもM-Baseの看板アーティストであり、21世紀のジャズにおけるリズムの在り方に絶大な影響を与えたピアニスト、ヴィジェイ・アイヤーの代表作とも言える傑作群に貢献し、キャリア初期の時点でジャズ史にその名を刻んだ。

ここまで聞くと、アヴァンギャルド寄りのドラマーだと思われそうだが、ヴィジェイ・アイヤーの音楽の中には2010年代のトレンドに繋がる部分も含まれていた。フライング・ロータスをカヴァーし、デトロイト・テクノへのオマージュを捧げるなど、彼の音楽にとってエレクトロニック・ミュージックへのアプローチも重要なポイントだった。そのカギとなるビートを担っていたのがマーカスだった。つまり、高度で複雑なリズムのアプローチのみならず、エレクトロニック・ミュージックの人力化を実現できる感性も兼ね備えていた。だからこそ、マーカスはフライング・ロータスのレーベル、〈Brainfeeder〉のカタログの中でも屈指の傑作、テイラー・マクファーリンの『Early Riser』でも重要な役割を担えたわけだ。
複雑なリズムを操り、小節線や拍子に対する概念を自由に書き換え、その上でハイブリッドな音楽にも対応する。そんなマーカスの存在は後のドラマーたちに多大な影響を及ぼしてきた。後継のジェレミー・ダットンやクウェク・サンブリー、ケイヴォン・ゴードンといった新鋭たちのドラミングを聴けば、それを感じることができるだろう。ハイブリッドもオーセンティックもアヴァンギャルドもジャズのあらゆる領域で新たなアプローチを提示してきたマーカスの存在抜きに21世紀のジャズを語ることは不可能だ。だからこそ、チック・コリアのような巨匠から、クリス・ポッターやアンブローズ・アキンムシーレ、サリヴァン・フォートナーまでもがマーカスのドラムを求めてきたわけだ。

そんなマーカスは自身のリーダー作は発表してこなかった。しかし、2025年、突如ヴィレッジ・ヴァンガードでのライヴ録音『Journey To The New:Live at the Village Vanguard』をBandcampでリリース。自身のオリジナル曲を含むこのアルバムは、エレクトロニクスやウィンド・シンセサイザーのサウンドも聴こえてくるもので、これまでマーカスが行なってきたさまざまな音楽性が凝縮されている。マーカスが実験的な音楽に挑む際の盟友とも言えるダヴィ・ヴィレージェスとのコンビネーションや、モーガン・ゲリンやエマニュエル・マイケルら新鋭の好演もあり、このアルバムは多くのメディアで大絶賛された。ブルーノート東京でのマーカス・ギルモア名義での初来日公演は、まさにこのライヴ盤のメンバーがほぼそのままやってくる。現在のNYのジャズ最先端を体感できる貴重な機会だ。見逃すわけにはいかない。
RELEASE INFORMATION
『Journey to the New:
Live at the Village Vanguard』
LIVE INFORMATION
MARCUS GILMORE
"Journey to the New"
2026 6.20 sat., 6.21 sun.
[1st]Open3:30pm Start4:30pm
[2nd]Open6:30pm Start7:30pm
https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/marcus-gilmore/
<MEMBER>
マーカス・ギルモア(ドラムス、パーカッション)
モーガン・ゲリン(EWI)
ダヴィ・ヴィレージェス(ピアノ)
エマニュエル・マイケル(ギター)
ラシャーン・カーター(ベース)
