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BILL FRISELL TRIO featuring RUDY ROYSTON & THOMAS MORGAN

artist BILL FRISELL

REPORT

原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO

時代もジャンルも超えて音楽を愛するマインドと、それらを完璧なまでに自らの色に染めてしまう唯一無二の個性。このふたつを兼ね備えた稀代のギタリスト、ビル・フリゼールのブルーノート東京公演が昨日から始まりました。共演はトーマス・モーガン(ベース)、ルディ・ロイストン(ドラムス)という、2017年と19年の公演でも見事なコンビネーションを届けてくれた面々。不動の顔ぶれでありながら、出てくる音世界がすこぶる新鮮なのも、このトリオのたまらない魅力です。"その場で瞬時に生まれる化学反応を、本当に心から歓迎し、楽しんで演奏しているのだな"と、私はステージ上での3人の生き生きした表情を見て実感しました。

今回の3デイズ・6セットのために、フリゼールは30曲を超えるリストを用意しています。この中からどれが演奏されるのか、そしてリストにない何かが飛び出すことがあるのか、それはおそらく、彼がバンドスタンドに立って、ギターのストラップを肩にかけた瞬間に決まるのでしょう。超満員の観客が"何を演奏するのだろう"とかたずをのむ中、初日のファースト・セットはリスト外のジョージ・ガーシュウィン作「My Man's Gone Now」から始まりました。以降、ラストの「La-La Means I Love You」(ソウル・ミュージックのヴォーカル・グループ、デルフォニクスの大ヒット曲)まで、70数分にわたって演奏がノンストップで続きます。時にルーパーを用いたフリゼールのプレイは、ニュアンスに富んだ音色、"次はどこへ案内してくれるのか"とわくわくさせてくれるような即興の展開、どちらも惚れ惚れさせられるばかりです。前の曲から次の曲へ移ってゆくときの、なんというか、クロスフェイドしていくような感じもまた絶品というしかなく、デューク・エリントンの「Far East Suite」の一部である、しみじみとした「Isfahan」(エリントン版ではジョニー・ホッジスが絶品のサックス演奏を聴かせてくれました)が、いつの間にか、ジャズ・ファンの間ではソニー・ロリンズの演奏で知られているであろう陽気な「I'm An Old Cowhand」に移り変わっていくあたり、マジックを目の当たりにしているような気持になりました。

曲の移り変わりはフリゼールにまかせられているようですが、トリオの関係は対等というべきものです。フリゼールが示した議題(楽曲)に基づいて、3人全員が楽しげに音の会話を弾ませている感じでしょうか。全員がそれぞれ他のミュージシャンの音を注意深く聴きながら、絡み合うようにして演奏を前進させていくのです。これぞアコースティック・ベースという感じのモーガンの温かな音色と美しいイントネーション、抑え気味に叩くところでもしっかり"よく通るドラムスの音色"を醸し出すロイストンのマレット/スティック/ブラッシュ・プレイがまた、手放しで称賛したくなる素晴らしさです。全員がソリストとアカンパニストを絶えず同時にこなしている--------彼らのライヴに久々に接して、私はそう印象を新たにしました。

集中力みなぎるノンストップのステージは、各駅停車の旅というよりも、目的地への直行便といったところ。それだけに最後の一音が消え去った時のカタルシスは半端ではありません。シートベルトを締める必要などなく、ただただ飲食と共に、演奏に身を任せるだけで体験できる極上の"音楽旅行"は、17日が最終日となります。
 
(原田 2025 10.16)

Photo by Yuka Yamaji

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【LIVE INFORMATION】

BILL FRISELL TRIO
featuring RUDY ROYSTON & THOMAS MORGAN
10.15 wed., 10.16 thu., 10.17 fri. ブルーノート東京
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