【スペシャル・インタビュー】SARATHY KORWAR | News & Features | BLUE NOTE TOKYO

News & Features

【スペシャル・インタビュー】SARATHY KORWAR

【スペシャル・インタビュー】SARATHY KORWAR

Interview & text = Mitsutaka Nagira

Interpretation = Emi Aoki

アヌーシュカ・シャンカールの最新作をプロデュース
サラシー・コルワルとは何者なのか

アヌーシュカ・シャンカールが久々の来日公演を行う。そのステージに参加するのが、最新プロジェクト「Chapter」三部作の完結編『Chapter III: We Return to Light』でプロデューサーを務めたサラシー・コルワルだ。

READ MORE

 インドにルーツを持ち、イギリスを拠点に活動するコルワルは、タブラ奏者としてインド音楽に深く精通する一方、ジャズ・ドラマーとしても活動し、さらにエレクトロニクスやプロダクションまで自在に操る音楽家だ。ジャズ、インド音楽、エレクトロニック・ミュージックを横断してきた彼だからこそ、アンビエントやミニマル・ミュージックへと踏み込みながらシタールの新たな可能性を探った「Chapter」シリーズにおいて、重要な役割を担うことになったのだろう。

 今回の来日を前に、そのサラシー・コルワルに話を聞く機会を得た。アヌーシュカとの出会いと『Chapter III』の制作について語ってくれた。

――アヌーシュカ・シャンカール(Anoushka Shankar)の『Chapter III: We Return to Light』では、あなたがプロデューサーを務めています。彼女とはどのように知り合い、この作品ではどんな役割を果たしたのでしょうか?

 僕たちは2021年から一緒に演奏しています。僕が彼女のバンドに参加するようになったんです。でも、それ以前から彼女は僕のライヴを観に来てくれていました。『More Arriving』のころにもクラブでのライヴに来てくれていて、そこから友人になりました。

 僕にとってアヌーシュカは、10歳くらいのころにインドで演奏している姿を観たことがあるような人です。だから最初は、自分とは別世界にいるような大きな存在でした。「目の前にアヌーシュカ・シャンカールがいる! すごい!」みたいな感じで(笑)。

 でも、友人として、ひとりの人間として彼女を知るようになると、じつは好きな音楽がかなり重なっていることに気づきました。しかも彼女の音楽の好みは、僕が想像していた以上にずっと先鋭的(left-field)だったんです。

SarathyKorwar-20261009_image01.jpg

 今回、彼女はアラム・カーン(Alam Khan)と僕と3人で作品を作りたいと考えていました。実際に3人で演奏してみると、僕にはこの音楽をどこへ向かわせるべきか、どんなサウンドに仕上げるべきかというイメージがかなりはっきり見えた。それで僕のほうから、「もしよければ、このレコードをプロデュースさせてもらいたい」と提案したんです。アヌーシュカは僕の音楽を知っていたし、僕がどんなものを持ち込むのかもわかっていたんだと思います。だから任せてくれたんでしょうね。制作方法としては、彼女にとっては少し変わったやり方だったかもしれないけど、僕にとっては普段通りでした。

 まず、みんなで同じ部屋に入って即興的に演奏する。僕はアンサンブルで音楽を作るとき、そこから面白い部分を切り出したり、組み合わせたりして形にしていくことが多いんです。必要ならオーバーダブも加える。でも、出発点にあるのはあくまで、その場で一緒に演奏した音楽です。

 『Chapter III』もそうやって作りました。すべての曲が同じライヴ・セッションから生まれていて、その素材を僕が編集し、シンセなどの音を重ねながら仕上げていったんです。

Anoushka Shankar - 'Daybreak' (Live with Alam Khan)

――そこから具体的には、どんな編集やオーバーダブを加えていったのでしょうか?

 何をやったかな(笑)。かなり変わったやり方で録音しましたよ。僕たちはツアーに出ていることが多かったので、オーバーダブも、そのとき手元にあるものを使って録ることが多かったんです。

 たとえば、椅子の端にマイクを縛り付けて録音したり(笑)。「これはアヌーシュカ・シャンカールのレコードなんだから、もう少しちゃんとした音で録ったほうがいいんじゃないか」と思ったりもしましたけど、実際には安いマイクを椅子に付けて口琴を録ったりしていました。

 だから、みんなが想像している以上にDIYな作品なんです。僕自身、もっとDIYな環境から出てきた人間なので、それも楽しかった。Abbey Road Studiosみたいな大きなスタジオで、豪華な機材を使って作ったわけではありません。でも、もともとの演奏が本当に素晴らしかったので、それで十分だったんです。

SarathyKorwar-20261009_image02.jpg

 プロダクションでは、シタールの小さな断片を切り出して逆再生したり、ディストーションを加えたりもしました。普段、自分の作品でシンセやサックスを加工するのと同じような感覚で、シタールもひとつの音素材として扱ったんです。

 最初はアヌーシュカに聴かせるとき、「さすがにこれはクレイジーすぎると言われるかもしれない」と思っていました(笑)。でも、彼女はものすごくオープンでした。嫌がるどころか、「もっとやって」と、さらに先へ行くように僕を後押ししてくれたんです。
僕は最初、「これはアヌーシュカ・シャンカールのレコードであって、僕のレコードではない」ということをかなり意識していました。でも考えてみれば、僕らしいサウンドを求めていなかったら、そもそも彼女は僕にプロデュースを任せなかったはずですよね。

 だから、自分のやり方を持ち込みながらも、それが僕の作品になりすぎないようにする。そのバランスを探りながら作っていきました。実は、他のアーティストの作品を丸ごとプロデュースしたのはこれが初めてだったんです。すごく楽しかったし、いい経験になりました。

Anoushka Shankar 'We Return to Love' (Live with Alam Khan)

――今度はアヌーシュカのバンドの一員として日本でライヴを行います。長く一緒に活動してきたあなたは、彼女の音楽のどんなところを特別だと感じていますか?

 僕は彼女の音楽をずっと聴いてきましたし、彼女は本当に素晴らしいソングライターだと思います。アヌーシュカについて考えるとき、どうしても彼女自身が受け継いできた伝統や、父親のラヴィ・シャンカールにまつわる歴史に目が向きますよね。それはあまりにも大きなものなので、僕たちはつい当たり前のように受け止めてしまう。でも彼女のすごいところは、そうした伝統や歴史を背負いながら、自分自身の音楽的な声(voice)を見つけたことだと思います。彼女は自分のやり方で、自分自身のキャリアを築いてきた。それは本当にすごいことです。

一緒に活動していると、彼女が音楽についてどう考えているのかを間近で見ることができます。それも僕にとってはすごく刺激的です。それに、彼女の音楽的な影響源はものすごく幅広い。もちろんインド古典音楽は重要だけど、それだけではありません。本当にいろいろな音楽を聴いているんです。

SarathyKorwar-20261009_image03.jpg

彼女のバンドで演奏すること自体もすごく面白いですよ。というのも、このバンドはある意味ではジャズ・バンドなんです。ウッドベース、ドラム、クラリネット、ローズ、そこにシタールが入る。演奏はかなりオープンになることもあるし、それぞれのソロもある。感覚としては、シタールを中心にジャズ・ミュージシャンたちが集まったバンドに近いんです。

だから僕自身、このバンドで演奏するのが本当に楽しい。もう5年以上一緒にやっているので、お互いがどう演奏するのかもよくわかっています。そういう関係ができているのも、このバンドのいいところですね。

 今回の日本公演もすごく楽しみにしています。じつは僕たち、同じ会場で3公演続けて演奏したことが一度もないんです。ツアーのように毎日移動するのではなく、同じ場所にいて、同じステージで何度も演奏する。それによって、いつもとは違うエネルギーが生まれるんじゃないかと思っています。すごくワクワクしています。

Anoushka Shankar - India Chapters Tour

LIVE INFORMATION

20261009fl

▶︎ANOUSHKA SHANKAR

2026 10.9 fri., 10.10 sat., 10.11 sun.
10.9 fri.
[1st]Open5:00pm Start6:00pm [2nd]Open7:45pm Start8:30pm
10.10 sat., 10.11 sun.
[1st]Open3:30pm Start4:30pm [2nd]Open6:30pm Start7:30pm
https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/anoushka-shankar/

<MEMBER>
アヌーシュカ・シャンカール(シタール)
サラシー・コルワル(ドラムス)
トム・ファーマー(ベース)
アルン・ゴーシュ(クラリネット)


柳樂光隆(なぎら・みつたか)
1979年、島根県出雲市生まれ。音楽評論家。DJ。昭和音楽大学非常勤講師。21世紀以降のジャズをまとめた世界初のジャズ本「Jazz The New Chapter」シリーズ監修者。共著に鼎談集「100年のジャズを聴く」など。
https://note.com/elis_ragina/n/n488efe4981be

★このインタビューのフルver.はnoteに掲載
https://note.com/elis_ragina/n/na7a7955f118a

RECOMMENDATION