【スペシャル・インタビュー】MARY HALVORSON
メアリー・ハルヴォーソンが語る、
アマリリス・セクステットが特別な理由
Interview & text = Mitsutaka Nagira
Interpretation = Emi Aoki
メアリー・ハルヴォーソンは、米「ダウンビート」誌の批評家投票でギター部門1位を今年も獲得し、これで10年連続の首位。さらに2026年はアーティスト・オブ・ザ・イヤーにも選ばれ、現代ジャズを代表する存在として、その評価を揺るぎないものにした。
その活躍はギタリストという枠には収まらない。自身が率いるアマリリス・セクステットは最優秀グループに選出され、作曲家部門でも2位にランクイン。演奏家、作曲家、そしてバンドリーダーというすべての側面で、現代ジャズの最前線を切り拓いている。
そんな彼女が、ブルーノート東京に初登場。自身のアマリリス・セクステットを率いて日本で公演を行うのは今回が初めてとなる。日本では実現の機会が限られる6人編成だけに、ギタリストとしてだけではなく、緻密なアンサンブルを生み出す作曲家、そして個性豊かなミュージシャンたちを束ねるバンドリーダーとしてのメアリー・ハルヴォーソンを体感できる、貴重な機会となるだろう。
今回のインタビューでは、そうした彼女の創作に焦点を当てた。近年の代表作『Amaryllis』『Cloudward』『About Ghosts』を通して追求してきた作曲やバンドづくりについて、じっくりと語ってもらった。

――まず、あなたのバンド "アマリリス・セクステット"について教えてください。
私は2020年からこのバンドをやっています。このバンドはパンデミックの中から生まれました。当時はずっと家にいなければならなくて、本当に落ち込んでいました。それなら新しいプロジェクトを始めるのがいいんじゃないかと思ったんです。そうすれば先の楽しみができますから。それで最初のアルバム『Amaryllis』のための曲を書きました。
そして、実際に演奏してみると、このバンドのメンバーや演奏者同士のケミストリーが本当に気に入りました。だから、このプロジェクトは続けていきたいと思ったんです。それ以来、『Amaryllis』『Cloudward』『About Ghosts』を作り、今は4枚目のアルバムに取り組んでいます。このバンドは私にとって本当に特別な存在なんです。
――最初のアルバム『Amaryllis』はどんなコンセプトで作ったのでしょうか?
私にとって、この作品は「演奏者たちのための作品」なんです。彼らが思いきり羽ばたけるような場を作ることがテーマでした。それまで自分のバンドではやっていなかったことを、このバンドでは始めました。それは「ソロを誰が演奏するかを決めないこと」です。作曲された部分があって、そのあとにソロのためのセクションがあっても、「ここは誰がソロを弾く」とは指定しません。演奏したいと思った人が前に出てソロを取れるようにしているんです。
そうすると、とても面白いことが起こります。人にはそれぞれ好きなタイミングがあるんですよね。たとえば、ある場面ではアダム・オファリルがその瞬間にソロを取るのが好きだから、いつもトランペット・ソロになることがあります。でも、1週間ツアーを続けていると、みんなが「少し変えてみよう」と思うようになる。すると、それまでトランペット・ソロだったところが、突然トロンボーン・ソロになったり、ギター・ソロになったりするんです。そうやって音楽が少しずつ形を変え、変化し、成長していく。そのやり方はとても面白いと思っています。何より大事なのは、大好きなミュージシャンたちに光を当てて、彼らが本当に自分自身を表現できる場所を作ることなんです。そして私は一歩引いて、あまりコントロールしすぎないようにしています。
――『Amaryllis』のために結成したセクステットは、その後も継続して活動しています。このメンバーをどのように選び、このバンドを組む際にどんなことを考えていたのでしょうか。
まず考えたのは「楽器ではなくミュージシャン」でした。私にとっては、長年一緒にやってきた仲間と、新しく共演する人たちを組み合わせることが大事でした。これは、私が心から尊敬している人たちの組み合わせでもあります。よく知っている人もいれば、まだそこまで深くは知らない人もいました。でも、一緒にうまくやれると分かっている人たちと、「この人の演奏は本当に好きだから、一緒にやってみたい」と思える未知の存在を組み合わせることは、とても大切だと思っています。そして、私の場合、その多くは直感なんです。この人ならきっといい、という感覚を信じて、そのまま進めています。

L to R:Nick Dunston(b) / Tomas Fujiwara(ds) / Mary Halvorson(g) / Adam O'Farrill(tp) / Jacob Garchik(tb) / Yvonne Rogers(p,synth)
――以前、『Amaryllis』は非常に多くのことが書き込まれていて、即興の余地がそんなに残されていない、というようなお話をされていました。『Amaryllis』では実際にどのくらいが譜面に書かれていたのでしょうか。
曲によって違いますが、実際にはかなり即興演奏があります。もちろん、それぞれの曲には作曲された枠組みがあります。その上で、そこにはかならずかなり自由に即興できる余地を設けています。私にとって、それはとても大切なことなんです。同じ曲を毎晩演奏していると、その楽しさの一つは「何が起こるか分からない」という驚きがあることです。だから私は、即興と作曲が混ざり合うことにずっと興味を持ってきました。
私が「以前より作曲された部分が多い」と言ったのは、おそらく人数の多い編成のために書くと、単純に書かなければならない声部が増えるからだと思います。そうすると、必然的に譜面に書かれた素材も増えます。それでも、演奏の中ではたくさん即興が起きるようにすることはつねに意識しています。
――トランペットとトロンボーンは、高い音域と低い音域という関係もあって、とても面白い組み合わせだと思います。この二つの組み合わせは、どのような効果を生むと思いますか。
あるトランペット奏者が客席で私たちのバンドを聴いて、「どうしてトロンボーンにあんな高い音を書いたの?」と言ったことがあります。私はできるだけ役割を入れ替えるようにしています。私の癖としては、トランペットがメロディを演奏して、トロンボーンがハーモニーを担当する形になりやすいんです。でも、その役割も意識的に入れ替えるようにしています。作曲するときには、「私はすでに何をやっただろう」「まだやっていないことは何だろう」と考えることがよくあります。そして、「次の曲ではどうすれば自分自身に新しい挑戦ができるだろう」と考えるんです。だから、トロンボーンがメロディを吹いて、トランペットがとても低い音域を演奏することもありますし、二人がユニゾンで演奏することもあります。私は二つのホーンのためにハーモニーを書くのがとても好きなので、ついそういう書き方をしてしまうのですが、一方でユニゾンも過小評価されていると思います。あるいは、長いセクションでどちらか一人だけが演奏するという方法もあります。そうやって余白を作りながら、いろいろな組み合わせを考えるようにしています。
でも結局のところ、私はこの二つの楽器が一緒に鳴ったときの音が本当に好きなんです。そして、その組み合わせからできるだけ多くの可能性を引き出したいと思っています。
――パトリシア・ブレナン(ヴィブラフォン)が抜けて、イヴォンヌ・ロジャース(ピアノ)が入りました。それについて聞かせてください。
パトリシアは自分自身の音楽に集中する時期になったんです。こういうことはときどきあると思います。その時、新しいヴィブラフォン奏者を入れることをずいぶん考えました。でも、「新しいヴィブラフォン奏者は入れたくない」と思ったんです。私自身が変化を求めるタイミングだったんですね。そして実際、その変化にはとてもワクワクしています。音楽にたくさんの新しい可能性をもたらしてくれると思っています。
そこで、ニューヨークの若いピアニスト、イヴォンヌ・ロジャースに参加してもらうことにしました。彼女はちょうど先週、ソロ・ピアノ・アルバムをリリースしたばかりの素晴らしいミュージシャンです。彼女にはピアノだけでなく、シンセサイザーも演奏してもらいます。すでに一度リハーサルをしたのですが、「これはすごい」と思いました。同じ楽曲なのに、ピアノとシンセサイザーで演奏すると、本当に新しい可能性がたくさん開かれるように感じたんです。じつはブルーノート東京での公演が、イヴォンヌとの初めてのライヴになります。だから本当に楽しみにしています。
――これまでの、あなたのギターとパトリシア・ブレナンのヴィブラフォンのコンビネーションと、これからのイヴォンヌのピアノやシンセサイザーとのコンビネーションでは、どのような違いが生まれてくると思いますか。
リハーサルをしていて面白いと感じたのは、ピアノとシンセサイザーという二つの楽器があることなんです。「ここではシンセサイザーが合う」「ここはピアノが合う」と弾き分けられるし、曲によっては、彼女がピアノとシンセサイザーを同時に演奏するものも1、2曲あります。
そもそも私はシンセサイザーも大好きなんですよ。昔からずっと惹かれてきた楽器の一つです。実際、『About Ghosts』では私自身も少しシンセサイザーを弾いています。シンセサイザーは音を長く伸ばすことができますし、パッドのようなサウンドを作ることもできます。そうすると、音楽にまったく違う種類のエネルギーが生まれるんです。一方で、ピアノも私にとっては本当にワクワクする存在です。というのも、自分のバンドにピアニストが入るのは今回が初めてなんです。これまでにもたくさんのピアニストと共演してきましたが、自分のバンドにピアニストを迎えたことはありませんでした。
私は昔から、ギターとピアノという組み合わせはとても過小評価されていると思っています。ピアニストのシルヴィ・クルヴォワジエ(Sylvie Courvoisier)とは長年デュオを続けていますし、私は昔からピアニストと演奏することが大好きなんです。だから今回の編成では、シンセサイザーとピアノが加わることで、このバンドにはこれまで以上にたくさんの可能性が生まれるような気がしています。それに、ある意味では新しい始まりのようにも感じています。新しい曲も書いているので、ライヴではまったく新しい作品も何曲か演奏する予定です。
――あなたはキャリアを通して毎作変わろうとしていますし、ずっと新しいことをやろうとしていると思います。それでも、作曲や曲を書くという面で、ずっとご自身の中に残り続けているものは何だと思いますか。
私の作曲のプロセスは、それほど大きく変わっていないと思います。いつもまずギターで即興することから始めます。そして、短いボイスメモとして録音したり、時には自分が弾いているものを鉛筆と紙で書き留めたりします。だから、いつも即興から始まり、ギターから始まります。そして、ある段階でコンピューターのプログラムに入力し、そこからレイヤーや声部を加えていきます。
おそらく作品が変化してきた理由は、曲を書く経験を重ねてきたことや、その時々で自分の頭が違う場所にあることだと思います。違うものを聴いているかもしれませんし、違うことについて考えているかもしれない。違う感情を抱いているかもしれません。そういうものが、作品を違うものにしているのだと思います。
――『Amaryllis』以降、かなり細部まで書き込む形で作曲することが増えたように思います。構造や全体の形式をそこまで詳しく書くことは、即興演奏家としてのあなたに何か影響を与えましたか。
私は即興するときにも、作曲的に考えていることが多いと思います。ソロを取るときには、理想的にはそこに構造や、何らかの論理があってほしいですよね。それは、譜面に書かれた素材を作曲するときの考え方と同じです。だから、ある意味では、その二つのプロセスはそれほど違いません。私は即興的に作曲しているとも思いますし、おそらく作曲的に即興しているのだと思います。
私にとっての課題は、即興のセクションをどのように作曲された部分と結び付けるか、そして即興をさまざまな形で発生させるにはどうすればいいかということです。いつも決まったフォームの上で即興するだけにはしたくありません。いつも完全なフリー・インプロヴィゼーションにもしたくありません。いつもヴァンプの上で演奏するだけにもしたくありません。いろいろな形にしたいんです。曲との関連性を保ちながら、さまざまな方法で即興を取り入れたいと思っています。
これはおそらく、こういう音楽を演奏している多くの人にとっての目標だと思います。でも、作曲された部分と即興された部分の違いが、本当には分からないようにできたら素晴らしいですよね。理想的には、聴いていても、どちらなのか分からないかもしれません。もちろん、分かることもあります。でも別の瞬間には、「これは作曲されていたのだろうか、それとも今その場で作ったのだろうか」と思う。そういうことができたときは、本当に面白いと思います。

――日本でのライブを楽しみにしています。
私もとても楽しみにしています。日本は特別な場所なんです。日本へ行くのが大好きですし、私がもっとも好きな旅先です。じつはここ数年、少しだけ日本語も勉強しているんですよ。私にとって日本は本当に大切な場所で、心から大好きな国なんです。
LIVE INFORMATION
▶︎MARY HALVORSON's AMARYLLIS SEXTET
2026 8.30 sun., 8.31 mon.
8.30 sun..
[ 1st ] Open 3:30pm / Start 4:30pm [2nd] Open 6:30pm / Start 7:30pm.
8.31 mon..
[ 1st ] Open 5:00pm / Start 6:00pm [2nd] Open 7:45pm / Start 8:30pm.
https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/mary-halvorson/
<MEMBER>
メアリー・ハルヴォーソン(ギター)
アダム・オファリル(トランペット)
ジェイコブ・ガーシック(トロンボーン)
イヴォンヌ・ロジャース(ピアノ、シンセサイザー)
ニック・ダンストン(ベース)
トマス・フジワラ(ドラムス)
- 柳樂光隆(なぎら・みつたか)
- 1979年、島根県出雲市生まれ。音楽評論家。DJ。昭和音楽大学非常勤講師。21世紀以降のジャズをまとめた世界初のジャズ本「Jazz The New Chapter」シリーズ監修者。共著に鼎談集「100年のジャズを聴く」など。
https://note.com/elis_ragina/n/n488efe4981be
★このインタビューのフルver.はnoteに掲載
https://note.com/elis_ragina/

