2025 12.30 tue., 12.31 wed. / 2026 1.2 fri., 1.3 sat.
EMMET COHEN TRIO
artist EMMET COHEN
原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO
俊英ピアニスト、エメット・コーエンのステージが昨日から始まりました。ブルーノート東京には3年連続の登場ですが、今回はカウントダウン・ライヴを含む8公演が開催されます。10月末まで行われていた人気配信番組「Live from Emmet's Place」での親しみやすいキャラクターはそのままに、至近距離で、いまこの瞬間、ピアノの鍵盤に指を走らせる彼を目撃できるのは実演ならではの快感です。「大好きな場所に戻ってこれて嬉しい」と語りながら、エメットは1曲1曲を大変な集中力でプレイしていきます。
共演者は、去る8月にセシル・マクロリン・サルヴァントのバンドでブルーノート東京に登場した中村恭士(ベース)、前回のエメットの来日公演にも参加していたジョー・ファーンズワース(ドラムス)。エメット、中村、ジョーの3人はジョーの最新アルバム『The Big Room』で顔を合わせていましたが、卓越したコンビネーションにはますます磨きがかかっているようです。中村のイマジネーションと逞しさに富むベース・プレイはもちろんのこと、スティック、ブラッシュ、マレット、手(ハンド・ドラム)を駆使しながらメロディアスに迫るジョーの打撃も極上。このふたりの生み出す"音の波"がよほど心地よいのか、エメットのピアノ演奏が持つレンジの広さも尋常ではありません。「こんなに弾きまくる彼も、こんなに音数を抑えて間を重視する彼も、これまで聴いたことがない」と私は思いました。中村とジョーの連携が、エメットを一層活気づかせているのでしょう。
今回の日本公演のために、トリオは約50曲のレパートリーを用意してきました。何がプレイされるかは、その日その時の音楽家のヴァイブレーションで決まるのではと思いますが、初日ファースト・セットのステージは、ミュージカル「My Fair Lady」からの「I've Grown Accustomed to Her Face」で始まりました。過去オスカー・ピーターソン、マッコイ・タイナー、ビリー・テイラー、アンドレ・プレヴィンなど幾多のピアニストがとりあげてきたラヴソングです。スロー・テンポで演奏されるのが定石のところ、ジョーのアプローチはサンバ風になったり、16ビート風になったりと実に多彩で細やか、しかも滑らかに変化していきます。そしてブラッシュからスティックに持ち替えるやいなや、エメットや中村と共に猛烈にスウィングするパートへと移行。単に4ビートでノリノリに演奏するだけではなく、途中、1950年代のアーマッド・ジャマル・トリオを彷彿とさせる細かな"キメ"も挿入しながら、この歴史的なミュージカル・ナンバーを再生していくのです。続く「Lion Song」はエメットの自作で、ストライド奏法的なアプローチも盛り込んだ、"ジャズ100年の歴史を奏でるピアニスト"と呼ばれる彼の真骨頂的ナンバー。その次には、キューバの作曲家エルネスト・レクオーナの「La Comparsa」、ジュディ・ガーランドの歌唱で広まった「The Trolley Song」が続きます。どちらも近年のジャズ界では顧みられていない楽曲かもしれませんが、こうした曲を粋なアレンジで、今の音楽として届けてくれるのもエメット・コーエン・トリオの素敵なところです。
ラストを飾ったのは、数あるデューク・エリントン・ナンバーの中でも最もポップなもののひとつ「Satin Doll」。何度も繰り返されるエンディングのパートには、このトリオのショウマンシップが見事に表れていました。オーディエンスが猛烈な拍手と声援で彼らを称えたのはいうまでもありません。本日(2ndショウではカウントダウンを開催)、1月2日、3日と、エメット・コーエン・トリオの公演は、さらなる高まりをみせていくことでしょう。
(原田 2025 12.31)
Photo by Tsuneo Koga
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【LIVE INFORMATION】
EMMET COHEN TRIO
2025 12.30 tue., 12.31 wed. / 2026 1.2 fri., 1.3 sat. ブルーノート東京

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