原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO

ビッグ・バンド・ファン、ラージ・アンサンブル・ファン、必聴必見のライヴが昨日から始まりました。計7度のグラミー賞ノミネート経験を持つアレンジャー/コンダクター、クリス・ウォルデン率いるパシフィック・ジャズ・オーケストラの初来日公演です。このオーケストラは、パフォーマンスと教育によって世界中のコミュニティを豊かにすることを目標として、2022年に設立されました。諮問委員会のメンバーには、デイヴィッド・フォスターやクインシー・ジョーンズらが名を連ねています。

メンバーには、テナー・サックスのブランドン・フィールズ、ギターのアンドリュー・シノウィック、トロンボーンのフランシスコ・トーレスやアンディ・マーティン、バリトン・サックスのケン・フィッシャーなどゴードン・グッドウィン率いるビッグ・ファット・バンドでも活動してきた面々、スライ・ストーンとの共演歴もあるトランペットのマイケル・スティーヴァー、ステップス・アヘッドに在籍したこともあるテナー・サックスのボブ・シェパード、ナタリー・コールとの来日経験も多いベースのエドウィン・リヴィングストンなどアメリカ西海岸を拠点とする凄腕がずらりと揃っています。クリス・ウォルデン自身のキャリアも実に華やかで、母国ドイツではピーター・ヘルボルツァイマーやジョン・アードレイ（元ジェリー・マリガン・カルテット）について学び、1996年の渡米後はクリストファー・クロス、マイケル・ボルトン、ダイアナ・クラール、クリスティーナ・アギレラらにスコアを提供。ロサンゼルス・フィルの指揮を担当したこともあります。そして'99年にはパシフィック・ジャズ・オーケストラの前身（といえると思います）、クリス・ウォルデン・オーケストラを結成しました。広い視野を持つ、音楽を知り尽くした人物が彼であるといっていいでしょう。

初日のファースト・セットは、デイヴィッド・フォスターがカルガリーで開催された冬季オリンピックに提供した「Winter Games」で幕を開けました。短い時間の中に各セクションのソリ、メリハリの利いたリズム、ブランドンのサックス・ソロが盛り込まれます。以降、プログラムは、古典的ナンバーにクリエイティヴなアレンジを施したものと、クリスによるオリジナル・ナンバーを程よくブレンドしながら続きます。ビッグ・バンド・スウィング黄金時代の1939年にチャーリー・バーネット・オーケストラがヒットさせた「Cherokee」は、山あり谷ありの多彩な展開となり（ジェフ・ドリスキルのアルト・サックスも出色）、オリヴァー・ネルソンが書いた「Stolen Moments」はファンキーなリズム・パターンを伴って躍動的に。ジョン・ウィリアムズが作曲した映画音楽「Star Wars」の解釈も、"この曲、こんなにジャズ向きだったのか"と再認識させられるほどサマになっていました。ステージ中盤ではクリスが書き下ろした三部構成の組曲「Film Noir」も披露されましたが、これまた細かに練りあげられたアンサンブル（個人的には80年代後半以降のビル・ホルマン、ボブ・フローレンスのリミテッド・エディションを思い出します）と、アーロン・ヤニクのトランペット、クリス自身によるフリューゲルホーンなどアドリブ・ソロの双方が楽しめる優れものでした。今後、クリスの作編曲をプレイする学生やアマチュア・ビッグ・バンドはどんどん増えていくのではないでしょうか。

公演は26日まで続きます。限りなくニュアンスに富むジャズ・オーケストラの世界を、ぜひ間近でお楽しみください。
(原田 2024 5.25)

Photo by Takuo Sato

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【LIVE INFORMATION】

PACIFIC JAZZ ORCHESTRA
directed by CHRIS WALDEN
2024 5.24 fri., 5.25 sat., 5.26 sun.　ブルーノート東京