原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO

メンバーがバンドスタンドに登場すると、超満員の客席から猛烈な拍手と声援が巻き起こります。本当に数多くのファンが、この日を待ち焦がれていたのです。

ブラジル・サンパウロ出身のピアニスト/ヴォーカリスト、イリアーヌ・イリアスの来日公演が盛大に始まりました。大の親日家としても知られている彼女ですが、2020年に予定されていた公演はパンデミック、2023年に予定されていた公演は怪我のために開催されなかったので、今回は、なんと6年ぶりの登場です。演奏者側、聴き手側双方の「会いたかった」という気持ちがひとつになった、実に心温まるステージでした。

オープニング曲は、ミュージカル「ラ・マンチャの男」からの「To Each His Dulcinea」。夫君のマーク・ジョンソン（ベース）、リオデジャネイロ生まれの気鋭ラファエル・バラタ（ドラムス）が織りなすパワフルなサポートに乗って、イリアーヌは流麗なピアノ・プレイを披露。このインストゥルメンタル曲に続いて始まった「Aquarela Do Brasil」（アリ・バホーゾが1939年に書いた古典。ジョアン・ジルベルトやエリス・レジーナも歌いました）からは、歌手としての魅力もたっぷり発揮します。そして、ここからはサンパウロ出身のギタリストであるリアンドロ・ペレグリーノも参加。アコースティック・ギターの繊細な響きと、ピアノの軽やかな音色が美しいハーモニーを描きます。グラミー賞受賞作品『Mirror Mirror』（2021年発表）からは、メキシコのシンガーソングライターであるアルマンド・マンザネーロの書いた「Esta Tarde Vi Llover」が届けられました。

ここまで、ステージ上で、ほぼ横並びの形で演奏していた4人ですが、続いてのコーナーでは、マークとラファエルが下手側に移動し、全員がイリアーヌを囲むような形でプレイされました。音量を絞りに絞った、すぐ目の前にいる人にそっと語りかけるようなパフォーマンスといえばいいでしょうか。ラファエルはスネア・ドラムひとつだけをブラッシュで奏で、全体の音響も限りなく"ナマ"です。「Você e Eu」から始まったパフォーマンスは大きな親密感をもたらすと共に、"静の美"を遺憾なく伝えてくれました。

メンバーが元の位置に戻ってからは一転、"動の世界"が広がります。このあたりの際立ったコントラストもまた、当ライヴの面白さといえましょう。映画「黒いオルフェ」からの「A Felicidade」、アントニオ・カルロス・ジョビン作「Só Danço Samba」といった古典が繰り広げられましたが、4人それぞれが触発しあいながら進む演奏ぶりは新鮮かつ刺激的で、後者におけるイリアーヌとラファエルのデュオ・パートは"白熱"という言葉にふさわしいものでした。

イリアーヌ、マーク、ラファエル、リアンドロの公演は21日まで続きます。イリアーヌとマークはまた、22日に開催されるブルーノート東京オールスター・ジャズ・オーケストラ directed by エリック・ミヤシロ公演にスペシャル・ゲストとして参加します。ジャヴァンとのコラボレーション楽曲「Sempre」も先日リリースされたばかりのイリアーヌ、その勢いは増すばかりです。
(原田 2024 5.20)

Photo by Yuka Yamaji

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【LIVE INFORMATION】

ELIANE ELIAS
2024 5.19 sun., 5.20 mon., 5.21 tue.　ブルーノート東京

BLUE NOTE TOKYO ALL-STAR JAZZ ORCHESTRA
directed by ERIC MIYASHIRO
with special guests ELIANE ELIAS & MARC JOHNSON
2024 5.22 wed.　ブルーノート東京