原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO

2024年のブルーノート東京は、"ジャズ・ソングバード"ことステイシー・ケントのステージから始まっています。

ステイシー、ジム・トムリンソン、アート・ヒラハラによる鏡開き（ステイシーはハッピも着用）のあと、さっそく披露されたのは「Under Paris Skies」。歌＋ピアノ＋サックスという、ベースもドラムも含まない異色の編成ではありますが、これがまた極上のコンビネーションを描きます。ヒラハラのピアノ・プレイは左手の使い方が多彩で、しかもリズミカル。そこに、メロディをしっとり歌い上げるステイシーのヴォーカルが乗り、夫君のジムが軽やかな音色でソロを吹いたり、オブリガートを挟みます。この3人が織りなす親密な世界に、オーディエンスの誰もが引き込まれたことでしょう。

「久しぶりにブルーノート東京に戻ってくることができて嬉しいです。最新作『Summer Me, Winter Me』からの曲、以前のアルバムからの曲、これからレコーディングする曲など、いろいろお楽しみください」というステイシーのMC通り、レパートリーは"オール・アバウト・ステイシー"と呼びたくなるほど多彩なものでした。ラストで、出世作といえる2001年発表『Dreamsville』からの「Hushabye Mountain」を聴かせてくれたことに嬉しさが倍増した古参ファンは私だけではないでしょうし、バート・バカラック作「Trains and Boats and Planes」や、ビーチ・ボーイズ（ブライアン・ウィルソン）の代表作のひとつ「God Only Knows」も、ステイシー流というしかない端麗な表現で届けてくれました。そしてミシェル・ルグランの楽曲からはスロー・テンポの「La valse des lilas」（フランス語歌唱）と快活なサンバ風の「Summer Me, Winter Me」という対照的ともいえる作品を選び、ここ十数年のステイシーの音楽世界に欠かすことのできないサー・カズオ・イシグロ（ノーベル文学賞受賞作家）作詞のナンバーも「Bullet Train」、「Waiter, Oh Waiter」、「I Wish I Could Go Travelling Again」等が歌われました。

サー・カズオ・イシグロ作詞のナンバーは、すべてジム・トムリンソンが作曲しています。MCでステイシーが"演奏家、作曲家、編曲家、プロデューサー、そして旦那"と紹介するように、とにかく多くの役割を担っているのがジムです。テナー・サックス、ソプラノ・サックス、フルート、アルト・フルート、どのプレイも清澄かつ品格に富み、徹底的に主役の歌を引き立てます。しかも今回はバック・ヴォーカリストとしても活躍、ステイシーと見事なハーモニーを紡ぎ出すシーンもありました。

ステイシー、ジム、ヒラハラの三重奏（唱）は5日まで開催されます。愛にあふれた至高のステージをぜひご堪能ください！
(原田 2024 1.3)

Photo by Yuka Yamaji

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【LIVE INFORMATION】

STACEY KENT
2024 1.2 tue., 1.3 wed., 1.4 thu., 1.5 fri.　ブルーノート東京