原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO

11月17日と18日の二日間にわたって、上原ひろみの２デイズ公演が開催されました。怪我のために来日不能となったイリアーヌ・イリアスのピンチヒッターとして、急遽決定したソロ・ピアノによるプログラムです。4人組の新プロジェクト"Hiromi's Sonicwonder"ではエレクトリック・キーボードも駆使した音作りで楽しませてくれる上原ひろみですが、ブルーノート東京におけるパフォーマンスは"アコースティック・ピアノによる独奏の魅力"を、これでもかと伝えてくれるものでした。

開演時間になると同時に、男性の声による、なんとも渋く、粋な場内アナウンスが耳に届きました。大ヒット・アニメ映画『BLUE GIANT』をご覧になった方ならニヤリとするに違いない言葉も散りばめられていて、一気に会場の空気が和みます。万雷の拍手を受けて上原ひろみが登場し、演奏し始めたのは2019年発表のソロ・アルバム『Spectrum』からの「Mr. C.C.」。映画監督/役者/プロデューサー/作曲家など多彩な顔を持つチャールズ・チャップリンに捧げられた一曲で、人形を主人公にしたユーモラスなミュージック・ビデオをご覧になった方も数多いことでしょう。上原のプレイはまるで、ピアノという巨大な猛獣を意のままに操っているかのようです。低音は迫力たっぷりの唸りをあげ、高音は強靭にしてきらびやか。ここぞというところでストライド奏法やブロック・コードが登場し、さらに私はエロール・ガーナー流のスタイル"ビハインド・ザ・ビート"のエキスも感じました。この一曲でオーディエンスの耳目をしっかり集めたあと、やはり『Spectrum』から、今度は抒情的な「Once in a Blue Moon」へ移りゆきます。アルバムに録音してから現在に至る4年のあいだに、この楽曲にはさらなる厚みと幅の広さが加わったといっていいでしょう。ヴァリエ―ションの豊かな展開はまさに、"いま、ここにしかない音楽"を創造することを心がける上原ひろみの姿勢の現れです。後半では、今年2月公開のアニメ映画『BLUE GIANT』のために書き下ろされたタイトル・ナンバーも演奏されました。サウンドトラックではサックス、ドラムとの三重奏でプレイされていたこの曲を、ソロ・ピアノで楽しめたのもまた、嬉しいサプライズでした。

が、それ以上のサプライズがアンコールで起こりました。各セットに、異なるゲストが呼び込まれたのです。私が足を運んだ17日のセカンド・ショウでは、タップダンサーの熊谷和徳が登場。ジョン・コルトレーンの「Giant Steps」を素材に、熱狂的なインプロヴィゼーションが展開されました。ほか、17日のファースト・ショウにはヴァイオリン奏者の西江辰郎、18日のファースト・ショウにはトランペッターのアダム・オファリル、セカンド・セットにはベーシストのアドリアン・フェロー（このふたりは"Hiromi's Sonicwonder"のメンバー）が上原ひろみとの共演を繰り広げました。

昨年12月開催の"SAVE LIVE MUSIC FINAL"以来となる上原ひろみの「ブルーノート東京」公演は、圧倒的な興奮と余韻を残して終了しました。と同時に、"Hiromi's Sonicwonder"によるツアーを経たのち、今度はいかなる進化を遂げてこのクラブに戻ってくるのか、私は早くも楽しみになってきています。
(原田 2023 11.20)

Photo by Takuo Sato

―――――
【LIVE INFORMATION】

上原ひろみ ～ソロ～
2023 11.17 fri., 11.18 sat.　ブルーノート東京

上原ひろみ Hiromi's Sonicwonder
JAPAN TOUR 2023 "SONICWONDERLAND"