原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO

「日本の"ホーム"であるブルーノート東京に、久しぶりに戻ってくることができて嬉しいよ」。

ニューオリンズ出身の鬼才チーフ・アジュア（formerlyクリスチャン・スコット）は、ステージ上でこう語りました。登場は、2016年10月以来、およそ7年ぶり。その間に彼はジャズ100周年をテーマとする3部作『The Centennial Trilogy』、『Ancestral Recall』、そして「ブルーノート・ニューヨーク」で収録された驚愕のライヴ盤『Axiom』をリリースし、ひりひりするほど刺激的なバンド・サウンドと闇を切り裂くようなトランペット（厳密には"サイレン"、"シレネット"、"リヴァース・フリューゲル"）の響きでさらなる存在感を印象づけました。この夏に発売されたばかりの最新作『Bark Out Thunder Roar Out Lightning』では弦楽器"Adjuah's Bow"や自身の歌声を大きくフィーチャーしていましたが、今回の来日ステージではもちろん、トランペット類のプレイもたっぷり聴かせてくれます。

Adjuah's Bowは、西アフリカの弦楽器であるコラやンゴニにインスピレーションを受けて、アジュアが考案した新楽器です。ステージ前半ではニュー・アルバムから、タイトル曲の「Bark Out～」や「Blood Calls Blood」などがアジュアの"弾き語り"によって演奏されました。VOXアンプから放たれる開放弦の音色は鋭利であると同時に、たまらなく神秘的です。そしてアジュアの爪弾き＋ヴォーカルに、セシル・アレキサンダーのギターが縦横無尽に絡みます。昨年、カート・ローゼンウィンケルのレーベル"ハートコア"からアルバム『Introducing』を出しただけに、彼を目当てにして来場したファンも少なくないはずです。コード・カッティングやオブリガートという考えを軽く飛び越えたアプローチと言えばいいでしょうか、アジュアの歌声にこれでもかと絡み、刺激を与えていくのです。それをどっしりと支えるのが竹永龍馬（アコースティック・ベース。9歳からこの楽器を始めたそうです）、2種のハイハットやアフリカの打楽器を含む独自のセットで演奏するエレ・ハウエル（ドラムス。2歳からこの楽器を始め、6歳でアジュアに出会いました）。アジュアによると、竹永は19歳、ハウエルは23歳とのこと。かつて叔父のドナルド・ハリソンなど、数多くの先輩ミュージシャンにフックアップされてきた彼が今、次世代の才能を起用し、さらに自身の音作りを拡張している姿には、胸のすく思いがします。

ステージ中盤からは、ブラス奏者としてのアジュア―の凄みが輝きます。楽器メーカー"アダムス"との提携によって生まれた楽器類を持ち替えながら、2015年作品『Stretch Music』からの「West of the West」、2020年作品『Axiom』からの「Songs She Never Heard」などを快演。ハービー・ハンコックが1960年代に書いた「The Eye of The Hurricane」にも取り組んで、"俺たちの感性でモダン・ジャズに取り組むと、こうなるんだ"という声が聞こえてきそうなパフォーマンスも届けてくれました。先ほどブルーノート東京に登場したマカヤ・マクレイヴンといい、ダニー・マッキャスリンといい、それぞれがそれぞれの手法でジャズを活性化させているのは頼もしい限りです。チーフ・アジュア（formerlyクリスチャン・スコット）、必見必聴の公演は13日まで！

(原田 2023 9.12)
Photo by Makoto Ebi

【LIVE INFORMATION】
CHIEF ADJUAH (formerly CHRISTIAN SCOTT)
9.11 mon., 9.12 tue., 9.13 wed.