原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO

"管体が鳴りきっている"としか表現しようのない肉厚な音色、尽きることのないアイデアに彩られたアドリブ、痛快なほど歯切れ良いタンギング、なまめかしいサブトーン。クリス・ポッターのプレイを聴くごとに「ジャズ・サックスって、こんなに表情豊かで、わくわくさせてくれるものなのか」と再確認してしまうファンも多いことでしょう。

パット・メセニー・ユニティ・グループやスティーリー・ダンに在籍し（デイヴ・ホランド・クインテットやポール・モチアンのバンドでの演奏も鮮やかでした）、リーダー・アルバムもコンコード、サニーサイド、ECMなど名門レーベルから数多く発表。四半世紀以上にわたって黄金の響きでジャズ界を活気づかせているクリスが今、単身日本にやってきて、精鋭たちとの共演を「ブルーノート東京」で繰り広げています。昨日の公演タイトルは、「クリス・ポッター meets 井上銘、須川崇志＆石若駿 "Front Line of Jazz"」。確固たるヴォイスを持つ4人の勇者たちが一堂に会した、ワン・ナイト・オンリーのステージです。

プログラムは「Train」（ニューヨークのジャズ・クラブ「ヴィレッジ・ヴァンガード」でのライヴ盤『Follow The Red Line』収録曲）や隠れ名盤『Sundiata』からの「Fear of Flying」などクリスの楽曲に加え、井上が書いた「Taiji Song」「The Lost Queen」や、石若が書いた「Playgroundz」も含む多彩な内容。テナーはいうまでもなく、ソプラノのまろやかな響きも絶品でした。「この才人たちならではの解釈で、スタンダード・ナンバーを聴いてみたい」という向きには、「Body and Soul」が強く心に訴えたことでしょう。1930年代に"ジャズ・テナーの父"ことコールマン・ホーキンスが決定的名演を残し、スタン・ゲッツ、ソニー・ロリンズ、ジョン・コルトレーン、マイケル・ブレッカーなど歴代の名手も取り組んできた"テナー奏者の必須曲"というべきバラードです。イマジネーションに富む井上のアドリブ・ソロの最後のフレーズをクリスはそのままテナーで繰り返し、テーマ・メロディに移行したかと思えば、「まだまだ伝えたいことがあるんだ」とばかりに、燃えあがるようなカデンツァ（即興的な独奏）を1コーラス以上にわたって展開します。楽器のほうから喜んで音を出しているかのような離れ業に酔いしれていると、それがいつしか「Good Hope」のイントロへとつながっていきます。クリス流アフロビートと呼びたくなるようなキャッチーな楽曲を4人は、この日が初顔合わせだったとは思えないほど緻密なコンビネーションで届けてくれました。

本日24日と明日25日は、いよいよエリック・ミヤシロ率いるブルーノート東京オールスター・ジャズ・オーケストラの共演ステージです。それぞれ「コンテンポラリー」、「アコースティック」というテーマで行なわれるとのことで、ジャズの歴史を体で知っているクリス（彼は活動初期に、マリアン・マクパートランドやレッド・ロドニーなど1930～40年代から演奏していた大ベテランの薫陶を受けています）の奥深さが、これでもかと味わえるひとときになることでしょう。至高のジャズ・サックス体験を、ぜひご満喫ください。
(原田 2022 11.24)

Photo by Yuka Yamaji

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【LIVE INFO】

クリス・ポッター meets ブルーノート東京オールスター・ジャズ・オーケストラ directed by エリック・ミヤシロ
2022 11.24 thu., 11.25 fri.
[1st]Open5:00pm Start6:00pm　[2nd]Open7:45pm Start8:30pm
※各日でショウの内容/テーマが異なります。
11.24 thu. "Contemporary" / 11.25 fri. "Acoustic"