ボサノヴァとラヴァーズ。
久保田利伸、初のブルーノートで6日間の「熱唱」。

　久保田利伸にとって初のブルーノート東京のステージ。「アリーナやホールでのコンサートとは、またひと味違う久保田利伸が味わえるはず」......そんな「特別な6日間」への期待を意識したであろう今回の趣向は「Bossa & Lovers Rock Night」。1991年にParallel World I『KUBOJAH』を、そして2013年にParallel World II『KUBOSSA』をリリースし、加えて折々の作品でボサノヴァ、レゲエ、さらにはワールド・ミュージックと、幅広い音楽愛を表現してきた彼。独特の鋭いリズム感覚と、特にバラーディアーとしての業（わざ）が混ざり合った世界は、R&B／SOUL／HIP-HOPの潮流と並行して、もうひとつの「快感」を残してくれている。

　場内の明かりが落ちて、精鋭バンド・メンバーが登場。ボサノヴァの世界的拡散を象徴する「Mas Que Nada」の軽快な演奏にのって久保田利伸がステージに。そのボサノヴァのグルーヴのまま『KUBOSSA』にも収録されていた名曲のカヴァー「The Shadow Of Your Smile」。そして「LA・LA・LA LOVE SONG」のボッサ・ヴァージョン。2020年3月に他界したビル・ウィザースの「Lean On Me」をラヴァーズ・ロック・スタイルで披露して、"クボッサ"アレンジでジ・アイズレー・ブラザーズ「Between The Sheets」へ。

　その「Between The Sheets」を丁寧に歌い終わってのトークで「いや、つい入り込みすぎて濃厚に歌ってしまいました」と笑った久保田利伸だが、「かろみ」が魅力のひとつであるボサノヴァであっても、どこかで彼の濃厚な「歌心」が滲み出る。「叫ばない熱唱」とでも呼べばいいだろうか。ラテン、レゲエはリズムが肝なのは言うまでもないが、全体にゆったりとした、BPMを落とした曲の構成であるにも関わらず、歌詞の一粒一粒、見事なフェイク、吐息のタイミングまでがすべてジャストミート。バラードにも「久保田利伸のリズム」を呼んでくる。

　そして、バンドのプレイがそのグルーヴを実に上品にバックアップしていく。ピアノとキーボード、ベース、ドラムが芯となったサウンドに、アコースティック・ギターとパーカッション、ヴォーカルのYURIがコーラスと共に担当するフルートの音色がアクセントとなったバランスのいいアンサンブルも聴き応え充分。

　中盤では、2020年という特別な年に生まれた新曲「空の詩（うた）」を、オリジナルと同じく森大輔のピアノをフィーチャーしつつ、ボッサ・ワルツのアレンジで披露。「もし『KUBOSSA 2』が作れたら入れたい曲」と紹介して再びビル・ウィザースの「Hello Like Before」。さらにラヴァーズ・ロックにアレンジされた「Just The Two Of Us」。ちなみに11月25日のステージでは、会場に駆けつけていたフリューゲルホーン・プレイヤーのTOKUがステージに呼び出されて急遽ゲスト参加するという嬉しいハプニングも。

　本編のシメは、ラヴァーズ・ロックでの「SUKIYAKI 〜Ue wo muite arukou〜」（英語詞〜日本語詞）、そして『KUBOSSA』でも歌ったボサノヴァの名曲「Corcovado」。コロナ禍の新しい習慣である拍手だけでの静かに熱いアンコールを受けてのもう一曲は、ボサノヴァに生まれ変わった1997年の名バラード「Cymbals」。

　前半の「LA・LA・LA LOVE SONG」と共にボッサ・アレンジに見事に収まったオリジナル・ナンバー、誰もが酔えるボサノヴァの名曲、R&B愛も忘れないビル・ウィザースの代表曲カヴァー......。6日間、12ステージではもったいない！ と思わず心で叫んだ、贅沢すぎる時間が過ぎていった。

久保田利伸（ヴォーカル）
川口大輔（ピアノ、キーボード）
森大輔（キーボード、ヴォーカル）
YURI（ヴォーカル）
小池龍平（ギター）
SOKUSAI（ベース）
中島オバヲ（パーカッション）
天倉正敬（ドラムス）

text : 渡辺祐
エディター／ラジオ・パーソナリティー。雑誌、書籍、ツアー・パンフレットなどの編集に加えて、東京のFM局J-WAVEで土曜午前のプログラム「Radio DONUTS」のナヴィゲーターを担当中。

Photo by Tsuneo Koga