原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO

"21世紀に登場した最も偉大なシンガー・ソングライターのひとり"との声も高い才人、ジェシー・ハリスが傑作最新アルバム『アクアレル』を携えて、素晴らしくメロディアスなステージを披露しています。彼がいかに今日の音楽シーンで重要な位置を占めているかは、Mikikiに掲載された相関図を見ていただければおわかりになることでしょう。

共演メンバーはウィル・グレーフェ（ギター、ヴォーカル）、リカルド・ディアス・ゴメス（ベース、ポータブル・シンセサイザー）、ジェレミー・ガスティン（ドラムス）という達人たち。ウィルとジェレミーはスター・ロ―ヴァーというユニットでも活動しています。"アルバムと同じ顔ぶれで来日できたことが本当に嬉しい"とジェシーは語り、新作からの「Rolling By」、「Grapes Grow Sweeter in the Sun」、「Never Say Goodbye」等に加え、2013年のアルバム『Borne Away』のタイトル曲、スター・ロ―ヴァーとの共演アルバムの表題曲「Nothing's Gone But The Night」なども聴かせてくれました。

ジェシーは曲によってアコースティック・ギターとエレクトリック・ギターを持ち替えながら、優しく暖かな歌声で歌詞の世界を綴ります。ジェレミーのドラムスは単にリズムを刻むというよりも、歌に相槌を打っているかのようです。スティックの思いっきり端のほうをもって、腕をめいっぱいあげて、タムやシンバルを打ちます。音色は重厚そのもの、そのトーンがリカルドの堅実なベースと調和します。ウィルのエレクトリック・ギターは自由奔放、縦横無尽。楽器を揺らしながら、予想を超えたフレーズとタイミングでジェシーの歌に切り込んでいきます。「You And Me」で披露したスライド奏法も絶品でした。中盤ではジェシーひとりによるコーナーもあり、今世紀最高の名曲のひとつといっていいでしょう「Don't Know Why」もしっかり届けてくれました。ノラ・ジョーンズの歌唱で世界的に広まったナンバーですが、ジェシーの自作自演で、しかもライヴで聴くこの曲はことに絶品です。

多彩なメロディ、奥行きのあるサウンド、うるおいのある歌声が充満する至福のひととき。ニューヨーク直送の公演は本日も行なわれます。
(原田 2018 12.19)

Photo by Tsuneo Koga