原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO

メイシオ・パーカーという名前をきくだけで、胸の高まりを覚えるのはぼくだけではないでしょう。個人的な話で恐縮ですが、自分が編集者/ジャーナリストになって間もない頃に取材したミュージシャンのひとりがメイシオでした。まだジェイムズ・ブラウンのバンドを離れたばかりの頃で、まさか今日のようにジャズ・フィールドで広く認知されるとは夢にも思えなかった時代の話です。「影響を受けたミュージシャンは？」というお定まりの質問から、話は広がっていきました。

「音楽を始めた頃は、レイ・チャールズのバンドでテナー・サックスを吹いていたデヴィッド・ニューマン、アルト・サックスを吹いていたハンク・クロフォードに熱中したものさ。彼らみたいにサックスを吹けたら夢のようだな、と思っていたんだよ。もちろんレイ自身の歌も大好きで、毎回の新曲が楽しみだった。とにかく私はレイ・チャールズの音楽で育ったようなものなんだ」

そのメイシオが75歳を迎えた今、目の前でレイ・チャールズゆかりの名曲の数々を"メイシオ流"の味付けで届けてくれます。バックはブルーノート東京オールスター・ジャズ・オーケストラの活躍でもおなじみの凄腕たちを中心にしたビッグ・バンドが担当し、レイのバンドにも所属経験のあるスティーヴ・シグムンドが指揮者として迎えられました。ファンキー・サックスの王座を維持するとともに、ここ10数年はソウルフルなヴォーカリストとしても活動の場を増やしているメイシオですが、今回のステージはこれまでのどの来日公演以上に彼の歌声を満喫することができます。そして衣装も、往年のレイ・チャールズのようにゴージャスなスーツに蝶ネクタイです。さらにヴォーカル・ナンバーではサングラスをかけ、レイへの愛情が溢れてはやまないといった感じの節回しで熱唱します。しかもプログラム後半では、レイのライヴやレコーディングになくてはならないものとなっていた女性コーラス・グループ"レイレッツ"（R&Bの名花、マージー・ヘンドリックスはこの初代メンバーでした）も登場、舞台はいっそう華やぎます。

演目には「What I'd Say」「Georgia On My Mind」「Hit The Road Jack」「Hallelujah I Love Her So」など、大定番が揃います。また日本のファンのためのスペシャル・プログラムとして「Ellie My Love」（いとしのエリー）もパフォーマンスされました。レイは1989年、ウィスキーのCMでこの曲を歌い、一気に日本でのファン層を拡げました。言い方をかえれば、レイと我が国の距離をさらに近づけたのが、この「エリー」だったのです。

公演は10日まで続きます。そしてこの10日は、レイ・チャールズの命日でもあります。熱いソウルがほとばしるステージ、ぜひともお楽しみください！
(原田 2018 6.8）

Photo by Takuo Sato