原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO

今週のブルーノート東京は"温故知新の気鋭ミュージシャン・ウィーク"といった感じでしょうか。すでにアンドラ・デイ、ベン・ロンクル・ソウルが'60～'70年代のブラック・ミュージック愛に溢れたステージを聴かせてくれましたが、昨日から登場しているザ・ホット・サーディンズはなんと、1920～50年代のジャズへのリスペクトをこめたグループです。

2007年にニューヨークで結成され、今年で発足10年目。世界的な経済誌「フォーブス」からは"現代のニューヨークで最高のジャズ・バンドのひとつ"と賞賛されています。そんな彼らが、ついに初来日しました。

グループ名を日本語で"ピリカライワシ"と紹介し、満員の会場から笑いを引き出すザ・ホット・サーディンズ。演奏もMCも動きも、すべてがエンタテイニングです。リーダー格はストライド奏法を得意とするピアノのエヴァン・パラッツォ。紅一点のヴォーカリスト、ミズ・エリザベス・ブージェロルは長身で真っ赤なスーツが似合います。オープニングは、'30年代にアンドリュース・シスターズが流行らせた「素敵なあなた」（Bei Mir Bist Du Schon）。ザ・ホット・サーディンズはただこの曲を演唱するだけではなく、1928年に作曲された「Diga Diga Doo」のフレーズも盛り込んで、より多彩なアレンジで聴かせます。

「約100年前の曲です」という紹介で観客を驚かせた「I Wish I Could Shimmy Like My Sister Kate」は、1919年に著作権登録されたナンバー。エドウィン・フランセスコとエリザベスが一緒にタップ・ダンスを踊り、エリザベスは次の曲「It's a Sin to Tell a lie」ではウォッシュボード（洗濯板）を首からぶらさげ、それをドラムのブラッシュでこすりながら熱唱します。ヴァルヴ・トロンボーンからコルネットに持ち替えたマイク・セイラーズのプレイも絶品。ジャズ初期を代表するブラス楽器のひとつでありながら、その後はあまり顧みられることのないコルネット独特のまろやかな響きを味わわせてくれました。

ここからは各メンバーのフィーチャリング・コーナーです。ジェイソン・プローヴァーがトランペットと歌で熱演したのは、コール・ポーター作「Let's Do It」。"鳥もクラゲもうなぎもやっているんだから、俺たちもしようよ"という意味深な歌詞を持つナンバーです。続くジョージ・ガーシュウィン作「Oh Lady Be Good」ではニック・マイヤーズがクラリネットとテナー・サックスの双方をプレイ。再びステージに戻ったエリザベスは、オリジナル・ナンバー「Here You Are Again」を妖艶に歌い上げます。左利きのベーシストであるエヴァン・シュガー・ケインは、「Hot Nuts」のみスーザフォンを演奏。巨大な楽器から、良く伸びる重低音をひねり出しました。

9月17日に横浜で行なわれた「Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN」を皮切りに、19日札幌、20日新宿、21日名古屋と公演を重ねてきた8人。日本の料理が好みにバッチリ合ったそうで、エリザベスは「こんなにおいしい食事ばかりしていたら、体重が増えて帰国するかもしれないわね」とジョーク交じりに語っておりました。乗りに乗るザ・ホット・サーディンズの、リッチでハッピーでノスタルジックで、なによりも新鮮なサウンドは25日まで「ブルーノート東京」に響き渡ります。
(原田 2016 9.24）

Photo by Takuo Sato