原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO

3度のグラミー賞に輝くベース奏者、ジョン・パティトゥッチ。'80年代前半に頭角を現し、チック・コリア、マイケル・ブレッカー、ウェイン・ショーター、ハービー・ハンコックら錚々たる巨星と共演を重ねてきた名手です。そんな彼が、いま最も力を入れているユニットが自身の"エレクトリック・ギター・カルテット"といえましょう。スティーヴ・カーデナスとアダム・ロジャースのツイン・ギターに、ウェイン・ショーター・カルテットの同僚であるブライアン・ブレイドのドラムス、そしてジョンの5弦＆6弦エレクトリック・ベースが一体となった音楽世界はジャズの即興性、ブルースの重量感、ワールド・ミュージックの躍動感が同居していて、しかもいわゆるフュージョン・ミュージックとは趣の異なる、非常に独自のものです。2015年春のアルバム『ブルックリン』リリースから約1年、4人のコンビネーションにはさらに磨きがかかり、演奏はいっそう自由奔放になりました。ぼくは前回の「コットンクラブ」公演も見ていますが、そのときが"ヴェリー・グッド"だとしたら、今回は掛け値なしの"エクセレント！"です。

ステージには左からスティーヴ、ジョン、ブライアン、アダムの順で並びます。二人のギタリストはともにセミアコースティック・タイプのエレクトリックを弾き、ジョンの6弦ベースもセミアコです。しかもかなり高音域を多用したプレイをしますので、ちょっと聴いていると3本のギターが鳴っているようにも感じられます。ブライアンのドラムスがうなりをあげる「The Search」はリズムがコロコロ変わる曲で、両ギタリストのリード/サイドの見事な切り替えにも唸らされました。少年時代から大好きだというR&Bからの影響を取り入れた「Band of Brothers」ではツイン・ギターが粘っこくハモリ、どこかサザン・ロックに通じる雰囲気も醸し出します。ジョンは5弦ベースに持ち替えました。

もちろんジョンのルーツにはモダン・ジャズもあります。なかでも大好きな作曲家の一人がセロニアス・モンクなのだそうです。そしてスティーヴも、楽譜集を出しているほどの大のモンク・フリークです（Thelonious Monk Fake Book - C Edition）。この日は「Trinkle Tinkle」、「Ugly Beauty」が演奏されましたが、1940～60年代に全盛を迎えたピアニストであるモンクの曲を、この2016年にピアノ抜きのバンドでプレイするのですから、もちろんアレンジは根本的に異なります。ジョンの6弦がコード（和音）を交えながら、切なげにメロディを奏でる「Ugly Beauty」は至高の美しさでした。プログラム後半ではB.B.キングに捧げた「JLR」、アフリカ・マリの歌手、Oumou Sangaréの持ち歌である「Dugu Kamalemba」のカヴァーも披露。前者ではツイン・ギターは濃厚なチョーキングやビブラートを織り交ぜた"泣きのフレーズ"を聴かせ、後者ではジョン流のアフロ・ビートが炸裂しました。

彼らは本日までブルーノート東京に出演し、20日は大阪「Brooklyn Parlor OSAKA」に登場、東京に戻って22日～23日がコットンクラブ公演です。明日からブルーノート東京で行なわれるパット・メセニー公演に行く予定の方にも、抜群に面白く響くはずです。前進するジョン・パティトゥッチ・エレクトリック・ギター・カルテットの世界を、ぜひお楽しみください。
(原田 2016 5.19）

Photo by Yuka Yamaji

●JOHN PATITUCCI
"THE ELECTRIC GUITAR QUARTET"
featuring ADAM ROGERS, STEVE CARDENAS & BRIAN BLADE
2016 5.20 fri. ブルックリンパーラー大阪

2016 5.22 sun., 5.23 mon. コットンクラブ