【スペシャル・インタビュー】EMMET COHEN | News & Features | BLUE NOTE TOKYO

News & Features

【スペシャル・インタビュー】EMMET COHEN

【スペシャル・インタビュー】EMMET COHEN

ジャズ100 年の歴史と未来を奏でるピアニスト
エメット・コーエンの魅力に迫る

 近年、オーセンティックなジャズを面白く聴かせる若手がどんどん出てきている。グラミーをとったヴォーカリストのサマラ・ジョイが大きく話題になったが、器楽奏者だとエメット・コーエンはその筆頭だろう。

Interview & text = Mitsutaka Nagira
interpretation = Kyoko Maruyama

READ MORE

"Uptown In Orbit" Live From Emmet's Place Volume 100

 1990年生まれのこのピアニストは、オーセンティック・ジャズの世界を刺激し続けている。ニューオーリンズやラグタイムからコンテンポラリーまで、ジャズの100年を奏でるようなエメットの演奏は自由でフレッシュ、そして音楽の喜びにあふれている。アルバムに『Future Stride』と名づける彼の音楽は、100年前のスタイルに未来を見出すような伝統的かつ挑戦的なもので、ジャズがダンス・ミュージックだった時代の躍動感や、ジャズがポップ・ミュージックだった時代の華やかさが、現代ジャズの技術と共存している。

 その音楽をエメットはインターネットにも積極的に持ち込んだ。彼は新型コロナウィルスのパンデミック下、YouTubeで「Live from Emmet's Place」という配信プロジェクトを立ち上げた。ライヴが消えた時期に、ジャズの醍醐味であるライヴの喜びを伝えたこの企画は大きな反響を得た。その場で起こるハプニング性を含めたライヴ・ミュージックとしてのジャズの魅力をリスナーに届けるだけでなく、手元が見えるように工夫された映像により、ミュージシャンを目指す若いプレイヤーへのインスピレーションにもなった。コロナ禍に最も話題となったジャズ配信は間違いなくエメット・プレイスだった。

 そんなエメット・コーエンの演奏をようやく日本で観ることができる。11月27〜29日、ブルーノート東京でのライヴは見逃せないものになるはずだ。ちなみにエメットの日本語でのインタビュー記事はまだほとんどない。ここでは基本的なことも含めて語ってもらったので、エメット・コーエン入門的なものになっている。エメットのジャズ愛の深さと尋常じゃない知識をお楽しみください。

231127EmmetCohenTrio_image001.jpg

 -- あなたのライヴを観たいと願っていたファンは多いと思います。待望の来日ですね。

「日本はお気に入りの場所なので、今回は自分のバンドで行けてとても光栄です」

 -- まずはジャズを始めたころの話を教えてください。

「3歳の時にスズキ・メソードでピアノを始めて、音を聴いて学ぶ方法だったので、クラシックやいろんな音楽を聴くようになった。14歳の時にチャーリー・パーカー、ディジー・ガレスピー、ジョン・コルトレーン、フランク・シナトラに触れて、父がモンティ・アレキサンダーのライヴに連れて行ってくれたんだけど、それがとてもスウィンギーで喜びにあふれた音楽で、こういうのがやりたいって思った。高校最後の年にはいろんな高校の生徒が集まったオールスター・バンドに入っていて、そのひとつがグラミー・ジャズ・アンサンブル。同世代の仲間と活動して、マイアミの大学で4年学んで、ニューヨークに行ったのが2012年。今はまさに夢のN Yジャズライフを送っているよ」

 -- モンティ・アレキサンダーのコンサートに連れて行ってくれるなんて、お父さんも相当なジャズ・マニアなのでは?

「父はいろんな音楽を聴いていたね。父のおかげでブロードウエイ・ミュージカルやクラシック、レイ・チャールズやジミー・スミスも10歳くらいで観ることができた。それに通っていた学校がNYに近いニュージャージー・モントクレアで、クリスチャン・マクブライドやビリー・ハートとかミュージシャンがたくさん住んでいた地域だったので、若い時から本物に触れることができた。それもあってジャズに対する思いが強いのかもしれないね」

 -- ニュージャージーで育ったことは、ジャズ・ミュージシャンとして音楽性に影響していますか?

「ニュージャージーはNYのすぐ郊外だからね。NYにはすべてが揃っている。音楽に限らずあらゆるアートやカルチャー、世界中のコミュニティがあり、そこから生まれるクレイジーなまでのエネルギーや人との出会いがある。ジャズはいろんなことをインクルード(含む)するものだから、ジャズ・ミュージシャンは世界中を旅してフォークやカルチャー、そしてつねに人と出会い共通点を見出す。ルイ・アームストロングも、ディジー・ガレスピーも、デューク・エリントンもみんなそうだったと思う。世界を旅して愛と平和の大使のように多様性のある人たちを結びつける。だから自分も旅するのが好きなんだ。音楽で人と出会い、国と国を結びつけることができるからね」

Swingin' Cut from Emmet's Place VOLUME 1! "Symphonic Raps"

 -- エメットさんはジャズの長い歴史を網羅するような音楽を奏でていると思います。そんなあなたが最初に夢中になったジャズ・ピアニストは誰ですか?

「初めてライヴを観たモンティ・アレキサンダー。それからオスカー・ピーターソンのサウンドにもすごく惹かれた。シダー・ウォルトンは毎年ヴァンガードでのクリスマス・コンサートに行っていて、すごくシンプルだけどとっつきやすくて、それでいて深みのあるサウンドが好きだった。

そのほかにもたくさんのアーティストを発見したよ。アーマット・ジャマル、バリー・ハリス、バド・パウエル、セロニアス・モンク。ビバップのサウンドが好きだったからね。それから僕にとって最初のメインとなる影響源としてハービー・ハンコック、マッコイ・タイナーがいる。僕はここから音楽に深く入り込んだ。

そしてNYに引っ越してからは、アーリー・ジャズのミュージシャンにも興味を持つようになった。ウィリー"ザ・ライオン"スミス、ファッツ・ウォーラー、ジェイムス・P・ジョンソン、ジェリー・ロール・モートン、メアリー・ルー・ウィリアムス、もちろんアート・テイタム。僕はアーリー・ジャズをあらゆる時代の音楽とベストな方法で結びつけようとした。敬意を持ってね。あと、ジャズに限らず、フォークやブラック・ミュージック、クラシックなどいろんな音楽の要素を含んだものに惹かれているよ」

231127EmmetCohenTrio_image002.jpg

 -- 最初に名前が出たモンティ・アレキサンダーはどんなところが好き?

「(初めてライヴを観たのは)まだ14歳くらいだったから、音楽のことはよくわからなかったけど、ライヴ会場の喜びにあふれたハピネスな空間が良かった。とてもハードなスウィングだけど、みんなが一緒にスウィングしていることにインスピレーションを感じたね。どうやったらこうなるのって、好奇心が一番だったかもしれないけど」

 -- 一緒にスウィングしてハピネスを分け合うって、いまあなたがやっていることそのものですよね。

「そうだね(笑)。若い時に経験できたことが重要だったと思う」

 -- 名前が挙がったオスカー・ピーターソンについては?

「やっぱり喜びかな。スピリチュアルな部分とのコネクションも感じる。クールなサウンドだけど、それ以上のものを感じるし、踊りたいとか笑顔になるとか、そこには教会的なものもあるし、そう感じている人もいるんじゃないかな。オスカーは、理解するのにさらに成熟度が必要な音楽と出会うきっかけになってくれていると思う」

 -- では、オスカーを入り口に、次に行ったところは?

「オスカー・ピーターソンはハンク・ジョーンズやアート・テイタムと繋がっている。それから彼はルイ・アームストロング、エラ・フィッツジェラルドとも共演している。オスカーはトリオで活動していて、なんといってもそのトリオでたくさんの人と共演している。僕はその部分から大きなインスピレーションを得たんだ。たとえば、クラーク・テリーやレスター・ヤングともやっているし、エラとルイのふたりとも共演している。その時のドラムはバディ・リッチ。オスカーのグレイト・トリオはレイ・ブラウンとエド・シグペンだけど、その後、ルイス・ヘイズがドラムだった時期もある。彼を通じてすべてのジャズが繋がってくる。特にハーモニクスのところで繋がっていることに、僕は興味を持っているんだ」

Emmet Cohen grooving HARD on L-O-V-E

 -- アート・テイタム時代のスタイルってあなたの得意としているところだと思うけど、その時代のジャズの魅力はなんですか?

「自分は音楽を通じてすべての時代の音楽が好きだってことを教えられたし、それが人に与えてきた影響もそう。いまハーレムに住んでいて、コロナ禍に"Live from Emmet's Place"っていう配信をやっていたんだけど、それは100年前に行われていたレント・パーティ(※1920年代にハーレムの黒人たちが家賃を賄うために行っていたパーティ。そこでダンサブルなストライド・ピアノやブギウギが演奏され、リンディホップと呼ばれる即興性の高いダンスが行われた)と同じで、"狂騒の20年代"と言われた禁酒時代、ダンスが禁止されていた時代にジャズ・ミュージシャンがやっていたことと同じなんだよね。それはハーレムで行われていて、まさにいま自分が住んでいる場所で起こっていたこと。時代はまわるんだ。古いからダメなんてことは絶対なくて、偉大なアートは永遠。ピカソが古いからやめようってならない。天才は天才で永遠なんだ」

 -- エメット・プレイスはインターネット時代のレント・パーティだったんですね。しかもコロナ禍に家賃を稼ぐための。

「そうそう。みんなをバーチャルで招待しているんだよ」

Adam Neely talks about Emmet's Place

 -- それは素敵ですね。ストライド・ピアノやビバップ以前のスタイルを美しく取り入れているミュージシャンがいま多くて、エメットさんもそのひとりだと思います。あなたはあらゆる時代のスタイルを取り入れていますが、「Future Stride」なんてタイトルをつけるくらいなので、ストライド・ピアノには特別な思い入れがあるんじゃないかと思います。その魅力を聞かせてもらえますか?

「やっぱり聴いていてすごく気持ちがいい。オリジナル曲を演奏しても"ああ、いいね"くらいの反応だとしても、20年代のストライド・ピアノを弾くとみんな踊り出したくなるファンキーなフィーリングがある。それは元々ブラック・アメリカン・ミュージックが持つ踊らせるシンコペーションがそうさせるのだと思う。考えすぎずに気分よくなれるってところが自分も好きだし、それが必要な人も多いんじゃないかな。スコット・ジョプリンを小さいころに聴いて大好きになって、その後、ジェリー・ロール・モートンを発見した。ジェリー・ロール・モートンは同じ曲でも異なるインプロヴァイズができるってことに気づかせてくれて、自分のインプロに対する考え方を広げてくれた。ストライドにも捉え方、アングルがいろいろあるから、もっと探究したいなと思っている」

Live From Emmet's Place compilation feat. Emmet Cohen's FASTEST moments!

 -- シダー・ウォルトンのクリスマス公演に通っていたって話が出ましたが、どういうところが好きでしたか?

「すごく知的なプレイヤーというか、オーガナイズする力があるというか。トリオの使い方に知性を感じるし、伴奏する時もシンプルだけど複雑でもある。バド・パウエルやウィントン・ケリー、そして、アート・テイタムとの繋がりも感じるよね。それをレコードで聴くだけでなくて、ライヴで観たのが大きかった」

 -- 実際にライヴで観たことの違いってなんだと思いますか?

「レコードとの違いは会場のバイブレーションかな。この間、チャールズ・マクファーソンと話していて、彼は当時、チャーリー・パーカーを生で観て考え方が変わったって話をしてくれた。これか!って感じだったらしい。もちろんレコードも素晴らしいし、いまはライヴ・ストリーミングもあるし、ラジオだってある。自分の部屋で聴くことももちろんできる。なんであれ、ジャズはバイブレーションを感じる音楽。パーティみたいなものだよね。それにソーシャルな音楽だと思うから、その場でみんなが感じるバイブレーションがあるかないかの違いかな」

231127EmmetCohenTrio_image003.jpg
L)2017.1.9 Ali Jackson Trio @COTTON CLUB(Photo by Yuka Yamaji)
R)2019.5.21 Christian McBride & Tip City @COTTON CLUB(Photo by Y.Yoneda)

 -- さて、日本からエメットさんの配信を観ている人もいっぱいいて、みんなライヴを楽しみにしていると思います。日本でライヴしたことはあるんでしたっけ?

「クリスチャン・マクブライド、アリー・ジャクソンのバンドで行ったことがあるよ」

 -- では、初のリーダー公演になるわけですね。どんなライヴになりそうですか?

「フィル・ノリスとカイル・プールのトリオで行くよ。ずっと一緒にやっているトリオなんだ。日本にはずっと行きたかったし、日本のファンはオーセンティックな曲を愛してくれることも知ってる。もちろん、スタンダードだけじゃなくてオリジナルもやるよ。初のブルーノート東京だし、僕らはとても楽しみにしてるんだ」

Where is Love? | Emmet Cohen Trio Live in Stockholm

LIVE INFORMATION

231127EmmetCohenTrio_image004.jpg

エメット・コーエン・トリオ

2023 11.27 mon., 11.28 tue., 11.29 wed.
[1st] Open 5:00pm / Start 6:00pm [2nd] Open 7:45pm / Start 8:30pm
https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/emmet-cohen/

<MEMBER>
エメット・コーエン(ピアノ)
フィリップ・ノリス(ベース
カイル・プール(ドラムス)

*Jam Session会員限定スペシャル企画
会員ご本人+1名様までミュージック・チャージを半額とさせていただきます。
ご予約はお電話で承ります。(03-5485-0088)



柳樂光隆(なぎら・みつたか)
1979年、島根県出雲市生まれ。音楽評論家。21世紀以降のジャズをまとめた世界初のジャズ本「Jazz The New Chapter」シリーズ監修者。共著に鼎談集「100年のジャズを聴く」など。鎌倉FM「世界はジャズを求めてる」でラジオ・パーソナリティも務める。
★このインタビューのロングver.はnoteに掲載
https://note.com/elis_ragina/n/nfd5a5a7d134c

RECOMMENDATION