ドラン・ジョーンズ & ジ・インディケーションズが示すソウルの伝統と未来 | News & Features | BLUE NOTE TOKYO

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ドラン・ジョーンズ & ジ・インディケーションズが示すソウルの伝統と未来

ドラン・ジョーンズ & ジ・インディケーションズが示すソウルの伝統と未来

21世紀のインターネット・エイジを生きる
ヴィンテージ・ソウル

 GoogleのCM曲「Groovy Babe」も話題となった2020年代のソウル・バンド、ドラン・ジョーンズ & ジ・インディケーションズが初来日。ソウル通を唸らせた新世代のヴィンテージ・サウンドがまもなく日本に上陸する。

Text = Ryohei Matsunaga

※2020年2月掲載の特集記事に、2022年追記を加えて再掲載しました。



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 ドラン・ジョーンズのことを知ったのは、それほど前のことじゃない。去年(2019年)の夏、クルアンビンにしばらくうなされていたぼくに友人のDJが教えてくれたのが、ドラン・ジョーンズ & ジ・インディケーションズの最新リリースにしてセカンド・アルバムの『アメリカン・ラブ・コール』だった。その場で聴かせてもらい、一瞬で手玉に取られた。クルアンビンとはまた色合いの違うソウル・ミュージックだけど、ストイックさと色気の両方があっていい。彼らは黒人シンガー、ドラン・ジョーンズをリーダーにした5人組。バックを務めるメンバーは白人で、カレッジ・バンド然としたルックスをしていることに驚かされる。彼らはまだ若いバンドなのだ。

 スタイル的には、いわゆる"ヴィンテージ・ソウル"に分類されるのかもしれないが、グルーヴを裏打ちしている感覚には"新しさ"がある。トラディショナルな音楽を新しい感覚で聴く耳と身体が、旧来のミクスチャーや批評性とは違うナチュラルさを生んでいるのだろう。




 YouTubeにいくつかある彼らのライヴ映像を見ていると、惜しくも2016年に亡くなったシャロン・ジョーンズが率いたシャロン・ジョーンズ & ザ・ダップ・キングスを思い出す。もっと言えば、彼らがバンドでやろうとしているのは、ザ・ダップ・キングスがシュギー・オーティスの「インスピレーション・インフォメーション」をカヴァーした素晴らしいヴァージョン(2011年リリースのオムニバス・アルバム『Dark Was The Night』収録)に近い感覚かもしれない。

 シュギー・オーティス〜シャロン・ジョーンズ〜ドラン・ジョーンズという連鎖が、そこにあった。折しも、彼らは最新シングルとしてデヴィッド・ボウイがアメリカン・ソウルに没入した名曲「Young Americans」(1975年)のカヴァーをリリースしたところ。"本物の"ソウル・ミュージックへの憧れをボウイ流に反転させたプラスチック・ソウルの古典を、21世紀のインターネット・エイジをヴィンテージな魂で生きる彼らがもう一度反転させて現世に引き寄せる。そんな奇跡の一夜にぜひ立ち会いたい。




初出:2020年2月 BLUE NOTE TOKYO WEB「NEWS & FEATURES」

2022年の追記

 2020年4月に行われるはずだったドラン・ジョーンズ & ジ・インディケーションズの初来日公演が、2年の延期を経てついに実現する。実はこのコロナ禍は、彼らにとって思いがけない恵みの2年でもあった。

 2019年10月にシングル「Morning In America」のB面としてリリースした曲「Cruisin' To The Park」がカリフォルニアのラジオ局でパワープレイされて、2020年にかけて思いがけないラジオヒットになるという現象が起きていた。インディケーションズでも美しいファルセット・ヴォイスを時折披露してくれていたドラマー、アーロン・フレイザーがリードをとった、レイドバックしたアフター・アワーズ感あふれる名バラードが、チカーノソウルやスロージャムを愛するリスナーたちの心に火をつけた。コロナ禍で外出を制限された人々にとって、あの公園までドライブして楽しんだ日々を思い出させる、甘い夢のようにも作用した面もあっただろう。

 そして2021年早々には、アーロンのソロ・アルバム『Introducing...』がダン・オーバック(ブラック・キーズ)のプロデュースでリリース。アーロンが2017年に自主制作でリリースした7インチ・シングルを聴いたオーバックがアーロンの背中を押し、新世代のソウルシンガーとして堂々のデビューが実現した。

 さらに6月には、ジ・インディケーションズとしてもニュー・アルバム『Private Space』を発表。先行シングルとして配信された「Witchoo」は、フロアを沸かせる彼らの実力を鮮やかなダンス・ナンバーとして表明した曲で、クラブDJたちも歓喜した。そして、まだまだいろんな困難はあるとしても、この状況と前向きに付き合って次に進むという意欲をこの曲から受け取った。




 バンドもアーロンのソロも濃密に充実したこの2年。待たされたけれど、待った甲斐があった時間だった。「Cruisin' To The Park」を"アフター・アワーズ感あふれる"と書いた。アフター・アワーズはパーティ後の余韻を表す言葉だけど、あの曲は彼らにとって第二章の始まりでもあった。きっと日本では、この二夜からドラン・ジョーンズ & ジ・インディケーションズの、ずっと語り継がれてゆくだろう物語が始まるはずだ。




松永良平(まつなが・りょうへい)
ライター/編集。雑誌/ウェブで記事執筆、インタビューなど。著書『ぼくの平成パンツ・ソックス・シューズ・ソングブック』(晶文社)発売中。

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The EXP Series #38
DURAND JONES & THE INDICATIONS
The EXP Series #38
ドラン・ジョーンズ & ジ・インディケーションズ


2022 7.14 thu., 7.15 fri.
https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/durand-jones/

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