ボビ・ハンフリー公演間近! 4月の来日で見せたジャズ・ファンク・フルートの女王の貫禄 | News & Features | BLUE NOTE TOKYO

News & Features

ボビ・ハンフリー公演間近! 4月の来日で見せたジャズ・ファンク・フルートの女王の貫禄

ボビ・ハンフリー公演間近! 4月の来日で見せたジャズ・ファンク・フルートの女王の貫禄

今年4月、インコグニート ブルーイのプロジェクト、
"シトラス・サン"で魅せた
ボビ・ハンフリー圧巻のパフォーマンス

 今年4月、シトラス・サンfeat.イマーニの来日公演にゲスト出演したボビー・ハンフリー。シトラス・サンを率いるインコグニートのブルーイがトリビュート・ライヴを行うほど敬愛するドナルド・バードと同じく、70年代のブルーノート・レコーズにおいてジャズを進化・発展に導いた急先鋒として知られる女性フルート奏者だ。

READ MORE

 21歳の時にブルーノート・レコーズから『Flute-In』(71年)でデビュー。同レーベルにおける女性アーティストの先駆者となったボビーは、今ならノラ・ジョーンズやキャンディス・スプリングスに至るまでの道筋を作った人物と言っていいのかもしれない。ドナルド・バードの『Black Byrd』(73年)に刺激を受けて作ったというラリー・マイゼル(スカイ・ハイ・プロダクションズ)制作の『Blacks And Blues』(74年)をはじめとするジャズ・ファンク〜ソウル・ジャズ的な作品は正統派のジャズ・ファン以外からも愛され、80年代後半あたりからヒップホップなどのサンプリング・ソースやレア・グルーヴとしても再評価されてきたことは周知の通り。シトラス・サンの公演におけるボビーのパフォーマンスでは、短時間ながらそんな彼女のキャリアや魅力が凝縮され、親しみやすいトークで飾らない人となりを伝えてくれた。

 

ブルーノート東京での来日公演は、ロイ・エアーズとの共演ライヴで初来日した2004年以来12年ぶり。途中からステージに登場したボビーは、ジャズ・フルート奏者の先輩にあたるハービー・マンの名曲"Comin' Home Baby"を、フルートの涼やかなイメージを覆すようにエモーションを注ぎ込みながらアグレッシヴにプレイ(ステージによっては、その前にマラコ原盤となる88年作『City Beat』からライオネル・リッチー"Hello"のカヴァーも披露したようだ)。ヴォーカルを交えながらのパフォーマンスはラップにも近く、曲間のトークからもファンクやヒップホップをやりたくて仕方がないといった気持ちが溢れ出ていた。コモンの"Between Me,You & Liberation"(2002年作『Electric Circus』収録)に客演していた彼女ならではといったところか。そして、とにかくよく喋る。ファンキーで下町感覚丸出しのソウル・シスターとでも言えばいいのか、ボビーがステージに立つと、シトラス・サンが醸し出すロンドンのアーバンな空気がボビーの故郷であるテキサスのディープな空気に変わるかのよう。レコード・ジャケットなどでのスレンダーで淑やかな佇まいからは想像がつかないが、彼女は実に小柄で愛嬌があり、時に見せる男っぽい仕草とのギャップが面白い。

2016 4.13 wed., 4.14 thu., 4.15 fri., 4.16 sat. Bluey presents "CITRUS SUN" featuring IMAANI with special guest BOBBI HUMPHREY
Photo by Tsuneo Koga

 ブルーノート時代の代表曲"Harlem River Drive"は予想通りショウのハイライトとなった。NYのハーレム川に沿った高速道路を駆け抜けていくような昂揚感に包まれる原曲を、ブルーイをはじめとするシトラス・サンのメンバーたちがリスペクトを表しながらハウス調のダンサブルなアレンジで奏で、その流れでスティーヴィー・ワンダーの"Another Star"へと繋いでいった展開は客席を最も熱くさせた瞬間だった。ファンにはよく知られているように、"Another Star"の原曲後半部分に登場するフルートはボビーによるもの。スティーヴィーとはテキサスからNYにやってきた時に友人となり、そうした繋がりもあっての共演となったわけだが、そのお返しとしてスティーヴィーは、ボビーの"Home-Made Jam"(エピック原盤となる78年作『Freestyle』収録)にてハーモニカを披露していたりもする。そんなふたりの関係を示すべく、シトラス・サンのライヴでは上記の場面で"Home-Made Jam"を披露した回もあった。ちなみにボビーは、スティーヴィーと縁深いデニース・ウィリアムスやミニー・リパートンに通じるキュートな声の持ち主でもあり、そういう部分もスティーヴィーの気を惹いたのだろう。

 90年代には自主レーベルを立ち上げ、自身の楽曲管理もするようになった彼女は、自立した逞しい黒人女性として後進アーティストのお手本にもなった。そうした意味では、エリカ・バドゥやアンジー・ストーンらが慕うベティ・ライトに似た存在とも言えるかもしれない。クインシー・ジョーンズの秘蔵っ子としてデビューしたR&Bシンガー、テヴィン・キャンベル(テキサス出身)も、もとはといえばボビーが発掘。新しい才能を見抜くセンスにも長けていたのだ。

 今回は、そんなボビーの、リーダー公演としては初めてとなる来日公演。半年も経たぬうちに再来日というあたりにシトラス・サンの公演で与えたインパクトの大きさを改めて実感するが、同公演に参加した鍵盤奏者のアンドレ・シムズも再び舞台に上がるステージでは、ブルーノート〜エピック時代の曲を中心にボビーのファンキーで情熱的なフルートとキュートでやんちゃなヴォーカルを聴かせてくれるはず。ジャズ・ファンクという文脈においてロイ・エアーズよろしく今もヒップであり続ける彼女のパフォーマンスは、幅広い世代にアピールするものと信じている。

林 剛(はやし・つよし)
1970年生まれ。R&B/ソウルをメインとする音楽ジャーナリスト。各所で執筆。昨年〜今年出したディスクガイド(ディアンジェロを軸にした『新R&B入門』、マイケル・ジャクソンを軸にした『新R&B教室』)も好評発売中。

RECOMMENDATION