昨年6月、カナダのモントリオール・ジャズ祭が制定した名誉ある「第28回マイルス・デイヴィス・アワード」を受賞。多彩な音楽性、ボーダレスな活動でジャズ界を牽引するベース・ヒーロー、アヴィシャイ・コーエンが今年もオール・イスラエル人によるトリオを率いて来日する。
]]> 1970年、イスラエルのカブリ生まれ。9歳からピアノを始め、14歳の時に米国ミズーリ州セントルイスへ移住。チック・コリア率いるユニット"リターン・トゥ・フォーエヴァー"(ベーシストはスタンリー・クラーク)やジャコ・パストリアスのプレイに感銘を受け、エレクトリック・ベースの演奏に熱中した。92年1月に再渡米。ニューヨークのニュースクール大学在学中にダニーロ・ぺレス(4月23日から"チルドレン・オブ・ザ・ライト"の一員としてブルーノート東京に出演)のトリオで頭角を現し、97年にはチック・コリアの新ユニット"オリジン"に抜擢された。98年にはチックのレーベル"Stretch"から初めてのリーダー・アルバム『アダマ』を発表。のちにデヴィッド・ボウイの傑作『★』に貢献するジェイソン・リンドナーらと制作された、いまこそ再評価したい一枚だ。今世紀に入ると自身のレーベル"Razdaz Recordz"を設立。以降、このレーベルやブルーノート、ソニー、ナイーヴ等からコンスタントに新作を発表するいっぽう、大編成ストリングスとの共演(日本では2017年と2018年に実現)、エリック・トレダノとオリヴィエ・ナカシュ監督のフランス映画『セラヴィ!』(原題:Le Sens de la fête)のサウンドトラック、英国の人気ポップス・グループ"テイク・ザット"の一員であるゲイリー・バーロウのヒット・アルバム『ミュージック・プレイド・バイ・ヒューマンズ』(2020年)への参加でも話題を集めてきたアヴィシャイ。2023年も前述「マイルス賞」受賞のほか、小曽根真とのユニット"The Amity Duet"の始動、ラテン・コンガ奏者アブラハム・ロドリゲスJr.とのコラボレーション作品『IROKO』の発表など、ますます精力的な活躍で喜ばせてくれた。その鬼才ベーシストによる、"2024年度、日本における第一声"が、今回の公演である。過去、自身のトリオにシャイ・マエストロ、マーク・ジュリアナ、ニタイ・ハーシュコヴィッツ、エルチン・シリノフ、ノーム・ダヴィド、サム・バーシュ(ケンドリック・ラマー『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』やアンダーソン・パーク『マリブ』にも参加)など数々の才人を擁した慧眼の持ち主であるアヴィシャイだけに、現トリオの構成員であるガイ・モスコヴィッチ(ピアノ、96年生まれ)とロニ・カスピ(ドラムス、2000年生まれ)も、音色、フレージング、共演者が繰り出すプレイに対する反応の鋭さ、演奏中に放つ"華"、いずれも強力そのもの。自らのエレクトロ系プロジェクト"RONIPONI"ではポップに振り切った音作りを推進するロニが繰り広げる清新なジャズ・ドラミング、クラシック+アフリカ系アメリカ人音楽+イスラエル音楽の融合に心を砕くガイのピアノ・タッチと、骨太な音色で変幻自在なベース・ラインを紡ぐアヴィシャイによる"音の会話"には、いくら期待しても期待しすぎることはないと断言したい。しかもアヴィシャイは、ピチカート(指弾き)はもちろん、アルコ(弓弾き)からも驚嘆ものの美しさを放つのだ。
レパートリーはトリオの最新傑作『シフティング・サンズ』からのものが中心になると思われるが、当然ながら今回はそこに、ライヴ・パフォーマンスならではの興奮、そして「2024年のアトモスフィア」が加わる。つまり、途方もない音楽体験がオーディエンスを待ち構えているわけだ。また、この来日公演は、ブルーノート東京のほか、高崎芸術劇場 スタジオシアターでも開催される(4月20日"アヴィシャイ・バースデイ・セレブレーション・ショー 2024")。クラブとシアターの双方で、鬼才たちによる至芸を味わいつくそうではないか。
AVISHAI COHEN TRIO
2024 4.13 sat., 4.14 sun., 4.15 mon., 4.16 tue.
4.13 sat., 4.14 sun.
[1st]Open3:30pm Start4:30pm [2nd]Open6:30pm Start7:30pm
4.15 mon., 4.16 tue.
[1st]Open5:00pm Start6:00pm [2nd]Open7:45pm Start8:30pm
https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/avishai-cohen/
<MEMBER>
アヴィシャイ・コーエン(ベース、ヴォーカル)
ガイ・モスコヴィッチ(ピアノ)
ロニ・カスピ(ドラムス)
4.20 sat.
【 群馬 】 高崎芸術劇場 / スタジオシアター
https://www.takasaki-foundation.or.jp/
ピアニストの小曽根真が、ニュー・トリオ"TRiNFiNiTY (トリンフィニティ)"を率いてブルーノート東京4デイズを開催。同名ファースト・アルバムの音楽世界をライヴで繰り広げる。
]]> 5歳からピアノに親しみ、12歳でオスカー・ピーターソンのソロ演奏を聴いてジャズに開眼。1983年、米国ボストンのバークリー音楽大学卒業と同時にワールド・デビューを果たし、ゲイリー・バートン、チック・コリア、ディジー・ガレスピー、クインシー・ジョーンズら数々の伝説的ミュージシャンからの薫陶も得た。2020年には俳優の神野三鈴と共に、若手音楽家プロジェクト「From OZONE till Dawn」を発足。"僕が素晴らしい先輩のレジェンドたちからその成長のチャンスを与えてもらったように、これからの時代を担う若い音楽家たちにそんな場所を創りたい"と、数々の逸材を紹介している。TRiNFiNiTYは、デビューから40周年の節目を迎えた小曽根が、意気込みも新たに結成したグループ。名称は「Trio」と「Infinity」(無限)を掛け合わせた造語で、共に音楽を作り出すメンバーは、小川晋平(ベース)、きたいくにと(ドラムス)。ふたりは「From OZONE till Dawn」の参加メンバーでもあり、2023年3月に行われた新日本フィルハーモニー交響楽団定期演奏会「新日本フィルハーモニー交響楽団 すみだクラシックへの扉#13」(小曽根の書きおろしたピアノ協奏曲「SUMIDA」が演奏された)を筆頭に、いくつものライヴを積み重ねながら音楽性を磨きこんでレコーディングに至った。過去、ザ・トリオ(ジェームス・ジーナス&クラレンス・ペン)、スーパー・トリオ(クリスチャン・マクブライド&ジェフ"テイン"ワッツ)などでも話題を呼んできた小曽根だが、日本人の次世代ミュージシャンとのトリオは今回が初めて。まさに"満を持して"という言葉にふさわしいのが、このTRiNFiNiTYである。
1月リリースのアルバム『TRiNFiNiTY』では旧友のパキート・デリベラとダニー・マッキャスリン、バークリー音楽大学留学中のアルト・サックス奏者である佐々木梨子、NYを拠点に活動するパーカッション奏者の二階堂貴文も曲によって参加していたが、この初ツアーの皮切りとなるブルーノート東京公演にはマッキャスリンが帯同。17年、19年、23年に行われた自己名義の公演ではエレクトリック系のプロジェクトを率いて熱演した彼が、TRiNFiNiTYのスペシャル・ゲストとしてどんなプレイを届けてくれるのか、こちらも大変な期待を集めるはずだ。
『TRiNFiNiTY』
(ユニバーサル ミュージック)
小曽根真 new trio "TRiNFiNiTY"
with special guest ダニー・マッキャスリン
2024 4.1 mon., 4.2 tue., 4.3 wed., 4.4 thu.
[1st]Open5:00pm Start6:00pm [2nd]Open7:45pm Start8:30pm
https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/makoto-ozone/
<MEMBER>
小曽根真(ピアノ)
小川晋平(ベース)
きたいくにと(ドラムス)
Special Guest:
ダニー・マッキャスリン(サックス)
ピアニストのダニーロ・ペレス、ベーシストのジョン・パティトゥッチ、ドラマーのブライアン・ブレイド。ジャズ・シーンで格別の輝きを放つ名手3人が"チルドレン・オブ・ザ・ライト"名義で6年ぶりに登場し、昨年3月に逝去したサックス奏者/作曲家のウェイン・ショーターに捧げるステージを行なう。ちなみに"チルドレン・オブ・ザ・ライト"というユニット名は、ショーターが60年代に書いた名曲「チルドレン・オブ・ザ・ナイト」に由来する。
]]> ショーターは1950年代からプロ活動を始め、アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズ、マイルス・デイヴィス・クインテットといった名門グループを経て、71年にジョー・ザヴィヌル、ミロスラフ・ヴィトウスと"ウェザー・リポート"を結成。86年の解散後もさまざまなジャズ・フュージョン系のプロジェクトで活動したが、2000年のモンタレー・ジャズ・フェスティヴァル(米国カリフォルニア州)でペレス、パティトゥッチ、ブレイドを迎えたオール・アコースティック編成の"ウェイン・ショーター・カルテット"を旗揚げし、翌年からツアーを開始した。誰もが多忙をきわめる存在だったにもかかわらず、同カルテットは、御大が演奏活動から退く2018年まで活動を継続。『ビヨンド・ザ・サウンド・バリアー』(2005年)と『エマノン』(2018年)はグラミー賞を獲得した。2015年9月にペレス、パティトゥッチ、ブレイドが連名で発表したアルバム『チルドレン・オブ・ザ・ライト』は、意欲的なオリジナル・ナンバーの数々はいうまでもなく、ショーターがマイルス・クインテット在籍の頃に作曲した「ドロレス」が(メドレーの一部として)斬新に解釈されていることでも忘れ難い一枚だ。作品のリリースから約8年半が経ち、その間、ペレスは新ユニット"グローバル・メッセンジャーズ"、パティトゥッチは自身のトリオやヨタム・シルバースタインとのコンビネーション、ブレイドは"フェロウシップ・バンド"やウォルフガング・ムースピール・トリオ等におけるプレイでファンを喜ばせてきた。それぞれの音楽性を磨き続ける3人の、いっそう厚みを増したキャリアがフィードバックされるに違いない今春の公演は、以前の来日ステージをしのぐ重量感と息もつかせぬ展開、ショーター直系のマジカルな音世界で聴き手を魅了すること間違いなしといえよう。
『CHILDREN OF THE LIGHT』
(Mack Avenue / キングインターナショナル)
DANILO PÉREZ, JOHN PATITUCCI & BRIAN BLADE
"CHILDREN OF THE LIGHT"
2024 4.23 tue., 4.24 wed., 4.25 thu.
[1st]Open5:00pm Start6:00pm [2nd]Open7:45pm Start8:30pm
https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/danilo-perez/
<MEMBER>
ダニーロ・ペレス(ピアノ)
ジョン・パティトゥッチ(ベース)
ブライアン・ブレイド(ドラムス)
2012年の『11 De Novembre』でアルバム・デビューを果たして以来、カタルーニャを代表する音楽家として確固たる地位を築いてきたシルビア・ペレス・クルス。2018年には日本とスペインの国交樹立150周年を記念した初来日公演をブルーノート東京で行い、弦楽五重奏をバックに情感豊かな歌声で観客を魅了した。その翌年にはスペイン・バレアリス諸島のひとつメノルカ島出身のピアニスト、マルコ・メスキーダとのデュオでふたたびブルーノート東京のステージに。三度目のブルーノート東京公演となる今回は、昨年リリースされた現時点での最新アルバム『TODA LA VIDA, UN DÍA』をフォローするような内容になるという。
]]> 『TODA LA VIDA, UN DÍA』は全21曲、5楽章からなる作品。アルバム・タイトルは日本語だと「人生のすべて、ある日」といったところであり、それに準じて人生のパートを各楽章に割りあてている。最終楽章が「RENACIMIENTO(ルネサンス、再生、復活)」であることから、ひとりひとりの人生だけでなく、すべての人の営みが循環し歴史を作っていることをも視野に入れているかのようである。このアルバムには、アルゼンチンのフォルクローレ歌手の代表格であるリリアナ・エレーロ、スペイン音楽、フラメンコの大御所ぺぺ・ハビチュエラ(ギター)、カルレス・ベナベント(ベース)、カルメン・リナレス、ディエゴ・カラスコ(ともにヴォーカル)、メキシコのシンガー・ソングライター、ナタリア・ラフォルカデ、アカ・セカ・トリオの一員としても知られるアルゼンチンのシンガー・ソングライター、フアン・キンテーロらがゲスト参加。彼、彼女たちとシルビア・ペレス・クルスの持ち味が触発しあって、楽曲バラエティに富みつつ同時にシルビア・ペレス・クルスの個性が際立つ"濃い"アルバムとなった。今回のブルーノート東京公演は、2018年の初公演にも参加したカルロス・モントフォート(ヴァイオリン、トランペット、パーカッション)と、マルタ・ローマ(チェロ、トランペット、シンセサイザー)、ボリ・アルベロ(コントラバス、シンセサイザー)が脇を固める。シルビア・ペレス・クルスはヴォーカルとギターのほか、シンセサイザーも奏でるという。『TODA LA VIDA, UN DÍA』の多彩な楽曲群がこの編成でどのように演奏されるのか、期待はふくらむばかりだ。
SÍLVIA PÉREZ CRUZ『Toda la vida, un día』
(Sony Music Entertainment España)
SÍLVIA PÉREZ CRUZ presents "Toda la vida, un día"
2024 4.7 sun., 4.8 mon.
4.7 sun.
[1st]Open3:30pm Start4:30pm [2nd]Open6:30pm Start7:30pm
4.8 mon.
[1st]Open5:00pm Start6:00pm [2nd]Open7:45pm Start8:30pm
https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/silvia-perez-cruz/
<MEMBER>
シルビア・ペレス・クルス(ヴォーカル、ギター、シンセサイザー)
カルロス・モントフォート(ヴァイオリン、トランペット、パーカッション、バックヴォーカル)
マルタ・ローマ(チェロ、トランペット、シンセサイザー、バックヴォーカル)
ボリ・アルベロ(コントラバス、シンセサイザー、バックヴォーカル)
昨年秋、選曲の仕事のためのリサーチをしていたところ、一枚のアルバムが目に留まった。サックスブルーの空に渦巻き模様の雲、それを背景にサックスを吹いている横向きの女性の姿。説明を読むと、かのトム・ミッシュの実姉だという。ふーん、なるほどと思って発売から少しだけ日にちが経過していたこの『サンプル・ザ・スカイ』というタイトルのアルバムをサブスクリプション・サービスで聴いてみるとこれが実によかった。エレクトロニクスを穏やかに用いつつ、サックスの響きはジャズのそれ、そして透明感たっぷりのヴォーカル----わたしはすっかり虜になり、急いで自分用にレコードを注文した。これがローラ・ミッシュの音楽との出合いである。以降、ホーム・リスニングはもちろん、DJの現場にも持参し、今も頻繁にプレイしている。
]]> ローラ・ミッシュはロンドンを拠点に活動するマルチ・アーティスト、プロデューサー。セルフ・リリースのEP『Playground』(2018)が最初に世に出た彼女の音源である。これまでにロイヤル・アルバート・ホールをはじめとする一流のヴェニューやSXSW、モントルー・ジャズ・フェスティバルの「スポットライト・セッション」などの有名フェスティバルでの演奏実績があり、2023年10月に満を持してデビュー・アルバム『サンプル・ザ・スカイ』を発表した。近年のライヴ・パフォーマンスはマリーシア・オス(ハープ)と、昨年夏に来日公演を行った兄弟エレクトロニック・ミュージック・デュオAstrydの片割れでSlow Moon名義でのアンビエント作品でも知られるトーマス・カスパー(ギター)が加わったトリオ編成で行っているが(両者ともアルバムにも参加している)、今回が初となるブルーノート東京公演も同じメンバーでのパフォーマンスということで、幽玄で優しい『サンプル・ザ・スカイ』の世界を余すところなく表現してくれることだろう。アンビエント、ジャズ、アシッド・フォーク、フィールドレコーディング、エレクトロニック・ミュージックなどの要素が入り混じりつつ、難解でなくポピュラー・ミュージックとしての佇まいを失わない彼女の音楽は、心と身体にじんわりと沁み入る心地よさがあり、先に挙げたジャンルに興味がある方は楽しめること間違いなし。本格的な春を迎えるこの季節にぴったりの嬉しいライヴである。
LAURA MISCH『Sample The Sky』
(ビッグ・ナッシング/ウルトラ・ヴァイヴ)
LAURA MISCH
2024 3.26 tue., 3.27 wed.
[1st]Open5:00pm Start6:00pm [2nd]Open7:45pm Start8:30pm
https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/laura-misch/
<MEMBER>
ローラ・ミッシュ(サックス、ヴォーカル、ラップトップ)
マリーシア・オス(ハープ)
トーマス・カスパー(ギター)
吹きすさぶ風の中に、花の香りとほんのり温かさを感じたら、季節はもう春。今春ブルーノート東京では、新たな季節を迎える喜びを表現したデザートが登場します。「桜と苺のガトー 仏手柑のソルベ」と題されたひと皿には、桜、よもぎ、いちごなど日本の春を堪能できる素材がたっぷり。フレンチのデザートでありながら、和のテイストを随所に感じさせる逸品です。
]]> 和素材が織り成すエレガントな味春いちごのスライスの下には、桜の花の塩漬けとペッシュヴィーニュ(フランスの赤桃)のクリーム。やさしい口当たりと甘さの中に、桜の香りと塩気がふわりと漂います。その下にはレンズ豆、そしてよもぎのスポンジ。レンズ豆が小さなあずきのように香り、よもぎの青々とした香りと重なって、繊細でエレガントな余韻が続きます。添えられたソルベの素材は、柚子と仏手柑。ベルガモットを思わせる香りが特徴の仏手柑は、心地よい苦味もアクセントとなっています。
春の素材が織り成す酸味、甘い香り、ほのかな苦味を受け止め、冬の間に眠っていた感覚が目覚めていくひと皿。美しい音楽と共に季節の訪れを祝福し、ご賞味ください。
桜香るデザートにふさわしいシャンパーニュを、ブルーノート東京ソムリエがセレクトしました。「シャルル・エドシック ロゼ レゼルヴ」は、ふくよかさを感じるロゼ。「よもぎが香るスポンジにも負けない力強さを持ち、ベリー系の果実味がいちごを引き立てます。きめ細かな泡がソルベの酸味を包み、より爽やかな味わいに」
Dessert
桜と苺のガトー 仏手柑のソルベ ¥1,800 (tax in)
Champagne
シャルル・エドシック ロゼ レゼルヴNV / フランス、シャンパーニュ / ピノ・ノワール、シャルドネ、ピノ・ムニエBottle ¥21,000(tax in) Glass ¥2,800(tax in)
提供期間:3.15 fri. 〜 3.23 sat.
クリス・ポッター、グレッチェン・パーラト、マーク・ジュリアナ、ネイト・スミス、挾間美帆......昨年ブルーノート東京のステージを飾った多数のアーティストたちのリリースを次々と手がけ、音楽シーンに旋風を巻き起こしているUK発のジャズ・レーベルEdition Records(以下Edition)。特集Chapter 2では来日が待ち遠しいザ・バッド・プラスにフォーカスする。
text = Mitsutaka Nagira
]]>2月のベン・ウェンデルに続いて、3月12日と13日にはザ・バッド・プラスが来日する。バッド・プラスは2019年に『Activate Infinity』でEditionに加わり、2022年に2作目の『the bad plus』をリリースした。バッド・プラスと言えば、2000年代初頭にジャズとロック、エレクトロニック・ミュージックの融合を模索したパイオニア的存在のコンテンポラリー・ジャズのグループとして知られている。ニルヴァーナやエイフェックス・ツインをレパートリーに加えた功績は今も色褪せない。ただし、いま聴くべきはそこではない。
The Bad Plus 'Motivations II' - Official Trailer
2010年代からはオリジナル曲を中心にさまざまな試行錯誤を行ってきて、その過程でドラムのデイヴ・キングの存在感が増してきた。ハッピーアップルやデイヴ・キング・トラッキング・カンパニーなど彼主導のプロジェクトを聴くとわかるように、オルタナティヴなロックの感覚を誰よりも有し、それが演奏に濃厚に出ているのはデイヴだった。だからこそバッド・プラスのハイブリッドなチャレンジが可能になっていたわけだ。デイヴのその特異性がどんどん高まっていった結果、2010年代後半ごろからジュリアン・ラージの音楽に欠かせない存在として定着しているほか、マーガレット・グラスピーやクレイグ・テイボーンもデイヴのドラムを求めている。以前、カート・ローゼンウィンケルがバッド・プラスと共にツアーを行っていた際、「僕がこのコラボをやりたいと思った最大の理由はデイヴ・キングのドラムだ」と言い切った。それだけデイヴ・キングは2010年代半ばから脂がのりまくっている状態にある。
2013 11.3 THE BAD PLUS with KURT ROSENWINKEL (Photo by Great The Kabukicho)
バッド・プラスは初期のメンバーだったピアノのイーサン・アイヴァーソンが脱退し、その後、サックス奏者のクリス・スピードとギターのベン・モンダーが加入したのだが、このメンバー変更がデイヴ・キングを軸に見るといい方向に働いている。ヒリヒリするような即興演奏を得意とするクリス・スピードは、自身のグループでデイヴを常に起用していて相性は抜群だ。
Broken Shadows "Dogon A.D." Featuring Tim Berne, Chris Speed, Reid Anderson and Dave King
ただ、最注目はベン・モンダーだろう。マリア・シュナイダーの『Evanescence』や『Date Lord』、もしくはデヴィッド・ボウイ『★』でのダークで歪んだ音色の、プログレッシヴなサウンドで知られる奇才だ。この30年のNYジャズ・シーンに出てきたギタリストの中でも最も個性的で、最も謎に満ちた存在であり、同時にデイヴが持つロックのフィーリングに最もフィットすることが予想できるギタリストである。
2017 6.7 MARIA SCHNEIDER ORCHESTRA (Photo by Yuka Yamaji)
この二人が参加した2022年の『the bad plus』はこれまでのバッド・プラスとは全く異なるサウンドだが、だからこそ最高な一枚だ。コンテンポラリーなジャズだけでなく、ロックやアヴァンギャルドからの影響も色濃い、NYのオルタナティヴなジャズがパワフルかつダークに融合したサウンドだ。そして、バッド・プラスの過去作品のなかでもここまでアグレッシヴにライヴの感触が収められたアルバムはないと思われるほどにスリリングな瞬間がたっぷり詰まっている。にもかかわらず、投げっぱなしになっていないのは、実質的なリーダーのリード・アンダーソンの手腕だろう。バッド・プラスにマジックが宿った一枚だ。
そのアルバム・メンバーでバッド・プラスが来日公演を行う。バッド・プラス自体、来日は久しぶりだが、滅多に来日しないベン・モンダーやクリス・スピードが観られるのはかなり貴重だ。とくにベン・モンダーはマリア・シュナイダー・オーケストラでの来日以来だが、コンボで弾きまくる編成での来日はあまりにめずらしい。実は今回の来日はかなり希少な機会となる。これからもEdition所属アーティストは現代ジャズ好きなら見逃せないものになるはずだ。
BIMHUIS TV presents THE BAD PLUS
THE BAD PLUS
2024 3.12 tue., 3.13 wed.
[1st]Open5:00pm Start6:00pm [2nd]Open7:45pm Start8:30pm
https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/the-bad-plus/
<MEMBER>
デヴィッド・キング(ドラムス)
リード・アンダーソン(ベース)
ベン・モンダー(ギター)
クリス・スピード(サックス)
Jam Session会員限定スペシャル企画
会員ご本人+1名様はミュージック・チャージが半額に!
本プランのご予約はお電話で承ります。
TEL: 03-5485-0088
※"Jam Session"とは
会員先行予約やミュージック・チャージOFFなどの特典が満載の、ブルーノート東京のメンバーズクラブ(年会費有)です。ご入会はこちらをご覧ください。
https://www.bluenote.co.jp/jp/member/
この10年、ジャズの盛り上がりにはレーベルが貢献してきた。メジャー傘下だったらブルーノートやコンコード、インパルス。インディペンデントだったら、LAのブレインフィーダー、シカゴのインターナショナル・アンセム。これらのレーベルが世界に多くの才能を紹介してきた。これらはすべてアメリカのレーベルだが、ここ数年、急激に勢いを増しているレーベルがイギリスにある。それがEdition Records(以下、Edition)だ。
text = Mitsutaka Nagira
]]> 2008年に設立したEditionは、もともと地元イギリスのジャズをリリースしていたレーベルだった。ロンドンのジャズ・シーンを出発点に少しずつ人脈を広げ、北欧を含めたヨーロッパにまでレーベルのコミュニティを拡張。フロネシスのヒットなどもあり、2010年代にはヨーロッパの若手を紹介するレーベルとして徐々に知名度を獲得していった。転機は2019年。クリス・ポッターと契約し、彼のアルバム『Circuit』をリリースしたことだった。アメリカのトップ・アーティストがイギリスのインディレーベルからリリースしたことは大きな話題になったが、そこからEditionは一気に世界のジャズ・シーンの中心に躍り出る。
カート・エリング、デイヴ・ホランド、グレッチェン・パーラト、リオーネル・ルエケ、ベン・ウェンデル、ニーボディ、マーキス・ヒル、ザ・バッド・プラス、ネイト・スミス、マーク・ジュリアナ、ダニー・マッキャスリン、ギラッド・ヘクセルマンらが続々とEditionと契約し、アルバムをリリースした。新たな手法やハイブリッドなサウンドなど何かしらのチャレンジを行っているベテランから若手まで、こぞってEditionを選んだのはこのレーベルがすでにシーンから信頼を得ている証拠だろう。
2023年のグラミー賞のジャズ部門ではEditionからカート・エリング、グレッチェン・パーラト&リオーネル・ルエケ、ベン・ウェンデルがノミネートされている。Editionがグラミー賞のジャズ部門の主要部門の受賞をするのも時間の問題だ。
L) 2023 2.1 Mark Guiliana (Photo by Tsuneo Koga) M) 2023 11.5 Gretchen Parlato(Photo by Tsuneo Koga) R) 2023 10.16 Chris Potter/SFJAZZ Collective(Photo by Tsuneo Koga)
そんなEditionのアーティストが日本でライヴをやるのはいつもブルーノート東京だ。クリス・ポッター、グレッチェン・パーラト、マーキス・ヒル、ネイト・スミス、マーク・ジュリアナ、ダニー・マッキャスリンがブルーノート東京で素晴らしいパフォーマンスを見せてきた。そしてEditionのアーティストは2024年もブルーノート東京で来日公演を行う。
L) 2023 7.3 Marquis Hill (Photo by Tsuneo Koga) M) 2023 8.31 Donny McCaslin (Photo by Takuo Sato) R) 2023 3.4 Nate Smith +KINFOLK(Photo by Tsuneo Koga)
2月16日と17日にサックス奏者のベン・ウェンデルが来日する。クリス・ポッターとも並ぶ現代ジャズ・サックスの最高峰プレイヤーだ。ベン・ウェンデルの特徴はその活動の幅の広さ。コンテンポラリー・ジャズのシーンだけでなく、在籍するバンドのニーボディでの活動やテラス・マーティン、ティグラン・ハマシアンとのコラボ、エレクトロニック・ミュージックのプロデューサーであるデイデラスとの交流など、ハイブリッドな音楽にも飛び込み続けている。
Ben Wendel High Heart // Feat. Michael Mayo, Gerald Clayton, Shai Maestro, Joe Sanders & Nate Wood
Editionとの契約は2020年の『High Heart』から。超絶ヴォーカリストのマイケル・マヨを起用し、彼の器楽的なヴォーカルをシャイ・マエストロやネイト・ウッドら敏腕ぞろいのグループと共存させた傑作だった。そして、2023年には『All One』を発表。テナーサックス、ソプラノサックス、バスーンを自身で演奏して幾重にもオーヴァーダビングしたほぼ管楽器だけの疑似アンサンブルに、豪華ゲストを加えた実験的かつ洗練された音楽はグラミーにもノミネートされた。
"Tenderly" feat José James & Ben Wendel
キャリアの絶頂期にあるベンをこのタイミングで観られることは幸運というほかない。しかも、今回の編成は『High Heart』に参加のシャイ・マエストロとネイト・ウッドに加え、NY現代ジャズの名ベーシスト、ハリッシュ・ラガヴァンも帯同する。この組み合わせならば、世界最高レベルのコンテンポラリー・ジャズのセッションになることは間違いないだろう。
For BEN WENDEL & SHAI MAESTRO
桑原あい(Pianist)
なんてワクワクするメンバー!!!ベンには6年前の私のアルバムにゲストで参加していただきました。時差ぼけで疲れているなか、深夜のRecに来てくださり、数分で曲を理解し、スーパープレイを残してくれました。どんな時もベンの香りがする、彼が響かせる"音"が大好きです。シャイとは7年前に一度だけ2台ピアノをやらせていただきましたが、スタンダード曲への解釈や視点がとても面白く、美しく、感動したことを覚えています。そしてピアノの表現が細部までコントロールされ圧倒的で魅せられてしまいました。今回のライヴは、音楽がどこまで、どんなところまで行ってしまうのか、絶対に見逃せない貴重なライヴかと思います。東京にお住まいの皆様、必見です!そして感想のレポをお待ちしてます笑!
For BEN WENDEL
馬場智章(Saxophonist)
ベンが現代ジャズサックスにおいて、最も演奏技術が卓越しているプレイヤーであることは間違いありません!僕が最初にベンの生演奏を聴いたのはNY Jazz Galleryで、エリック・ハーランド・グループの公演でした。その圧倒的な技術と音色に驚き、公演後はベンのリーダー作はもちろん、彼が参加するあらゆる音源を聴きました。なかでもティグラン・ハマシアン、ルイス・コール・ビッグバンドでは、それぞれのサウンドを尊重しつつ、彼のスタイルを反映させている演奏がとても素晴らしく、僕が音楽に向き合う上でも大きな糧となりました。 そんなベンが今回自分のバンドで来日するということで、技術はもちろん、その演奏を存分に生かした繊細かつ破壊力抜群のオリジナル曲を聴くことができるのはとても楽しみ。一緒に来日するメンバーも強烈です。ジャンル問わず音楽好きの方は絶対観た方が良い!
For HARISH RAGHAVAN
須川崇志(Bassist)
ハリシュ・ラガヴァンは現代NYジャズ・シーンの名手たちから厚い信頼を受ける同世代ベーシストとして注目しています。力強く独特のタッチは、彼と同郷のレジェンドWilbur Wareを想起させますし、感情的かつ正確無比な楽器コントロールの裏には、音楽に対する強い意志がマグマの如く流れていますね。これはライヴで生音を聴かないと!
For NATE WOOD
松下マサナオ(Drummer)
ネイトと初めて会ったのは、彼がウェイン・クランツのトリオで来日したとき。友達だってハッタリ決めて楽屋に忍び込んでワッツアップしたら、その瞬間からホントに友達になってくれた。Kneebodyでの快進撃が始まった頃だ。LA的バイブスと現代的な解釈の完璧なバランスのハイブリッド・ドラマーであり、プロデューサー、シンガー、エンジニア。どのワークスにも彼だけの音がなっている。空間があるんだよね。忙しくならない。今回は無双サックス・プレイヤー、ベンのバンドで最強メンツと来日。最高の音場ブルーノート東京でアレを体感できるなんて、みんな日本に住んでてよかったね!
BEN WENDEL GROUP
with Shai Maestro, Nate Wood & Harish Raghavan
2024 2.16 fri., 2.17 sat.
2.16 fri.
[1st]Open5:00pm Start6:00pm [2nd]Open7:45pm Start8:30pm
2.17 sat.
[1st]Open3:30pm Start4:30pm [2nd]Open6:30pm Start7:30pm
https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/ben-wendel/
<MEMBER>
ベン・ウェンデル(サックス)
シャイ・マエストロ(ピアノ)
ネイト・ウッド(ドラムス)
ハリシュ・ラガヴァン(ベース)
英国の新聞「ザ・ガーディアン」が "ジャズ・スター"と称賛。精緻を極めたドラム・プレイとサウンド・メイキングで注目を集め、去る10月には音楽の殿堂ロイヤル・アルバート・ホールでソールドアウト公演を行なったユセフ・デイズがついにブルーノート東京に登場する!
]]> ロンドン南東部のルイシャム区に4人兄弟の末弟として生まれたユセフは、幼いころから父親が所有するジャズやレゲエのレコードに親しみ、4歳でドラム演奏を開始。なかでも名手ビリー・コブハム(マイルス・デイヴィスのレコーディングやマハヴィシュヌ・オーケストラへの参加で著名。自身のグループにランディとマイケルのブレッカー兄弟を起用したことも)のプレイに心を掴まれた。10歳の時には、イングランドの都市・バースを訪れてコブハムの指導を受けている。2009年に入ると兄のアーマッド(トロンボーン)とカリーム(ベース)、そして友人のウェイン・フランシス(サックス)と"ユナイテッド・ヴァイブレーションズ"を結成。このグループは翌年、アロー・ブラックが行なったUKツアーに起用され、2011年にデビュー・アルバム『Galaxies Not Ghettos』を出した。2016年から17年にかけては、十年来の知り合いであったキーボード奏者カマール・ウィリアムスとのデュオ"ユセフ・カマール"を中心に活動。ジャイルス・ピーターソンのレーベル"Brownswood Recordings"からリリースされたアルバム『Black Focus』も話題を集めた。キーボード奏者アルファ・ミストとの「Love Is The Message」(2018)を経て、2020年にはトム・ミッシュとのコラボレーション作品『What Kinda Music』を発表している。
2023年9月に国内発売された『Black Classical Music』は、ユセフにとって初の単独名義となるアルバム。トム・ミッシュ、シャバカ・ハッチングス、クロニックス、マセーゴ、"クラシック音楽における変化を推進し、その多様性を称賛する"ことを目標とするザ・チネケ!オーケストラなど、錚々たるゲストを曲によってフィーチャーし、ユセフみずから「心臓の鼓動を模したドラムのリズムを追い、心身のためのメロディーを奏で、核となるベースが響く格調高き音楽」と語る世界を生み出した。来る2月に開催されるブルーノート東京3デイズには、この新作のキー・メンバーがやってくる。サックス奏者にして有力なプロデューサーでもあるヴェンナは、ウィズキッドやバーナ・ボーイ等の音作りに携わるほか、ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズの再構築(=レゲエとアフロビートの融合)アルバム『Africa Unite』でも快演を繰り広げる売れっ子。米国ロサンゼルス生まれのキーボード奏者であるイライジャ・フォックスは、ジャズ、印象派(クラシック)、サイケデリック・ソウルに触発されて音楽性を形成、Netflixで公開されているキッド・カディのアニメ・シリーズ『Entergalactic』にも携わる異才だ。ベースを担当するロッコ・パラディーノは、エリック・クラプトン、ジョン・メイヤー、ディアンジェロ、ロイ・ハーグローヴ等の名盤やセッションに貢献した重鎮ベース奏者ピノ・パラディ―ノの愛息。ユセフ関連のプロジェクトに欠かせないひとりといっていい。ロッコとユセフの手に汗握る絡みは現行のジャズ界、いや、2020年代の音楽界で飛び切りのものであると断言していいはずだ。
『Black Classical Music』の楽曲がライヴでどのように解凍され、発展・拡大してゆくのか。ジャケット・デザインも含めて"熱く燃えあがる"ユセフ・デイズ・トリオ名義の2020年発表作品『Welcome to the Hills』に通じる興奮が目の前で立ち上がってくるのか。どんなリズムの魔術で心を高ぶらせてくれるのか。ユセフ・デイズの来日公演は、全セットが必聴・必見であると同時に、今のジャズの現場に立ち会う喜びをとことん実感させるに違いない。
『Black Classical Music』
(Brownswood Recordings)
YUSSEF DAYES
2024 2.23 fri., 2.24 sat., 2.25 sun., 2.26 mon.
2.23 fri., 2.24 sat., 2.25 sun.
[1st]Open3:30pm Start4:30pm [2nd]Open6:30pm Start7:30pm
2.26 mon.
[1st]Open5:00pm Start6:00pm [2nd]Open7:45pm Start8:30pm
https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/yussef-dayes/
<MEMBER>
ユセフ・デイズ(ドラムス)
ロッコ・パラディーノ(ベース)
イライジャ・フォックス(キーボード)
ヴェンナ(サックス)
※本公演に出演を予定しておりましたアレックス・ボート(per)は、アーティスト都合により来日キャンセルとなりました。
1980年代から90年代にかけて、ポール・サイモン、スティング、ボブ・ディラン、チャカ・カーンらと共演し、95年にソロ・デビューを果たしたトランペット奏者、クリス・ボッティ。2012年のアルバム『インプレッションズ』で「第55回グラミー賞」のベスト・ポップ・インストゥルメンタル・アルバム賞を受賞、またニューヨークのブルーノートでは毎年年末年始にロングラン公演を行うなど、名実ともにトップランクのアーティストである。
]]> その端正な佇まいから「トランペット界の貴公子」と称されてきたクリス・ボッティも齢60を超えた。そんな彼が「新たなスタートを切りたかった」と世に放ったアルバムが『Vol. 1』(2023)だ。前作『インプレッションズ』から実に10年以上を経ての新作であり、自身のキャリアにおいて初となる〈BLUE NOTE〉からのリリースとなったこの作品は、クリスがマイルス・デイヴィスの演奏を聴いてトランペッターを志すきっかけとなった「My Funny Valentine」をはじめとするジャズ・スタンダードや、コールドプレイ「Fix You」をとり上げたバラード集。プロデューサーであるデイヴィッド・フォスター(ピアノも2曲演奏している)がクリスのインティメイトで誠実な側面を存分に引き出し、それが抑制の効いたバンド・アンサンブルと見事に溶け合った美しい一枚となった。このアルバムを引っ提げて、クリス・ボッティが今年もブルーノート東京の5デイズ10ステージに挑む。今回の公演では『Vol. 1』の録音に参加したレオナルド・アムエド(ギター)、ジュリアン・ポラック(ピアノ)、昨年のブルーノート東京公演にも帯同したリー・ピアソン(ドラムス)、チャド・レフコウィッツ=ブラウン(サックス)、ジョン・スプリトホフ(ヴォーカル、『Vol. 1』にも参加)、おもにクラシックのフィールドで活躍し、クリスとも共演歴のあるヴァイオリン奏者のアナスタシア・マズロクらが演奏を披露する。
今回の公演は、新作リリース後ということでそちらからの選曲が軸となるのはイメージできるが、それ以外のレパートリーは行ってみてのお楽しみ。リラックスして聴き惚れるなかにスッと入り込むスリリングな瞬間、穏やかさに秘められた情熱を感じられるであろうステージになることは想像に難くない。
『Vol. 1』
(ユニバーサル ミュージック)
CHRIS BOTTI
2024 2.29 thu., 3.1 fri., 3.2 sat., 3.3 sun., 3.4 mon.
2.29 thu., 3.1 fri., 3.4 mon.
[1st]Open5:00pm Start6:00pm [2nd]Open8:00pm Start8:45pm
3.2 sat., 3.3 sun.
[1st]Open3:30pm Start4:30pm [2nd]Open6:30pm Start7:30pm
https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/chris-botti/
<MEMBER>
クリス・ボッティ(トランペット)
リー・ピアソン(ドラムス)
ダニエル・シミエリンスキー(ベース)
レオナルド・アムエド(ギター)
チャド・レフコウィッツ=ブラウン(サックス)
ジュリアン・ポラック(ピアノ)
アナスタシア・マズロク(ヴァイオリン)
アリシア・マイルズ(ヴォーカル)
ジョン・スプリトホフ(ヴォーカル)
2016年のデビューEP『Finding Foundation: Vol. 1』のなかの「No Time to Lose」がジャイルス・ピーターソン監修のコンピレーション『Brownswood Bubblers Twelve Pt. 1』に収録され、注目を集めたマディソン・マクファーリン。自身の声を余すところなく用いたこの柔らかで澄み切ったアカペラ曲は他に類を見ない個性を放っていたのをよく覚えている。
]]> マディソン・マクファーリンはブルックリンを拠点とするシンガー・ソングライター。グラミー賞を10度受賞しているヴォーカリストのボビー・マクファーリンを父に、ソロ・アーティストとしてはもちろんのこと、ロバート・グラスパーとの「R+R=NOW」でも知られるテイラー・マクファーリンを兄に持つ彼女は、先に記したEP『Finding Foundation』シリーズ2作でアカペラの可能性をじっくり追求し、芳しい成果を得ることに成功。2020年には兄・テイラーとコラボレーションしEP『You + I』を発表した。このEPは初めて声以外の楽器を導入した作品だが、彼女の歌を見事に引き立たせるサウンド・プロダクションも素晴らしかった。そして2023年、待望のデビュー・アルバム『I Hope You Can Forgive Me』をリリース。父・ボビーとの共演曲を含むこの作品は、美しいアカペラやコーラス・ワークをさまざまなリズムで彩った極上の一枚となった。これまでリンカーン・センターやセントラル・パーク・サマー・ステージなどでもパフォーマンスを披露し、2022年にはヨーロッパ・ツアーを実施、ロンドンとパリ公演はソールドアウトとなった。そんな彼女がいよいよブルーノート東京に登場する。実は彼女は2015年のボビー・マクファーリン公演にメンバーとして参加しているが、自身の名を冠したブルーノート東京のステージはこれが初。本公演の編成はドラムス、ベース、キーボードとなる模様である。最近の彼女のステージを映像で確認すると、前述の楽器陣と彼女の作品の特徴である優れたコーラス・パートを含むトラックを共存させており、しっかり作り込まれた録音物の世界観と生楽器の躍動感をパーフェクトに融合したクオリティの高いパフォーマンスを展開しているので、おそらくは本公演もその路線を踏襲するのではないだろうか。いずれにしても、彼女のクールに澄みわたる歌声を間近で堪能できるまたとない機会であることは間違いない。
『I Hope You Can Forgive Me』
(ビッグ・ナッシング / ウルトラ・ヴァイヴ)
MADISON McFERRIN
2024 2.18 sun., 2.19 mon.
2.18 sun.
[1st]Open3:30pm Start4:30pm [2nd]Open6:30pm Start7:30pm
2.19 mon.
[1st]Open5:00pm Start6:00pm [2nd]Open7:45pm Start8:30pm
https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/madison-mcferrin/
<MEMBER>
マディソン・マクファーリン(ヴォーカル)
キャメロン・ロー(キーボード)
ブルックリン・スカイ(ベース)
ドニス(ドラムス)
「UKジャズ・ファンクの頂点」、「アシッド・ジャズ界のリヴィング・レジェンド」と称される人気グループ、インコグニートが通算19枚目のスタジオ・アルバム『Into You』を携えジャパン・ツアーを行うことが決定。ブルーノート東京では5日間連続公演を開催する。
]]> ジャズ、ファンク、ソウルをこよなく愛するギタリスト/ソングライター/プロデューサーのジャン=ポール "ブルーイ" モーニックを中心として、1979年に発足。初期の名曲「Parisienne Girl」を含む81年作品『Jazz Funk』でアルバム・デビューを飾り、90年、ジャイルス・ピーターソンらが設立したレーベル"トーキング・ラウド"に移籍。「Always There」、「Don't You Worry 'Bout A Thing」、「Still A Friend Of Mine」など数々の楽曲を放ち、アシッド・ジャズ・ブームの中心的存在となった。トーキング・ラウドを離れてからも作品リリースのたびに話題を振りまき、2021年にはデビュー40周年を記念した8枚組CD『Always There 1981-2021』もリリースしている。このボックス・セット発表以降、待望のオリジナル・アルバムとなる『Into You』は、拠点のロンドンに加えてタイ、オランダでもレコーディングされた一作。大半の楽曲をオリジナル・ナンバーで占め、現インコグニートの二大看板ヴォーカリストであるチェリー・V と ナタリー・ダンカン、気鋭ギタリストのチャーリー・アレンをフィーチャーするとともに、尽きることがないブルーイの音楽的才能を改めて示したものとなっている。要注目ソウル・ユニット"Yakul"のヴォーカリストであるジェームズ・バークリーや、映画『グリッター きらめきの向こうに』や『オペレーション・フォーチュン』などに登場した俳優/ヴィブラフォン奏者のマックス・ビーズリー等、ゲスト参加陣も実に華やかだ。
インコグニートは発足以来、メイザ・リーク、ジョイ・ローズ、イマーニ、ヴァネッサ・ヘインズら数々の名ヴォーカリストを擁してきた。現メンバーであるチェリーとナタリーが往年の代表曲をどう歌いこむのか楽しみが尽きないところであるし、新アルバムのレパートリーがライヴの場でひときわ熱狂的に、パワフルに再構築されていく瞬間を体験できるのも大きな喜びだ。「私は常に自分の旅、自分が影響されたものを反映した音楽を作ってきた。日本やアジアのファンは私にインスピレーションを与え続け、創作活動を通して私の心の中にいる」と語るブルーイ。さあ、極上のファンキー・パーティの参加準備にとりかかろうではないか。
INCOGNITO『Into You』
(SPACE SHOWER MUSIC)
INCOGNITO "INTO YOU" Japan Tour 2024
2024 3.5 tue., 3.6 wed., 3.7 thu., 3.8 fri., 3.9 sat.
3.5 tue., 3.6 wed., 3.7 thu., 3.8 fri.
[1st]Open5:00pm Start6:00pm [2nd]Open7:45pm Start8:30pm
3.9 sat.
[1st]Open3:30pm Start4:30pm [2nd]Open6:30pm Start7:30pm
https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/incognito/
3.10 sun.【群馬 高崎】高崎芸術劇場 / スタジオシアター
3.12 tue.【大阪】梅田クラブクアトロ
<MEMBER>
ジャン=ポール "ブルーイ" モーニック(ギター)
チェリー・V(ヴォーカル)
ナタリー・ダンカン(ヴォーカル)
トニー・モムレル(ヴォーカル)
フランシス・ヒルトン(ベース、ミュージックディレクター)
チャーリー・アレン(ギター)
フランチェスコ・メンドリア(ドラムス)
キッコ・アロッタ(キーボード、ヴォーカル)
リッチー・スウィート(パーカッション)
シド・ゴウルド(トランペット)
アリステア・ホワイト(トロンボーン)
アンディ・ロス(サックス、フルート)
後援:ブリティッシュ・カウンシル
]]>「究極の独創性」、「明確なヴィジョンを持ち、慣習に従うことを拒否する民主的なユニット」、「常にジャンルやテクニックの架け橋となるものを探し求めると共に、卓越したミュージシャンが完璧にシンクロすることで生まれる無限の可能性を追求」。
]]> そのウェブサイトに目を走らせると、頼もしい、勇ましいフレーズがこれでもかと並ぶ。20数年のキャリアを誇るユニット"ザ・バッド・プラス"が、2013年11月に行われたカート・ローゼンウィンケルとの共演ステージ以来、約10年半ぶりにブルーノート東京へ戻ってくる。2000年に本格的なスタートをきった時の顔ぶれはリード・アンダーソン(ベース)、デヴィッド・キング(ドラムス)、イーサン・アイヴァーソン(ピアノ)だったが、2018年からはオリン・エヴァンスがアイヴァーソンの後任ピアニストを務め、2021年以降はアンダーソン、キング、ベン・モンダー(ギター)、クリス・スピード(サックス、クラリネット)の4人組として活動を続けている。モンダーはデヴィッド・ボウイ、マリア・シュナイダー、ダニー・マッキャスリン、テオ・ブレックマンら数々の才人の作品に貢献するNY音楽シーンの重鎮。スピードもモンダー同様90年代に頭角を現したひとりで、カート・ローゼンウィンケルらと組んだ"ヒューマン・フィール"、トランペット奏者クオン・ヴー(元パット・メセニー・グループ)を擁する"イエー・ノー"などのユニットで耳目を集めてきた。スピード、アンダーソン、キングは2010年代から"ブロークン・シャドウズ"というユニットにも関わっており、そこでの相性の良さもザ・バッド・プラス加入への要因になったと思われる。
意欲的なオリジナル・ナンバーに加え、トリオ編成期にはニルヴァーナやエイフェックス・ツインなどの楽曲、さらにはストラヴィンスキー「春の祭典」などもワン&オンリーの解釈で届けてくれたザ・バッド・プラスだが、カルテット編成による新スタートを記した2022年のアルバム『ザ・バッド・プラス』はアンダーソンとキングの書きおろしで占められた(2023年配信の楽曲「エレクトリック・フェイス」はアンダーソン作)。「このふたり、ここまでメロディアスで激情的な曲を書くひとだったのか」と筆者はいささか驚いたまま、久々の来日公演への期待を高めている。「俺たちは進化した。だが、依然としてザ・バッド・プラスだ」と豪語するアンダーソンとキングの言葉を胸に、全身全霊で4人の音世界に浸りたい。
THE BAD PLUS『The Bad Plus』
(Edition Records / King International)
THE BAD PLUS
2024 3.12 tue., 3.13 wed.
[1st]Open5:00pm Start6:00pm [2nd]Open7:45pm Start8:30pm
https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/the-bad-plus/
<MEMBER>
デヴィッド・キング(ドラムス)
リード・アンダーソン(ベース)
ベン・モンダー(ギター)
クリス・スピード(サックス)
※Jam Session会員限定スペシャル企画
会員ご本人+1名様までミュージック・チャージを半額とさせていただきます。
ご予約はお電話で承ります。(03-5485-0088)
凜とした冬の空気が街を覆う2月。香り高いチョコレートを味わうのに最適なシーズンの到来です。ブルーノート東京では、バレンタイン限定のスペシャルデザートをご用意しました。
photography = Shinsaku Kato
styling = Misa Nishizaki
text = Tomoko Kawai
「テリーヌショコラ ウィスキーのアイスクリーム」と名付けられたこのデザート。主役は2つ並んだショコラのテリーヌ。香り豊かなダークチョコレートにマスカルポーネでやわらかさとミルキーさを加えながら、甘さはひかえめ。とろりとした口溶けの中に、チョコレートの力強いアロマと繊細な酸味を感じられます。片方のトップにはポワブルヴェール(緑胡椒)が盛られ、青々とした香りとピリッとした辛みがアクセントに。もう片方のテリーヌにはロゼカラーに色付けしたマルドンの塩を乗せ、くせになる甘しょっぱさを醸し出しています。
添えられたアイスクリームは、バーボンウイスキーの強く甘やかな香りが主役。チョコレートと共に口に運ぶと、風味が折り重なって妖艶な味が広がります。恋する季節にふさわしいあでやかなデザート。心まで満たされる甘い体験を、ぜひ。
赤いベリーの甘酸っぱさにナッツの香り、カモミールとエルダーフラワーの爽やかさを加えたライトなカクテル。添えられたシナモンとカカオニブから、チョコレートのニュアンスを感じられる一杯です。
Dessert
テリーヌショコラ ウィスキーのアイスクリーム¥1,800 (tax in)
Cocktail
MY SWEET VALENTINE¥1,900 (tax in)
提供期間:2月12日(月) - 2月15日(木)
2024 2.12 mon., 2.13 tue., 2.14 wed., 2.15 thu.
2.12 mon. [1st] Open 3:30pm / Start 4:30pm [2nd] Open 6:30pm / Start 7:30pm
2.13 tue., 2.14 wed., 2.15 thu. [1st] Open 5:00pm / Start 6:00pm [2nd] Open 7:45pm / Start 8:30pm
Simon Bartholomew (g, vo)
Andrew Levy (b, per)
Angela Ricci (vo)
Keri Arrindell (back vo)
Ben Edwards (tp)
Richard Beesley (sax)
Matt Steele (key)
Mim Grey (back vo, per)
Luke Harris (ds)
後援:ブリティッシュ・カウンシル
¥10,500(tax in)
ロサンゼルス拠点のシンガー、ソングライター、プロデューサー、マルチ楽器奏者のジョーイ・ドーシックはソロのアーティストであり、同時に彼の周りの音楽コミュニティと関わりながら演奏をしてきた人だ。ヴルフペックとコラボレートし、前作『Inside Voice』をモッキーらと制作し、最新作『The Nostalgiac』はLikemindsをはじめとした様々な音楽家と共につくりあげた。ソウルのミュージシャンを尊敬する彼が、最新作でカヴァーしたカーティス・メイフィールドへの想い、いくつかの曲で歌に加えて声を用いた理由についても話してくれた。
Interview & text = Koki Kato
interpretation = Kazumi Someya
ーー5年ぶりのアルバムとなる『The Nostalgiac』がリリースとなりました。コロナ禍で作業が難しかった時期もあったと思います。
ステイホームの時期だったから最初はアルバムを自分一人でつくってしまおうと思ってた。けど、音楽をつくるならやっぱり友達を呼んで一緒にやりたいという気持ちになったんだ。ベッドルームをホームスタジオにつくりかえて、コラボレーターのみんなと音楽をシェアしながらつくっていった。前作から時間は経ってしまったけど、このアルバムをつくることで自分自身が改めてエネルギーを感じたし、エキサイトもした。実はもう次のアルバムも用意できてるんだ。
ーー今作は11曲中5曲がJesse SingerとChris Soperとの共作で、Likemindsとの共同プロデュースになっています。彼らとどのように出会い作品をつくっていったんでしょうか?
彼らは仲の良い友達でもあり素晴らしいミュージシャンなんだ。一人で着手したアルバムだったけど、みんなとつくりたいと思って最初に連絡したのがこの二人だった。そのJesseとChrisがやっているチームがLikemindsなんだ。自分でつくっていた音楽を彼らに聴かせている内に、こういう演奏を入れたら良いんじゃないかみたいな話になっていった。僕自身、一人でつくった音楽にいまひとつやりきれていないと感じていたから、彼らの協力があって曲に命が宿った。最初に一緒につくったのが「Make a Wish」で、そこから曲を重ねていく内に彼らと一緒にアルバムをつくりたいと思ったんだ。すでに書いてあった曲だけじゃなくて、最初から一緒に書く作業もしたよ。楽器も上手い人達だけど、レコーディング・エンジニアとしてもミキシング・エンジニアとしても優れている。今となっては僕の作品以外にも素晴らしい作品をたくさん手掛けていて、Likemindsはベストだよ。
ーー今作ではいくつかの曲から聞こえてくる声が印象的でした。あなたのパートナーも声で参加していますよね。
そう、彼女は歌ってはいないんだけど「Beat the Game」で語りをしていて、声を聞かせているよ。僕の場合、大抵の曲作りは音楽から始まるんだけど、ときにサウンドから始まることがある。僕はそれをファウンド・サウンドって言ってるんだ。ヴォイスメールに入っている声だったり、ファミリービデオの中から拾った声だったり。そういうものから曲が出来上がっていくことがたまにある。僕自身がノスタルジックな人間であるし、今作では心地よいと思える範囲でできるだけ自分の個性やパーソナリティをアルバムに反映させたいと思ったんだ。だから声を使った。いつもだったら自分の歌声を重ねていくんだけど、今回は友達や家族からのヴォイスメールの声とか、そういった音が中心になった。家族のVHSの中に入っていた曲とか(NBAのバスケットボール選手の)マジック・ジョンソンの声真似とか。マジック・ジョンソンは僕のヒーローでもあるからね。音楽をつくっている環境がとてもデジタルだから、声を入れることでヒューマンな感じとか、あたたかみみたいなものを出したかった。
ーー私たちの住む日本とアメリカでは文化は異なりますが、今作を聴いたときに親近感を感じたんです。それは今話してくれたようなヒューマンな要素が入っていたからかもしれません。
そう言ってもらえるのは僕にとってすごく意味のあることだよ。というのもアメリカの音楽と日本のリスナーのみなさんとの深いコネクションにびっくりすることがあるから。日本のリスナーの皆さんは、アメリカの色々な音楽を本当に楽しんでくれている。特に、僕の背景であるところのソウルやR&Bとか、ジャズとかニュー・インディ系の音楽を理解して楽しんで聴いてくれる人たちが多いと感じるんだ。もう一つ、今の話とは表裏一体なんだけど、音楽の好みは別として、どんな音楽が好きでも共通している人間らしい感情とか、人間性みたいなところがあるから伝わるとも思う。住んでる場所は全然違うけど、ときには勝利を味わい喜びを味わい、共通する悩みを抱えているから。
ーー私たち人間が生きている今の世界は暗い時代になってきています。今作の「Make a Wish」には願いや祈りが歌われていると思ったんです。
この曲は、僕が今まで書いてきた中で最も祈りがあるもの。この曲を書いていたときに頭の中にあったのは、音楽的に一番のインスピレーションであるカーティス・メイフィールドだったんだ。彼の書いてきた曲はポピュラーなんだけど、見方を変えると祈りそのものだから。僕自身も人生に望むこととか、家族に健康でいてほしいとか、自分がベストを尽くせる環境があることへの感謝とか、あるいは今、自分じゃどうしようもできないことが世の中には多いけど、なんとかできないのかな、そういう力が自分にあったらいいのになっていう想いとか。希望のない世の中だけど、その中になんとか希望を見出したい。そういう想いがあの曲を書きながら自分の中にとてもあった。ただ、アルバム全体としては、自分が感じた感情とか本当に体験したこととか、それが周りの誰かの体験であってもいいから、とにかく実際にあった本当のことを書きたかった。一人称で書いているから他人の話でも自分の話のように伝わっていくかもしれないけど、自分のことだと思わないで書いていたものが何年も経って振り返ってみたら、自分に当てはまることだと気づくことが何度もあったんだ。今回のアルバムの曲もそうなっていくかもしれない。けど、何を歌うにもちょっと笑顔でちょっとユーモアを込めて、そうやって人々に喜びを運べるのが音楽の良いところだと思うし、だから僕は音楽が好き。そこは心がけているところだよ。
ーーなぜ今作でカーティス・メイフィールドの「I've Been Trying」をカヴァーしたか教えてもらえますか。
この曲をカヴァーしてアルバムに入れたいと思ったことに、僕自身が驚いたんだよね。とてもベーシックなラヴ・ソングだしすごくシンプルだから。シンプルだからこそ自分のバージョンをつくれたってことでもあるんだけど、でもやっぱりそのままじゃなくて違うものに仕上げたかった。カーティス・メイフィールドは本当に重要な先生のような存在で、アメリカのポピュラー・ミュージックの建築家だと思う。あらゆるジャンルの音楽家に影響を与える曲をつくった人。誰もが彼の音楽を聴いたことがあると思うけど、誰もが彼を知っているわけじゃない、そういう存在。彼にスポットライトを当てたいという気持ちでやったわけじゃないんだけど、自分自身が彼の音楽から触発され続けていたいと思って取り組んだんだ。そもそも他人の曲を演奏するのが好きだし、他人の曲を自分なりに変えて自分の曲であるかのような仕上がりにして、その曲を自分にとってパーソナルなものにしていく過程が僕はとても好き。ジャズのミュージシャンは、いつもそれをやっているよね。
ーー前作でのビル・ウィザースの「Stories」のカヴァーも今作でのカーティス・メイフィールドの「I've Been Trying」のカヴァーもどちらもシンプルなアレンジでした。
偉大な曲っていうのは本当にシンプルで、ピアノと歌だけということもある。どちらの曲でも僕はピアノを使わなかったけど、ビル・ウィザースにしてもカーティス・メイフィールドにしてもアメリカの偉大なソングライターで、曲そのものに語らせるということが一番やり易い考え方だと思う。この2曲の僕のアプローチはそうだったんだ。
ーー70年代くらいまでの過去のソウル・ミュージックからの影響を感じさせる一方で「Beat the Game」は90年代のR&Bのような曲でしたね。
あの曲に関しては、ビデオゲームを引用しているところがあって、子どもの頃に自分が遊んでいたゲームが頭の中にあったから当時、つまり90年代の影響が曲に出てきたんじゃないかな。今回のアルバムはジャンルで言ったら、色んな音楽が入っていると思うんだけど、どれも感覚的に折り合うと思ってやっているんだ。それが聴いた人の中でも折り合ってくれたらいいな。自分の人生の中の様々な時期の音楽が頭の中で共存していて、それがそのまま出てきたってことなんだと思う。
ーーあなた自身が写し出された今作のジャケットやタイトルを見ると、子ども時代を振り返っているような印象も受けました。ミュージック・ビデオもセサミ・ストリートのようで、子どもも楽しめるような音楽だなと。
僕の音楽を今の時代の子どもたちにも楽しんでもらいたいよ。実際に僕の友達が子どもに僕の曲を聴かせている様子を動画で送ってくれたことがあって、すごく嬉しいんだよね。ミュージック・ビデオにしてもユーモアを感じてもらいたいし、一曲は実際にパペットが出てくるからセサミ・ストリートを感じるってのも分かる。子ども時代のスピリットや子どもだからこその自由みたいなものを僕もすごく求めていると思う。ただ、今回のアルバムで意識してたかっていうと、それはあまりないかもしれない。セサミストリートの話になるけど、子どもも大人も一緒に楽しめるっていうことは、自分の音楽作りにおいても考えていること。子どもの頃から、そして今もあの番組が大好きでいつか出演したいって思うくらい。子ども時代のテープから音声を録ったこともあって、それで醸し出されたあたたかみや子どもの持っているエネルギーみたいなものがアルバムに反映されたってことはあっただろうと思うよ。
ーー今回の来日公演は、最新作に参加したミュージシャンとも異なるメンバーで演奏されます。ジョーイ・ドーシックさんの音楽のまた違った側面を観ることができることを期待している人も多いと思うんです。
ジャズをやるわけじゃないけど、今回のライヴはピアノ・トリオなんだ。グループとしてすごくパワーがあって、トリオで演奏することが楽しいよ。楽器が三つしかなくてこぢんまりしているけど、一人一人が担えるものが物凄く多い。しかもドラムのジュリアン・アレンもベースのソロモン・ドーシーも歌が上手いから、それぞれが背負えるものがたくさんある。本当に期待していてほしい。親友のジュリアンは前回の来日メンバーでもあるし、もちろんドラマーとしても優れているけど、ソングライターとしても優れている。彼は今アルバムを制作中で来年リリースするんだ。ソロモンも大好きで、頼れるミュージシャンの一人。今回の来日公演は、いくつかサプライズも用意できたらいいなと思っているよ。日本の人達はライブを深く聴いてくれるから、他の国とは違うんだよね。日本のお客さんの前で演奏することは、アーティストとしてすごく満足感があるんだ。
JOEY DOSIK (of VULFPECK)
2023 12.13 wed., 12.14 thu.
[1st]Open5:00pm Start6:00pm
[2nd]Open7:45pm Start8:30pm
https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/joey-dosik/
<MEMBER>
ジョーイ・ドーシック(ヴォーカル、キーボード)
ソロモン・ドーシー(ベース)
ジュリアン・アレン(ドラムス)
後援:J-WAVE