【公演直前インタビュー】大友良英 〈前編〉 | News & Features | BLUE NOTE TOKYO

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【公演直前インタビュー】大友良英 〈前編〉

【公演直前インタビュー】大友良英 〈前編〉

大友良英の新プロジェクトがブルーノート東京で始動!
その構想と展望に迫る

 ノイズ・ミュージックから映画やドラマの劇伴まで、多岐にわたる領域で活躍し続けてきた音楽家・大友良英が、ブルーノート東京に初めて出演する。前編・後編の2回に分けてお届けするロング・インタビューの前編では、このたび初披露される新たなプロジェクトSmall Stone Ensembleとは一体どのような試みなのか、その構想と展望を語っていただいた。

Interview & Text = Narushi Hosoda
取材:2021年8月

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- まずは今回の公演で初披露される新たなプロジェクトSmall Stone Ensembleについて、いつ頃からどのように始動したのかお伺いできればと思います。プロジェクト名を見ると、小泉今日子さんのツイートから着想を得て昨年カフェ・オトの〈TakuRoku〉レーベルからリリースした『Small Stone』との繋がりも感じさせますが......。

「去年の5月に小泉さんが"小さな石をたくさん投げたら山が少し動いた"とツイートしたんですよね。ちょうどその頃ソロ・アルバムを作っていて、"あ、小石なんだな"と思って、アルバム・タイトルを『Small Stone』にしました。そのあと、この名前のついたプロジェクトをやりたいなとずっと考えてはいたんですが、状況が状況で、今メンバーを集めてライヴをやろうとしても場所がなくて難しい。そしたらブルーノート東京からお声かけいただいて、広い会場だから大きな編成でもできるなと。なので1年ぐらい頭の中になんとなくあった構想を実現し始めたという感じかな」

- プロジェクトの内容としてはどのような構想があったのでしょうか?

「『Small Stone』というアルバムは最初のステイホーム期間に一人で作ったんですけど、その時に、ある種のコレクティヴのようなプロジェクトができればいいなと思ったんです。"Small Stone"ってそもそも1個の石じゃダメで、たくさん集まってこそ意味が生まれる。僕がリーダーではあるんですけど、メンバーは流動的でライヴごとに集まれる人だけが集まって、集まったメンバーに応じて音楽が変わっていくような、ミュージシャン同士のネットワークから生まれるようなプロジェクトができればいいなと。極端なことを言えば、100人集まれたら100人編成でもいいし、5人しか集まれないときはクインテットでもいい。"それってSmall Stonesじゃないの" と言われるかもしれないですけど、"Stones"だとローリング・ストーンズをイメージしてしまいがちだから(笑)。英語ネイティヴの友達にチェックしてもらったらSmall Stoneでも意味が通るということだったので、そのまま使うことにしました」

- メンバーが流動的なプロジェクトということは、ONJQのようなバンドとは異なるということでしょうか?

「そうですね。今もバンドはいくつかやっていて、特にONJQは固定メンバーでやると決めているんですけど、Small Stone Ensembleはそうじゃなくて、なんならオレが欠席しても成り立つようなものになればいいなと思っているんですよ」

- 「さまざまなミュージシャンが集って一緒に音を出せる場を作る」と考えると、デレク・ベイリーのカンパニーも彷彿させます。Small Stone Ensembleにはそうした「場を作る」という目的もあるのでしょうか?

「それはあります。ただ、デレク・ベイリーのカンパニーは完全に即興に特化した試みだけれど、Small Stone Ensembleは即興もすごく重要だけどそこまで特化しない。オレの中でこういう人の集まり方ですごく影響を受けたものに、カンパニーももちろんだけど、ブッチ・モリスのコンダクションやジョン・ゾーンのコブラも大きなものとしてあるんです。とはいえコンダクションもコブラも30年以上前のものなので、今の時代にどうアップデートできるのかを考えました。本当はコロナ禍に見舞われていなければ海外からもミュージシャンを呼びたかったんですよね。今回は日本人ばかりというか、ほぼ東京在住者だけになってしまいましたが。ただ、メンバーは流動的で集まれる人が集まれる形にしていきたいので、一度参加してくれたらメンバーだと思っているというか」

- なるほど。そう考えると渋さ知らズ的なところもありますね。

「そうなんだよね(笑)。いつも何かやろうとすると、渋さ知らズがすでに似たようなことをやっていることがよくあるんですよ。それは不破(大輔)くんとオレが同い年で、だいたい同じようなものが好きで、バックグラウンドが近いから、どうしてもどこかで似てしまうところがあるんじゃないかなあ。あえて違いを言えば、やっぱり渋さ知らズは非常にメロディアスで、平たい言葉を使えばエモいところがあるんですよね。けれどオレはどちらかと言うとエモさではなくて、即興的にその場で音楽が組み上がっていくところを重視しているというか。だから渋さ知らズみたいに人気は出ないかも」

- いや、それはまだわかりませんが(笑)。シンプルなメロディの反復とリズミカルなビートで感情を高ぶらせていくのではなく、ある種システマティックにアンサンブルを構築するという方向性ですよね。そこではやはり指揮を用いた即興が一つのポイントになってくると思うのですが、これまでONJOやダブル・オーケストラ、アンサンブルズ東京等々で試みてきたハンドサインを今回のプロジェクトでも取り入れているのでしょうか?

「使う予定です。もうオレもあと何年活動できるだろうかと最近ずっと考えていて。それもあって今までやってきたことをより洗練させて、オレがその場にいなくても機能するようなシステムが作れたらいいなと。例えばジョン・ゾーンのコブラもそうですよね。あれは実によくできていて、ジョン・ゾーンがいなくてもコブラは成立する。あとサンティアゴ・バスケスのハンドサインもまさにそうで、本当に丁寧に作られたシステムなんですよ。そういう意味で言うと、あの二人が作ったシステムとはまた違う形で、作曲したものをその場に持っていって、即興的なシステムの中でその作曲作品を料理していく、といったようなものがやれればいいなと思っているんです。何かのルールに基づいて、完全にその場の即興で作り上げていくような曲があってもいいんだけど、それだけではなくて、例えばエリック・ドルフィーの曲だったり、メンバーの誰かの曲だったり、その曲のモチーフをもとにしてその場でお互いにコンポジションし合うシステムが作れないかなと思っていて。何回かライヴを重ねるうちにそういう仕組みが徐々に出来上がっていくんじゃないかなと」

- お互いにコンポジションし合うということは、特定の人物だけがコンダクターを担うわけではなくて、メンバー間でコンダクターの役割が入れ替わることもあるということでしょうか?

「そうですね。ただ、そのやり方を具体的にどうするのかはまだ決めていなくて、お互いに指揮し合う形になるかもしれないし、曲ごとに仕切るコンダクターが交代する形になるかもしれないし、それはこれからかな。少なくとも完全な即興だけではなくて、もう少しコンポジション寄りのことをやりたいとは思っているんですよね。コンポジションの意味合いもいろいろとあるじゃないですか。譜面にびっちり書いたものをそのまま演奏してもらうこともあれば、譜面をもとにして即興演奏してもらうこともあって、そのバリエーションをもっと広げてもいいんじゃないかなと」

- 事前にリハーサルを行う予定はありますか?

「この時期ということもあるんだけど、一つ決めているのは、本番当日の会場でのリハーサルとサウンドチェックで成り立つ程度の複雑さにしようと。例えばブッチ・モリスのコンダクションだと、丸2日間みっちりとリハーサルしても全部はマスターできないぐらい複雑なんですよね。ジョン・ゾーンのコブラも初めてだと2日間ぐらいはリハーサルしないとダメ。デレク・ベイリーのカンパニーの場合は完全即興なので基本的にはリハーサルは全くしないですけど、それとも違って、なるべくインスタント・コンポジションに近い形をキープしつつ、けれど即興とコンポジションを二つに分けて考えるんじゃなくて、それらが両方あるような形でやりたいなと思っていて」

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- ということは、アンサンブルズ東京の時みたいにオンライン上でワークショップ的なリハーサルを行って準備するわけではないと。

「まあ、よほどの状況でライヴができなくなって、人とも全く会えなくなってしまったら、オンライン上でのワークショップも考えるかもしれないですけど。とはいえ基本的にはミュージシャン同士が直接集まって、お客さんの前でパフォーマンスをするという形でこのプロジェクトはやっていきたいですね」

- 先ほど曲を取り入れて演奏すると仰っていましたが、今回の公演ではどのような曲を取り上げる予定でしょうか?

「一応プロジェクトの初回なので、主に自分の曲を演奏する予定です。あとはエリック・ドルフィーの曲。おそらく〈Straight Up And Down〉になるんじゃないかな。それを持ち込んだ時にどう機能するのか、正直やってみないとわからないんですけど、メンバーがより積極的にこのシステムに噛んでくれたら面白いことになりそう。今回のメンバーは比較的ジャズ寄りのミュージシャンが多いですけど、なんとなく上手く噛んでくれそうだなと思う人に声をかけているんです」

[後編に続く]


細田成嗣 (ほそだ なるし)
1989年生まれ。ライター/音楽批評。2013年より執筆活動を開始。『ele-king』『JazzTokyo』『Jazz The New Chapter』『ユリイカ』などに寄稿。2018年より「ポスト・インプロヴィゼーションの地平を探る」と題したイベント・シリーズを開催。2021年1月に編著を手がけた『五十年後のアルバート・アイラー』(カンパニー社)が刊行。

LIVE INFORMATION

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☆大友良英 Small Stone Ensemble
2022 3.4 fri.
[1st]Open5:00pm Start6:00pm [2nd]Open7:45pm Start8:30pm
https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/otomo-yoshihide/

<MEMBER>
大友良英(ギター、コンダクター)
類家心平(トランペット)
今込治(トロンボーン)
吉田野乃子(サックス)
松丸契(サックス)
吉田隆一(サックス)
細井徳太郎(ギター)
永武幹子(ピアノ)
鈴木正人(ベース)
山本達久(ドラムス)
林頼我(ドラムス)
上原なな江(マリンバ)
他メンバー未定

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