新生マット・ビアンコとしての日本公演を控えた マーク・ライリーへ、来日直前インタビュー! | News & Features | BLUE NOTE TOKYO

News & Features

新生マット・ビアンコとしての日本公演を控えた マーク・ライリーへ、来日直前インタビュー!

新生マット・ビアンコとしての日本公演を控えた マーク・ライリーへ、来日直前インタビュー!

あくなき挑戦。
その答えが、ジャズに取り組んだ『グラヴィティ』に結実。

 マット・ビアンコの新作『グラヴィティ』はあっと驚く内容を持つ。雄々しい管楽器音や4ビートのリズムを伴う、まじなアコースティック・ジャズ志向のアルバムとなっているから。そして、そうした設定のもとマット・ビアンコ流儀のポップネスや洒脱が明快に浮き上がる!その創意に富む新機軸の裏にあるものを訊いてみよう。

READ MORE

interview & text = Eisuke Sato

 実は、昨年暮れにマット・ビアンコの2分の1であるキーボード奏者のマーク・フィッシャーが病気でお亡くなりになった。まずは、そのことを尋ねなくてはならない。

「マーク・フィッシャーが亡くなった事について、まだ皆悲しい気持ちです。でも、マット・ビアンコを続けることに躊躇はありませんでした。彼は闘病中に最後の最後まで、非常に勇敢で威厳を保ちつつ、希望を捨てませんでした」

 ここに紹介する発言は、マット・ビアンコのフロント・マン/シンガーであり、唯一のメンバーとなったマーク・ライリーに行ったメールインタヴューで得たものだ。質問を送った翌日には返信が帰って来て、それはいかに彼が本作をポジティヴに捉えているかの証左となるだろう。

「長年に渡りマット・ビアンコの活動をしてきたので、次のアルバムに関して今までのような作品を作ることに消極的になっており、僕は新しい挑戦を探していました。その事をマネージャーと話し合った際に、彼が他にマネージしているストックホルムのジャズ・サックス奏者であるマグナス・ラングレンと一緒にやるのはどうか、というアイデアが出てきました。僕は1960年代のジャズ・コンボ、つまりドラム、ダブル・ベース、ピアノ、ホーンが2人という編成によるサウンドが好きだったので、そのアイデアを気に入りました。そして、マグナスと僕がお互いのスタジオに行き来しました。それによって完成したのが、『グラヴィティ』収録の"ジョイライド", "ソラス"、"AM/PM" 、そして "ウー・ウィー"です。残念ながら、マグナスは別の案件があったため、それ以上一緒に創作する事が出来なくなったので、誰か他に仕事出来る人を探したのです」

 その過程で浮かび上がったのが、オランダのジャズ・ファンク・バンドであるニュー・クール・コレクティヴとの共同作業。そして、別の妙味を獲得できたそれは、共同名義による前作『ザ・シングス・ユー・ラヴ』(2016年)として送り出された。

「僕はまだジャズ・コンボのサウンド・アルバムを完成させる気持ちがあったので、新たに英国人サックス奏者のデイヴ・オ・ヒギンズにアプローチしました。YouTubeにデイヴのスタジオで撮ったライブ・セッションを彼があげていたのを見ていましたし、90年代はじめのマット・ビアンコの日本ツアーで一緒に演奏して以来、彼はジャズ・サックス奏者として世界的にも評判を得ていました。そして、僕たちは一緒に作曲を開始し、彼のバンドを使って『グラヴィティ』が完成したんです」

 その『グラヴィティ』は新鮮であるとともに、これまで聞き手を魅了し続けて来た普遍的なマット・ビアンコの魅力もしっかりと息づく。ずっと変わらぬ、マット・ビアンコたらしめる公式のようなものがあれば、それはどういうものなのだろう?

「確かにこの作品は意図的に今までのマット・ビアンコのアルバムのサウンドから一線を画すようにしましたが、変わらず共通しているのは曲の重要性です。ジャズをやろうとしてもジャズのスタンダード曲をやらなかったのは、多くのアーティストが既にそうしてきましたし、陳腐な表現になってしまうと思ったから。"作曲"をすることはマット・ビアンコにとって重要な側面であり、僕にとって本当に楽しい作業なんです」

 大きく前進した2017年型のマット・ビアンコ表現は、黄金期のアコースティック・ジャズと繋がったスケールの大きな洒脱表現として見事に結実。そんな新しい姿を伝える今回のブルーノート東京公演は、もちろんデイヴ・オ・ヒギンズをはじめとするレコーディング参加の英国人コンボがそのまま同行する。

☆マーク・ライリーが大好きな、ジャズ・アルバム三傑。

 

大御所トランペッター率いるビッグ・バンドの1954年リリースの、パンチと娯楽性の効いたライヴ盤

『Dizzy Gillespie And His Orchestra Featuring Chano Pozo』

(Vogue)

 

バップ・ヴォーカル大家であるキング・プレジャーの52年から60年にかけた曲を収める

『The Source』

(Prestige)

 

ソニー・ロリンズが映画『アルフィー』に使われることを念頭に作った1966年作。編曲はオリヴァー・ネルソン。

『Alfie』

(Inpulse!)

佐藤 英輔(さとう・えいすけ)
音楽評論家。ブルーノート・ジャズ・フェスティヴァルで来日するドナルド・フェイゲンに合わせた、雑誌やムックの特集の原稿依頼を山ほど受け、彼のすごさを再確認。
ブログ:http://43142.diarynote.jp

RECOMMENDATION