【JAM vol.241】STELLA COLE
text = Mitsutaka Nagira
時代から解き放たれた
2020年代の美しきジャズ・ヴォーカル
2020年代、また若い世代が新たな感性を聴かせてくれるようになった。特に2000年前後に生まれたいわゆるZ世代は明らかに異なるセンスを持っていた。その中でもヴォーカリストたちの動向から目が離せない。
ジャズで言えば、その代表格は1999年生まれのサマラ・ジョイ。2023年のグラミー賞最優秀新人賞の受賞以降、すでに5冠。現代最高のジャズ・ヴォーカリストのひとりだと誰もが納得する存在になっている。そんなサマラの特徴のひとつは、伝統的なジャズの形のままでジャズをアップデートしているところにある。スタンダード中心のレパートリーで、"ジャズ"をまっすぐに表現していたことがその人気にも繋がった。しかも、そこに作為はまったくなく、「ジャズが好きだから歌う」という自然体だったこともまたその魅力を引き立てていた。彼女の成功の理由はその圧倒的な歌唱力だけではなかったと思う。
一見、サマラ・ジョイの登場はイレギュラーなものに見えるかもしれないが、じつはポップスの世界を見渡せば、同じような感性を見ることができる。その筆頭はサマラの同世代、1999年生まれのシンガー・ソングライターのレイヴェイだろう。アイスランドと中国にルーツを持ち、現在はアメリカを拠点に活動する彼女は今やカリスマ的な人気を誇る。そんな彼女が愛するのはクラシックとジャズとボサノヴァ。そのノスタルジックな世界観に世界中の女性たちが夢中になっている。その中でもジャズの要素は彼女の音楽のカギになっているのだが、興味深いのは1950年代のミュージカル映画からの影響をたびたび語っていて、ジュリー・ロンドンやペギー・リーが歌うミュージカル由来のスタンダードを愛聴していること。コンサートでは「I Wish You Love」や「Nearness of You」を取り上げることもある。彼女のファンはレイヴェイに合わせて、それらを一緒に合唱する。彼女のコンサートでは50年代のスタンダードがふたたびポップソングとして歌われるような状況がある。
レイヴェイの成功に大きな力となったのが2001年生まれのビリー・アイリッシュ。ビリーがレイヴェイの「Typical of Me」を紹介したことでその知名度は一気に上がった経緯がある。そんなビリーの音楽には、レイヴェイ同様に伝統的なスタンダード・ソングからの影響を聴くことができる。ビリーと彼女の多くの曲をプロデュースする1997年生まれの兄フィニアス・オコネルは、ジュリー・ロンドンやペギー・リー、フランク・シナトラにも言及することがある。ビリー・アイリッシュがレイヴェイをプッシュした理由は二人の音楽の中にアメリカのスタンダード・ソングにも通じるノスタルジックな要素があったからではないかと僕は思っている。

レイヴェイへの共感を口にし、ビリー・アイリッシュの楽曲をジャズ・アレンジで歌うジャズ・ヴォーカリストがいる。それがステラ・コールだ。1999年生まれでレイヴェイと同世代の彼女はジュディ・ガーランドやバーブラ・ストライザンドからの影響を語り、『オズの魔法使い』や『サウンド・オブ・ミュージック』といったミュージカル映画への愛着を語る。それと同時にシャペル・ローンやサブリナ・カーペンターへの共感も口にする。それはレイヴェイがテイラー・スウィフトやミュージカル映画の影響を共存させていることと同時代に起きていることだ。レイヴェイもステラも中高生のころには既にYouTubeもSpotifyも存在していた世代。彼女たちはあらゆる音楽をいくらでも聴くことができた。そんなジャンルにも時代にも縛られない環境の中で彼女たちは半世紀以上前のジャズやミュージカルの楽しさや美しさを発見し、その要素を反映させた古くて新しい音楽を生み出した。ステラは「私のショウを観た人から"まるで別の時代のジャズクラブに来たみたい"って言われたことがある」と言ったと思うと、「ビリー・アイリッシュやセレステの曲を入れたら自然にいまの音楽になるよね」なんて語ったりもする。「古い音楽を真似たくないのと同様に無理に新しくしようってこだわりもない」というその自然体が、彼女の音楽を同世代への共感と懐かしさの両方を内包させることが理由なのかもしれない。
いまステラ・コールのジャズを聴くことは、2020年代のポップ・ミュージックを聴くのと同じような体験なのではないかと僕は思っている。


『It's Magic』
(ユニバーサル ミュージック)
LIVE INFORMATION
STELLA COLE
2026 2.27 fri., 2.28 sat.
2.27 fri.
[1st]Open5:00pm Start6:00pm [2nd]Open7:45pm Start8:30pm
2.28 sat.
[1st]Open3:30pm Start4:30pm [2nd]Open6:30pm Start7:30pm
https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/stella-cole/
<MEMBER>
ステラ・コール(ヴォーカル)
マイケル・ケイナン(ピアノ)
マイケル・ミリオーレ(ベース)
ハンク・アレン・バーフィールド(ドラムス)

