【来日直前インタビュー】JOEY DOSIK | News & Features | BLUE NOTE TOKYO

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【来日直前インタビュー】JOEY DOSIK

【来日直前インタビュー】JOEY DOSIK

ジョーイ・ドーシックが声で表現する人間のあたたかみ
音楽仲間とつくりあげたパーソナルな最新作

ロサンゼルス拠点のシンガー、ソングライター、プロデューサー、マルチ楽器奏者のジョーイ・ドーシックはソロのアーティストであり、同時に彼の周りの音楽コミュニティと関わりながら演奏をしてきた人だ。ヴルフペックとコラボレートし、前作『Inside Voice』をモッキーらと制作し、最新作『The Nostalgiac』はLikemindsをはじめとした様々な音楽家と共につくりあげた。ソウルのミュージシャンを尊敬する彼が、最新作でカヴァーしたカーティス・メイフィールドへの想い、いくつかの曲で歌に加えて声を用いた理由についても話してくれた。

Interview & text = Koki Kato
interpretation = Kazumi Someya

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ーー5年ぶりのアルバムとなる『The Nostalgiac』がリリースとなりました。コロナ禍で作業が難しかった時期もあったと思います。

ステイホームの時期だったから最初はアルバムを自分一人でつくってしまおうと思ってた。けど、音楽をつくるならやっぱり友達を呼んで一緒にやりたいという気持ちになったんだ。ベッドルームをホームスタジオにつくりかえて、コラボレーターのみんなと音楽をシェアしながらつくっていった。前作から時間は経ってしまったけど、このアルバムをつくることで自分自身が改めてエネルギーを感じたし、エキサイトもした。実はもう次のアルバムも用意できてるんだ。

ーー今作は11曲中5曲がJesse SingerとChris Soperとの共作で、Likemindsとの共同プロデュースになっています。彼らとどのように出会い作品をつくっていったんでしょうか?

彼らは仲の良い友達でもあり素晴らしいミュージシャンなんだ。一人で着手したアルバムだったけど、みんなとつくりたいと思って最初に連絡したのがこの二人だった。そのJesseとChrisがやっているチームがLikemindsなんだ。自分でつくっていた音楽を彼らに聴かせている内に、こういう演奏を入れたら良いんじゃないかみたいな話になっていった。僕自身、一人でつくった音楽にいまひとつやりきれていないと感じていたから、彼らの協力があって曲に命が宿った。最初に一緒につくったのが「Make a Wish」で、そこから曲を重ねていく内に彼らと一緒にアルバムをつくりたいと思ったんだ。すでに書いてあった曲だけじゃなくて、最初から一緒に書く作業もしたよ。楽器も上手い人達だけど、レコーディング・エンジニアとしてもミキシング・エンジニアとしても優れている。今となっては僕の作品以外にも素晴らしい作品をたくさん手掛けていて、Likemindsはベストだよ。

ーー今作ではいくつかの曲から聞こえてくる声が印象的でした。あなたのパートナーも声で参加していますよね。

そう、彼女は歌ってはいないんだけど「Beat the Game」で語りをしていて、声を聞かせているよ。僕の場合、大抵の曲作りは音楽から始まるんだけど、ときにサウンドから始まることがある。僕はそれをファウンド・サウンドって言ってるんだ。ヴォイスメールに入っている声だったり、ファミリービデオの中から拾った声だったり。そういうものから曲が出来上がっていくことがたまにある。僕自身がノスタルジックな人間であるし、今作では心地よいと思える範囲でできるだけ自分の個性やパーソナリティをアルバムに反映させたいと思ったんだ。だから声を使った。いつもだったら自分の歌声を重ねていくんだけど、今回は友達や家族からのヴォイスメールの声とか、そういった音が中心になった。家族のVHSの中に入っていた曲とか(NBAのバスケットボール選手の)マジック・ジョンソンの声真似とか。マジック・ジョンソンは僕のヒーローでもあるからね。音楽をつくっている環境がとてもデジタルだから、声を入れることでヒューマンな感じとか、あたたかみみたいなものを出したかった。

ーー私たちの住む日本とアメリカでは文化は異なりますが、今作を聴いたときに親近感を感じたんです。それは今話してくれたようなヒューマンな要素が入っていたからかもしれません。

そう言ってもらえるのは僕にとってすごく意味のあることだよ。というのもアメリカの音楽と日本のリスナーのみなさんとの深いコネクションにびっくりすることがあるから。日本のリスナーの皆さんは、アメリカの色々な音楽を本当に楽しんでくれている。特に、僕の背景であるところのソウルやR&Bとか、ジャズとかニュー・インディ系の音楽を理解して楽しんで聴いてくれる人たちが多いと感じるんだ。もう一つ、今の話とは表裏一体なんだけど、音楽の好みは別として、どんな音楽が好きでも共通している人間らしい感情とか、人間性みたいなところがあるから伝わるとも思う。住んでる場所は全然違うけど、ときには勝利を味わい喜びを味わい、共通する悩みを抱えているから。


ーー私たち人間が生きている今の世界は暗い時代になってきています。今作の「Make a Wish」には願いや祈りが歌われていると思ったんです。

この曲は、僕が今まで書いてきた中で最も祈りがあるもの。この曲を書いていたときに頭の中にあったのは、音楽的に一番のインスピレーションであるカーティス・メイフィールドだったんだ。彼の書いてきた曲はポピュラーなんだけど、見方を変えると祈りそのものだから。僕自身も人生に望むこととか、家族に健康でいてほしいとか、自分がベストを尽くせる環境があることへの感謝とか、あるいは今、自分じゃどうしようもできないことが世の中には多いけど、なんとかできないのかな、そういう力が自分にあったらいいのになっていう想いとか。希望のない世の中だけど、その中になんとか希望を見出したい。そういう想いがあの曲を書きながら自分の中にとてもあった。ただ、アルバム全体としては、自分が感じた感情とか本当に体験したこととか、それが周りの誰かの体験であってもいいから、とにかく実際にあった本当のことを書きたかった。一人称で書いているから他人の話でも自分の話のように伝わっていくかもしれないけど、自分のことだと思わないで書いていたものが何年も経って振り返ってみたら、自分に当てはまることだと気づくことが何度もあったんだ。今回のアルバムの曲もそうなっていくかもしれない。けど、何を歌うにもちょっと笑顔でちょっとユーモアを込めて、そうやって人々に喜びを運べるのが音楽の良いところだと思うし、だから僕は音楽が好き。そこは心がけているところだよ。

ーーなぜ今作でカーティス・メイフィールドの「I've Been Trying」をカヴァーしたか教えてもらえますか。

この曲をカヴァーしてアルバムに入れたいと思ったことに、僕自身が驚いたんだよね。とてもベーシックなラヴ・ソングだしすごくシンプルだから。シンプルだからこそ自分のバージョンをつくれたってことでもあるんだけど、でもやっぱりそのままじゃなくて違うものに仕上げたかった。カーティス・メイフィールドは本当に重要な先生のような存在で、アメリカのポピュラー・ミュージックの建築家だと思う。あらゆるジャンルの音楽家に影響を与える曲をつくった人。誰もが彼の音楽を聴いたことがあると思うけど、誰もが彼を知っているわけじゃない、そういう存在。彼にスポットライトを当てたいという気持ちでやったわけじゃないんだけど、自分自身が彼の音楽から触発され続けていたいと思って取り組んだんだ。そもそも他人の曲を演奏するのが好きだし、他人の曲を自分なりに変えて自分の曲であるかのような仕上がりにして、その曲を自分にとってパーソナルなものにしていく過程が僕はとても好き。ジャズのミュージシャンは、いつもそれをやっているよね。

ーー前作でのビル・ウィザースの「Stories」のカヴァーも今作でのカーティス・メイフィールドの「I've Been Trying」のカヴァーもどちらもシンプルなアレンジでした。

偉大な曲っていうのは本当にシンプルで、ピアノと歌だけということもある。どちらの曲でも僕はピアノを使わなかったけど、ビル・ウィザースにしてもカーティス・メイフィールドにしてもアメリカの偉大なソングライターで、曲そのものに語らせるということが一番やり易い考え方だと思う。この2曲の僕のアプローチはそうだったんだ。


ーー70年代くらいまでの過去のソウル・ミュージックからの影響を感じさせる一方で「Beat the Game」は90年代のR&Bのような曲でしたね。

あの曲に関しては、ビデオゲームを引用しているところがあって、子どもの頃に自分が遊んでいたゲームが頭の中にあったから当時、つまり90年代の影響が曲に出てきたんじゃないかな。今回のアルバムはジャンルで言ったら、色んな音楽が入っていると思うんだけど、どれも感覚的に折り合うと思ってやっているんだ。それが聴いた人の中でも折り合ってくれたらいいな。自分の人生の中の様々な時期の音楽が頭の中で共存していて、それがそのまま出てきたってことなんだと思う。

ーーあなた自身が写し出された今作のジャケットやタイトルを見ると、子ども時代を振り返っているような印象も受けました。ミュージック・ビデオもセサミ・ストリートのようで、子どもも楽しめるような音楽だなと。

僕の音楽を今の時代の子どもたちにも楽しんでもらいたいよ。実際に僕の友達が子どもに僕の曲を聴かせている様子を動画で送ってくれたことがあって、すごく嬉しいんだよね。ミュージック・ビデオにしてもユーモアを感じてもらいたいし、一曲は実際にパペットが出てくるからセサミ・ストリートを感じるってのも分かる。子ども時代のスピリットや子どもだからこその自由みたいなものを僕もすごく求めていると思う。ただ、今回のアルバムで意識してたかっていうと、それはあまりないかもしれない。セサミストリートの話になるけど、子どもも大人も一緒に楽しめるっていうことは、自分の音楽作りにおいても考えていること。子どもの頃から、そして今もあの番組が大好きでいつか出演したいって思うくらい。子ども時代のテープから音声を録ったこともあって、それで醸し出されたあたたかみや子どもの持っているエネルギーみたいなものがアルバムに反映されたってことはあっただろうと思うよ。

ーー今回の来日公演は、最新作に参加したミュージシャンとも異なるメンバーで演奏されます。ジョーイ・ドーシックさんの音楽のまた違った側面を観ることができることを期待している人も多いと思うんです。

ジャズをやるわけじゃないけど、今回のライヴはピアノ・トリオなんだ。グループとしてすごくパワーがあって、トリオで演奏することが楽しいよ。楽器が三つしかなくてこぢんまりしているけど、一人一人が担えるものが物凄く多い。しかもドラムのジュリアン・アレンもベースのソロモン・ドーシーも歌が上手いから、それぞれが背負えるものがたくさんある。本当に期待していてほしい。親友のジュリアンは前回の来日メンバーでもあるし、もちろんドラマーとしても優れているけど、ソングライターとしても優れている。彼は今アルバムを制作中で来年リリースするんだ。ソロモンも大好きで、頼れるミュージシャンの一人。今回の来日公演は、いくつかサプライズも用意できたらいいなと思っているよ。日本の人達はライブを深く聴いてくれるから、他の国とは違うんだよね。日本のお客さんの前で演奏することは、アーティストとしてすごく満足感があるんだ。


LIVE INFORMATION

https://www.bluenote.co.jp/jp/news/images/20231213/20231213_joey_image01_.jpg

JOEY DOSIK (of VULFPECK)

2023 12.13 wed., 12.14 thu.
[1st]Open5:00pm Start6:00pm
[2nd]Open7:45pm Start8:30pm
https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/joey-dosik/

<MEMBER>
ジョーイ・ドーシック(ヴォーカル、キーボード)
ソロモン・ドーシー(ベース)
ジュリアン・アレン(ドラムス)

後援:J-WAVE


加藤孔紀(かとう・こうき)
宮城県石巻市出身。主に音楽メディア「TURN」でレヴューやインタビューの原稿を執筆。友人らと共に東京都世田谷区喜多見のレコード店「Read Music Club」を運営。

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