【スペシャル・インタビュー】GREGORY PORTER | News & Features | BLUE NOTE TOKYO

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【スペシャル・インタビュー】GREGORY PORTER

【スペシャル・インタビュー】GREGORY PORTER

世界最高峰ジャズ・シンガーがいよいよ来日
ホールで体感するハートフル・ヴォイスの溢れる魅力

 グレゴリー・ポーターが待望の来日を果たす。なんと8年ぶりとのことだが、グレゴリーはグラミー賞の受賞などアメリカで高い評価を得る一方で、ヨーロッパではアメリカ以上の人気を得ていて、今や名門ジャズクラブやフェスだけでなく、大きなホールでもコンサートが当たり前の存在になっている。実はグレゴリーはヨーロッパで最も成功したジャズ・ミュージシャンなのだ。日本公演がここまで久しぶりなのはそんな理由がある。今や世界中で引っ張りだこで招聘するのが容易ではない彼の今回の公演はめちゃくちゃ貴重な一夜だ。

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 そんなグレゴリーがスケジュールの合間を縫って、ブルータスのジャズ特集号"JAZZ is POP"とブルーノート東京のために取材時間をくれた。今、世界で最も人気のあるジャズ・ヴォーカリストは幾多の経験を経て、更にスケールアップしているのだが、その一端が言葉の端々から垣間見える。目新しさというよりは、オーセンティックなスタイルはそのままに、現在の自身が置かれた立場に合わせて、自身の歌の届け方やその表現力を繊細に工夫しながら、丁寧にブラッシュアップしているのがわかる。

 グレゴリー・ポーターの来日前の予習として、今のグレゴリーの言葉をぜひ、読んでみてください。

interview & text = Mitsutaka Nagira
interpretation = Keiko Yuyama
live photo = Takuo Sato

 -- そもそも ジャズを好きになったきっかけは?

「子供の頃に自宅で流れていたルイ・アームストロングやナット・キング・コールが大好きだった。でも、当時はそれがジャズだったなんて知らなかったし、好きだから聴いていただけ。ずっと後に彼らがジャズ・アーティストだと初めて知ったんだよね(笑)。もともと、うちの母は古典的なジャズの大ファンで、エラ・フィッツジェラルドやルイ・アームストロング、ナット・キング・コール等をよく聴いていたんだ。 子供の頃には車の後部座席で兄弟姉妹と一緒に自作曲を歌っていたんだけど(笑)、今考えるとジャズを歌っていたんだよね。(ここで指をスナップしながら歌い始める)『♪Black shadow's coming your way... Black shadow's coming your way... You'd better watch out...(黒い影がやってくる/黒い影がやってくる/ さぁ気をつけろ)』みたいな感じで(笑)。どうしてそんな訳わからない歌を作ったのか自分でもわからないけど(笑)。僕が5歳の頃の話だよ」

 -- ジャズの魅力ってどんなところだと思いますか?

「まず第1に、ジャズのインプロヴィゼーションが魅力的だった。僕が子供の頃から歌ってきたゴスペル・ミュージックにはインプロヴィゼーションがあるんだけど、ジャズを聴き始めた時、ゴスペルのインプロヴィゼーションと共通したものがあることに気づいたんだよ。教会で歌ってきたゴスペル同様に、ジャズもメロディーを外して即興的に歌うスタイルがあるからね。ゴスペルとジャズには沢山共通点があるんだ」

 -- あなたは様々なヴォーカリストを研究してきたと思いますけど、R&B、ヒップホップ、ロックとかになるとどんなヴォーカリストが好きですか?

「ヒップホップ界で大好きなアーティストは沢山いるけど、例えばコモン、ザ・ルーツのブラック・ソート、タリブ・クウェリかな。この他、歌唱法においてとにかく歌声や個性が最高なアーティストもいる。先日はカントリー・シンガーのジョニー・キャッシュを聴いて驚いたよ。それから、ボブ・ディランやレナード・コーエンのような不完全な歌声には、巧妙かつ器用なテクニックなどなくても、あの素晴らしい人間味が魅力だね。世界における偉大な歌声の持ち主だと思う。最近はルチアーノ・パヴァロッティを聴くこともある。彼の歌声の力強さ、歌唱の明瞭さ、温かさを僕も身につけたいんだ」

 -- あなたは名曲「1960 What?」など、デビューしたころから社会問題に対するメッセージを音楽に込めてきました。それは今でも変わらず『All Rise』でも「Mister Holland」など、いくつかの曲でそれを聴くことができます。ジャズは社会問題と切り離せない音楽でもあると思います。そこについてあなたの見解を聞かせてもらえますか?

「まさにその通りだね。ホレス・シルバーの "Peace"、アビー・リンカーンの "Mississippi Goddam" や "I Wish I Knew (How It Would Feel To Be Free) "といった曲には、ジャズの魅力のひとつである、人生における社会問題を歌う機会を得られた喜びが感じられると思う。こういった楽曲は人類の暗い面を題材として扱っているけど、歌詞面では、直接的には描写していないと思う。ジャズ・シンガーが人種問題を扱った楽曲では、歌詞内で語らない部分が存在するんだ。例えば、"Strange Fruits" はディープな曲だけど、人種問題に関してメタファーで示唆しても、敬意のある、美しい名曲に仕上がっている。でも、実は、この楽曲には『人種差別など絶対あってはいけないこと』という強いメッセージが込められている。これこそが、社会問題を扱ったジャズ楽曲の美しさだと僕は思うよ」

 -- ところで若手ジャズ・ピアニストのJulius Rodriguezが『Let Sound Tell All』というアルバムの中であなたの "In Heaven" をカヴァーしていました。そこでは若手ジャズ・ヴォーカリストのSamara Joyが独自の解釈で歌っていたんですけど、それって聴きました?

「ジュリアスはエレベーター内で一緒になった時にこのアルバムを僕に何も言わずに手渡して何処かに行っちゃったんだよ(笑)。一言も発さずに(笑)。僕はその場でバッグの中にしまって、自宅に持ち帰ったんだけど、その後すぐにツアーに出てしまったからまだ聴いてなくて... 今日必ず聴くよ!!! マルチ・インスゥトゥルメンタリストでもあるジュリアス・ロドリゲスが弾くジャズ・ピアノのエネルギーや感情は素晴らしいし、サマラ・ジョイは特別な才能の持ち主だし、彼女は本物のシンガーだよね。僕は2人の将来に期待しているんだ」

 -- 去年、ロバート・グラスパー『Black Radio 3』に参加して "It Don't Matter" を歌ってましたよね。この曲の録音ってどんな感じでした?

「君も知っていると思うけど、ロバートと一緒にいるといつも周りはみんな大笑いしている感じでね、とにかく楽しい現場なんだよ(笑)。同時に、彼は天才的な音楽家。彼とレディシとのレコーディングは、特別なものだったよ。僕はいつも決まった仲間とレコーディングしているから、ロバートとレディシとのセッションは新鮮だったのもあるね。今回はレディシがロバートのために書き下ろした楽曲を歌ったんだけど、トップ・クラスのふたりとのコラボにはもう心が高揚したよね!」

 -- あなたはロイヤル・アルバート・ホールなど、世界中のホールでコンサートを行っていますよね。ホールでのコンサートならではの見どころはありますか?

「ホールでのコンサートでは、僕はステージ上で両腕を広げて楽曲を身体でも表現しながら、より多くのオーディエンスに向けて歌うんだ。例えば、5,000人のオーディエンスが集まる会場でも、観客が1/5(=1,000人)のキャパのジャズ・クラブに聴きに来ているように感じられるようなアプローチで歌っている。例えば、一番後ろの列の人にも距離を感じさせないようにすることは音楽的挑戦が伴うよね。でも、それは非常にワクワクするチャレンジなんだ。フェスだと過去最高8万人の観客の前で歌ったこともあるんだけど、オーディエンスが夢中になって聴いたり、僕の表現を感じたりできるような親密なライヴを目指しているね。僕は頭の中では『どうやって遊び心のある面白いショーにするか』を意識しつつ、いつもライヴを楽しんでいるよ」

 -- ホールだとシンガーとしては歌い方はどう変化しますか?

「うんうん。もちろん変わるね。僕はジャズの仕事に就く前に数年間、劇場での演劇を学んでいた時期があったんだ。恐らく会場の空間や環境的なものから起こるんだと思うけど、大きなコンサート・ホールや大聖堂、オペラ・ハウスのような会場では、ステージ上で両腕を大きく広げて身体表現している自分がいるんだよね。自分の振る舞いが『オペラに近い』と言っているワケじゃないけど、楽曲内容によっては、時々演者のように歌うこともある。例えば、"When Love Was a King" は、まるでアリアを歌う役のような気持ちになるし、広い会場に合うんだ。僕の曲にはそういった楽曲もいくつかあるんだよね。ラッキーなことに、クラシック系アーティストも僕のコンサートを観に来てくれるんだけど、これは僕にとってすごく喜ばしいことなんだよね」

 -- 最後に8年ぶりの日本公演に向けてひとことお願いします。

「前回から随分経っているんだよね。歴史的にも日本のジャズ・ファンは耳が肥えていることで知られているし、『日本のオーディエンスを魅了できるかどうかが "成功への試金石"』と言われてきたように、早い時点で日本のオーディエンスから受け入れてもらい、ポジティヴなエネルギーを共有してきたことは、僕にとっては心温まる体験なんだ。それに僕のいくつかのアルバム・レコーディングとツアーには日本出身のサックス奏者、ヨウスケ・サトウが参加してきたことも重要なんだ。ヨウスケとは世界中で素晴らしいステージを共にしてきた。彼との出会いはハーレムのジャズ・クラブなんだけど、僕らは出会った時から特別な関係だったからね。だから僕は再びまた日本へ行くことを心から楽しみにしているよ」

LIVE INFORMATION

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Blue Note Tokyo presents
GREGORY PORTER in Concert

2023 5.19 fri.
Open6:00pm Start7:00pm
https://www.bluenote.co.jp/jp/lp/gregory-porter-2023/

<会場>
すみだトリフォニーホール (東京都墨田区錦糸1-2-3)
https://www.triphony.com

<MEMBER>
グレゴリー・ポーター(ヴォーカル)
チップ・クロフォード(ピアノ)
エマニュエル・ハロルド(ドラムス)
オンドジェイ・ピヴェク(ハモンドオルガン)
ジャマール・ニコルズ(ベース)
ティヴォン・ペニコット(サックス)


柳樂光隆
79年、島根県出雲市生まれ。音楽評論家。 21世紀以降のジャズをまとめた世界初のジャズ本「Jazz The New Chapter」シリーズ監修者。共著に鼎談集『100年のジャズを聴く』など。鎌倉FM「世界はジャズを求めてる」でラジオ・パーソナリティも務める。

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