12月29日に新作『Grand Voyage』をリリースする大西順子が、発売直前のスペシャル・ライヴをブルーノート東京で行った。私はファースト・セットに行ったのだが、満員の客席は始まる前から期待がみなぎっている、という雰囲気。向かって右に大西順子のピアノ、その左隣の奥にベースの井上陽介、ベースの隣が吉良創太のドラムス、そしてパーカッションの大儀見元は、コンガやティンバーレスなど様々なパーカッションを並べてドラムスの前に位置している。

　ステージは『Grand Voyage』に収録されている「It's a Fine Day」から始まった。非常に入り組んだ仕掛けが満載されている曲だが、カリプソ的なリズムとスウィングするフォービートが交互に出てくる構成を、カルテットは実に楽しげに、そしてグルーヴしまくってプレイしている。大西順子のソロの中に、ソニー・ロリンズの「St.Thomas」のフレーズが引用されたりもして、最初からバンドのスロットルは全開だ。２曲目は大西が敬愛するピアニスト、ジェリ・アレンの初期の作品から「Printmakers」を。もともとかなり複雑な、そしてフリーな演奏が展開される曲で、大西順子カルテットのアレンジはさらに複雑になっている！　ここでの４人のフリーな絡み、特にドラムスとパーカッションの自由奔放なプレイが壮絶だった。大西順子の迫力ある低音のアクセントや両手を駆使したオクターヴ・ユニゾンのソロも素晴らしい。パーカッションとドラムスのデュオによる「Tridacna Talk」を経て、ウェザー・リポートの「Black Market」を思わせる低音のリフが印象的な「High Tide」と「Low Tide」のメドレーへと続く。この辺になってくると、４人が一体となって迫ってくるパワーに圧倒されて、こちらもたじたじとなってしまった。ここまで高密度でシリアスで、それでいて恐ろしくグルーヴするジャズを生で体験するのは久しぶりだ。

　大儀見元のスペイン語の歌をフィーチュアした美しい曲「Un Dia de Cielo Azul」でチルアウトして、ピアノとパーカッションのデュオによるダラー・ブランドの「Kippy」が演奏される。セロニアス・モンクやデューク・エリントンを想起させる静謐なこの曲が、それまでの激しい演奏との対比で、ひときわ心に染みわたってきた。そして本編のフィナーレは『Grand Voyage』１曲目の「Wind Rose」。速めのテンポの３拍子系の曲で、最初は静かに始まったのだが、気がつくと演奏はエキサイティングに盛り上がり、４人ともがすごい勢いで疾走している。そしてアンコールは「Harvest! Harvest!」。

　このカルテットは、単に「ピアノ・トリオ＋パーカッション」というだけではない、実に幅広く奥の深い音楽的ポテンシャルを内包したユニットだ。大儀見元という稀有なパーカッショニストの存在が重要なのはもちろんだが、その可能性を最大限に引き出した大西順子の、リーダーとしての手腕も素晴らしい。そしてなによりうれしいのは、この４人がそれぞれ自由に演奏しつつ、「バンド」としての一体感を強く感じさせることなのだ。

text：村井康司
音楽評論家。1958年生まれ。著書『あなたの聴き方を変えるジャズ史』『JAZZ 100の扉』『現代ジャズのレッスン』『ページをめくるとジャズが聞こえる』他。尚美学園大学講師『ジャズ史』。

Photo by Takuo Sato

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【INFORMATION】

☆ブルーノート東京公演の模様は、12月29日(水)までアーカイブ配信をご視聴いただけます。
※販売終了：12.29 wed. 10:00pm、配信期限：12.29 wed. 11:59pm

☆3月にはすみだトリフォニーホール公演も！
大西順子プレミアムコンサート
2022 3.8 tue.　Open6:00pm Start7:00pm
@すみだトリフォニーホール 大ホール
第一部：大西順子 QUARTET
第二部：大西順子 presents THE ORCHESTRA