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MARK GUILIANA JAZZ QUARTET @COTTON CLUB

artist MARK GUILIANA , SHAI MAESTRO

REPORT

現代ジャズドラムの最前線、マーク・ジュリアナが再び来日を果たした。
マーク・ジュリアナと言えば、マーク自身が率いるジャズミュージシャンによる人力テクノ/ダブ・プロジェクト、"ビートミュージック"や、ブラッド・メルドーとのエレクトロニックなサウンドのデュオ・プロジェクト、"メリアーナ"などで聴かれるようなまるでプログラミングされたようなリズムを叩きだしてしまうスタイルで大きな注目を集めている。近年、その存在感は増す一方で、2016年1月にリリースされるデヴィッド・ボウイの新作『★』に起用されることは大きなニュースにもなっている。

そんな彼が2014年、自身初のアコースティック・ジャズのアルバム『Family First』をリリースした。ビートミュージックのメンバーとしても来日しているベーシストのクリス・モリッシー、アイヴィッド・オプシヴィックやクリス・デイヴィスなどとの活動でも知られるサックス奏者ジェイソン・リグビー、アヴィシャイ・コーエン(b)・トリオ時代の同僚で、今やイスラエル出身のジャズミュージシャンの枠を超え、NYで最も活躍しているピアニストとなりつつある俊英シャイ・マエストロと結成したマーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテットで、マーク・ジュリアナのオリジナル曲を中心に、すべてアコースティックで、モダンジャズのフォーマットで演奏するのがコンセプトだ。

まず目を引いたのは、やはりマークのドラムだ。普段はエレクトロニックミュージックを人力のドラムに置き換えるために特異なセッティングをしているマークだが、「自分は演奏する音楽によってセッティングを変える」と語るマークは、今回の来日公演では非常にオーソドックスなドラムセットを用意していた。そして、しょっぱなから、4ビートの曲で、マークがシンバルのレガートを叩きはじめる。もう、これだけでこれまでのマーク・ジュリアナを知っているリスナーにとっては驚きだろう。そして、そのシンバルの音色がものすごく美しいことにも驚く。普段のマークは、打ち込みの電子音の音色を模した音が鳴らない/音が伸びないドラムを敢えて使っていたため、見えてこなかったが、ここでのマークはすべてのドラムを的確に叩き、そのドラムが持つ最もクリアで美しい響きを鳴らしていた。

その音色の美しさはマークだけではない。クリス・モリッシーはウッドベースの弦が弾かれる音を輪郭のはっきりした軽やかな音色で鳴らし、シャイ・マエストロは高音から低音、ピアニッシモからフォルテッシモまでを音の粒立ちの良いくっきりした音色で奏でていく。ジェイソン・リグビーも中音域を中心にふくよかな音色でエモーショナルなフレーズをもスムースによどみなく吹き切っていた。マーク・ジュリアナはアコースティック・ジャズのフォーマットだろうが、エレクトリックなサウンドを駆使したビートミュージックだろうが、サウンドの設計への考え方が全く変わっていないのだ。ビートミュージックのころに、エレキベースやシンセベース、多彩なエレピやシンセサイザーに託していたものと全く同じレベルの音色へのこだわりをアコースティックの楽器にも求めているように思えた。そして、そのアコースティックならではの響きはライブの場でこそより深く体感できるものだったように思う。そして、その音色でとてつもなく敏感で瞬発力の高い音のやり取りをする。中でもマークとシャイがアイコンタクトで行うやり取りは一瞬たりとも目が離せない。二人がアヴィシャイ・コーエン・トリオでやっていた演奏もすごかったが、より制約のない中で自由に音を出すことができるこのバンドでは彼らの即興演奏家としてのよりピュアな部分が出ていて、どこかスピリチュアルな演奏になっていたようにも思う。ラストの<Long Branch>では、二人の演奏が圧巻だった。

そんなオーセンティックなジャズのフォーマットに沿った中でも、アルバム未収録のルーファス・ウェインライトの<Beautiful Child>をフォーキーに演奏してみたり、<One Mouth>では冒頭のドラム&ベースのリズムパターンを自由な即興パートの中にサンプリングするようにはめ込んだり、実はマークのドラムのチューニングが変則だったりと、マーク・ジュリアナらしい仕掛けは随所に仕込まれている。シャイ・マエストロに関してはピアノのペダルを過剰に踏んで音響的な空間を生み出したりと、やり放題な瞬間もあった(それを見ながらマーク・ジュリアナが笑っていたり)。

古典的なモダンジャズを踏襲しながらも、聴き手次第でいかようにも聴けるサウンドのポテンシャルは、アルバムで聴く以上だったように思う。そして、おそらく事前に決まっていない部分がかなりの割合であって、僕は見たライブとは全く違う音楽が日々演奏されていることだろう。叶うことなら、何度でも見たい。そう思わされるステージだった。
(2016 1.4)

text : 柳樂光隆(なぎら みつたか)
ジャズとその周りにある音楽について書いている音楽評論家。1979年島根県出雲生まれ。世界にも類を見ない現在進行形のジャズ・ガイド・ブック「Jazz The New Chapter」シリーズ監修者。現在、第3弾「Jazz The New Chapter 3」が好評発売中。CDジャーナル、JAZZJapan、intoxicate、ミュージック・マガジン、BRUTUS、ユリイカなどに執筆。ライナーノーツ多数。


photo by Y.Yoneda


●MARK GUILIANA JAZZ QUARTET
2016 1.3 sun., 1.4 mon. コットンクラブ
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2016 1.5 tue. ブルーノート東京
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