公演直前SP対談<ヤン富田 × 安齋肇> | News & Features | BLUE NOTE TOKYO

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公演直前SP対談<ヤン富田 × 安齋肇>

公演直前SP対談<ヤン富田 × 安齋肇>

公演を直前に貴重な対談が実現!
公演の見どころを語る

昨年行われたヤン富田のブルーノート東京でのライヴは、長く愛聴しているファンはもちろん、新しい音楽体験を求める好事家たちの間で大変な話題になった。それは80年代から親交があり、久しぶりにライヴを体感したというイラストレーターの安齋肇もしかり。一年ぶりに行われるブルーノート東京でのライヴを前に、貴重な対談が実現した。

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ヤン富田(以下、富田) 安齋くんとは、80年代頭に「イラストTV」っていうVHSの制作でご一緒したのが最初だよね。もう35年くらい前ですか。

安齋肇(以下、安齋) そうです、そうです。イラストレーターが作ったアニメーションに音楽をつけるっていう、当時としては斬新な企画で。僕、自分のを含め他のはあんまり観なかったですけど(笑)、ヤンさんと伊藤桂司くんの作品は音楽とアニメーションのシンクロが気持ちよくて、本当によく観ました。

富田 僕の初めての個展(98年/ギャラリー360°)にも来て下さったり、節目節目でお会いしてるのに……、初めて聞きましたそれ。

安齋 初めて言ったかもしれない。僕、今もそうですが、基本的には人見知りだしそんなに出歩くタイプじゃないんですね。でも、当時はカメラマンの伊島薫がよく連れ出してくれて、Inkstickだとか西麻布周辺でヤンさんのライヴを観る機会は多かったんです。WATER MELON GROUPとか。遠くからずっと活動を見守ってたつもりなんですが、去年「いとうせいこうフェス」でブルーノート東京でもやるって聞いて、これは絶対行かなきゃって。
結果、やっぱりヤンさんの音楽は聴くだけのものじゃなくて、感じるものだってすごくよくわかりました。1stステージと2ndステージ、通して聴くお客さんが多いのも印象的だったなぁ。先日のUNITにも行きましたけど、お客さんの食いつきっぷりがすごいですよね。何が始まるんだ? って固唾を飲んで見守る感じ……。実際、あれどうなってるんですか? すごく微妙なことやってるじゃないですか。思い通りになってるんですか(笑)?

富田 アハハ。デタラメにやってます。っていうのは冗談ですが、突き詰めていくと、スタジオでフェーダーを1mm動かした違いみたいなものってわかってくるんですね。ライヴも同じで、ツマミを動かす1mm、2mmの違いが、あの爆音に明らかに反映されてるんです。今回の公演でもBOSEさんにご協力頂いていわゆる立体音響の演目もやりますけど、どの方向に回転させるのか、どのスピードで回すのか、どの位置で定位させるのかも手元で操作しているので。
ただ、考えてやったものって大したことじゃないんだよね。考えてできたことってそれはその人の実力であって、そこから人智を越えたところに行こうと思うと、それは自分の力じゃない何かが必要で。そういうところに気持ちと身を置いているってことが大事だといつも思ってます。例えば、虫がすごく苦手なんですね。

安齋 え? いわゆるあの、バグの虫ですか。

富田 そうです。数年前に原美術館のお庭でライヴをしたときに、スティールパンを叩いていたら打面を毛虫が這っていて。演奏自体は体に染み付いてるから何事もないように続けられているんだけど、内心はもうトラウマになるくらい動揺していて、すごいアヴァンギャルドな演奏になってたと思う(笑)。でも、そういうとき、あぁ自然の摂理に試されてるなって。ライヴの直前に限って機材トラブルがあったりするんだけど、そういうときも、これは新しい表現を手に入れるための修行なんだなって考えるわけ。なんか真面目なんだけどさ。

安齋 真面目すぎて僕、今なんてリアクションして良いか分からなくなっちゃってます(笑)。

富田 だから。それを説明しても恥ずかしいから、ふざけてるだけだよ、デタラメにやってますって言ってるんです(笑)。でも、安齋くんは分かるでしょ?

安齋 確かに。それは実際にヤンさんのライヴを体験するとよく分かるんですよね。どんな世界でも極めた人だけが持っている、ちょっとのさじ加減で大きくモノが変わっていってるんだろうなって感覚。ヤンさんはそういう1mmの差異をライヴでやってるから、あれ? 今、何やってんの? って凝視して、でも耳も研ぎ澄ましてるから、あんなに爆音なのに気がつくと意識がすごく引き込まれてるんです。もしかしたら真っ暗闇の中で聴いた方がヤンさんが思い描いてる世界が見えるんじゃないかと思って、時々目をつぶって聴いてしまいます。

富田 アハハ。流石です。

安齋 本当に、ヤンさんの手元を息止めて見ちゃうんですよね。変に体揺らしてのっちゃうと、音がこぼれちゃうんじゃないかって、固まっちゃうときがあるくらい。だから帰りの電車、すっごい疲れてる(笑)。
あとスタッフィングも毎回楽しみです。こう言うと怒られちゃうかもしれないけど、ロボ宙ってスチャダラくんたちの現場でもよく観てたのに、これまで一度もいいと思ったことなかったんですよ(笑)。でも、ヤンさんのステージではすごくいいなって。

富田 だって彼は学生時代はラグビー部でスポーツマンだし、高校くらいまでクラシックピアノ習ってたり、人間的にも音楽的にも素晴らしい素養の、アハハ、ある人だから(笑)。

安齋 そういうところをヤンさんが引き出してるんですね。

富田 いや、引き出してるというよりも、自由にやってもらってます。だからロボくんの性格が音楽に出てるだけ。安齋くんたちの前だと硬くなってるんじゃない?

安齋 そうだったのか……。でも本当にバンドって大変じゃないですか。そこもヤンさんがご自分で声をかけてるんですよね? 演目とかメンバーとかどんな感じで決めているのか、P-FUNK的な感じなのかな? みたいな(笑)。

富田 そこは縦社会だから(笑)。衣装から何から私の世界観の範囲内においてすべて仕切ります。その上で自由にやってもらうということです。でも、本当に60歳越えてもこうしていつも付き合ってくれる、周りの方々には感謝しかないです。今回はPAを宮ちゃん(DUB MASTER X)にやってもらいますけど、彼には18歳のときからオレの楽器運んでもらってるから、そういう信頼感があるんです。それこそヒップホップをいとう(せいこう)くんたちとやり始めた頃に、Inkstickのライヴで、持参したブルーノート(レーベル)のレコードを宮ちゃんに渡して、こことここ、ここからここの部分のブレイク繋いでって指示して回させてたら、(藤原)ヒロシが横に来て「ヤンさん、これブルーノートってグループですか?」って聞いてきたことがあって。ヒロシとは10歳ちょっと年の差があって、もちろん当時彼もレコードをすごく買っていたけど、これからブルーノートの世界を知れるの? あの感動を味わえるの? って思ったら、本当に羨ましくて、いいなぁって思ったんだよね。さらにその下の世代でいうと、Mo'Waxのジェームス(・ラヴェル)が日本に来たときにヒロシがビートルズの「Come Together」をかけてたら、今度はジェームスが側にいた(高木)完ちゃんに「これなんて曲? すごくいいね!」って。音楽作っててそんなことも知らないのかってことじゃなくて、それだったら、ビートルズを今から! あの感動を頭から味わえるの!? って思うとやっぱり、羨ましいじゃない。

安齋 あぁ、ヤンさんはそうやって前向きっていうか、新しいモノとか人に対して怖気付かないでどんどんやってるから、あの一見何やってるのかよく分からない動きで、すごい音が出せるんですねぇ。ライヴ中、間違ったりしてないんですか? 僕なんて、例えばギターは顔で弾くって思ってる世代というか(笑)、つい演奏中のヤンさんの表情も気になって見ちゃうんだけど。

富田 間違ったというか、自分が意図しない音が出るってときはありますよ。でも、そういう瞬間が戦いの始まりというか、「こう来たか」って。

安齋 そういうとき、DUB MASTER Xはどうしてるんですか?

富田 複雑な配線を通じて僕のアウトプットって、最終的にはLR×2の4チャンなんですよ。手元で創ったサウンドをステレオでPAに送ってるだけで、例えばダブだったりもシステムのユニット上で自分で操作してるんです。宮ちゃんには私のライヴで創るサウンドを気持ち良く増幅してお客さまに伝えてもらってます。

安齋 ええー! そうだったんですか!? それ、めちゃめちゃ大変じゃないですか。

富田 だからライヴ中すごく忙しいの。ただ、その辺りのダブだってオレが操作してるんだぜって言っても、そんなこと言われなくても解ってるっていうお客さまには、逆にそんなこと言ってスモールな(小せぇ)奴だなって思われるのもイヤだし、ねぇ(笑)。僕は結局、音楽って音楽家の性格だと思ってるんです。たまに普段すっごく嫌なやつだけど、良い音出すよねって人いるじゃない。


photography = Great The Kabukicho>>昨年のライヴ写真はこちらから

安齋 いますね。むしろ結構多い気がしますけど(笑)。

富田 でもさ、だったら普段から良いやつが出す良い音の方がいいに決まってるじゃん。そっちの方が最高じゃない。

安齋 わー、すごくいい話。本当にそうですね。嫌な人の良い音より、良い人の良い音の方が最高だ。

富田 最高を目指しているわけで、音楽をやり始めた16、17歳の頃なんて、誰に頼まれたわけじゃないのに演奏してライヴ会場手配してってやるじゃない。でも、プロになったら人に頼まれないと音楽作らない、演奏しないってなっちゃうのは淋しい。僕は今でもあの頃と同じ気持ちで毎日、音を出してるんです。良いやつじゃないと、良い音は出せないって、その辺は信じてます。

安齋 僕、1時間も遅れて来て......悪いやつです......。

富田 安齋くんは、それでいいんだよ。空耳だってそれで何年だっけ?

安齋 92年から26年ですけど、あれも一回だけって約束で行ったんですから。当時、本当にデザインの仕事が忙しくて、ラジオにちょっと出たもんなら印刷屋さんから「そんなことしてる暇あるなら、やってください!」ってものすごく怒られて、テレビなんか出たら絶対逃げられないってとこから......。

富田 そういう人が26年テレビに出続けてるって、世の中にとってすごく大事なことだと思う。

安齋 そうでしょうか(笑)。でも、今やっと気がつきました。僕が久しぶりにヤンさんの音楽を体感しに行きたいと思ったのは、純粋なものに触れたかったんだなって。この年になると分かるんですが、ちゃんと自分のやりたいことできてる大人って、なかなかいないんですよね。できてる人はたくさんいても、"ちゃんとできてる人"っていない。それを体感で教えてくれるんですよね。ライヴ、楽しみにしています。

富田 ありがとうございます。お話できて、とても楽しかったです。

photography = Great The Kabukicho
interview & text = Mai Nakata
  • ヤン富田 (やん・とみた)

    70年代後期よりスティールパン奏者、作・編曲等、多くの作品に参加。プロデューサーとして日本最初のハウス 阿川恭子『Miss A』、日本最初のヒップホップ いとうせいこう『MESS/AGE』を手掛ける。
  • 安齋肇(あんざい・はじめ)

    イラストレーター/ソラミミスト。NHK「しあわせニュース」、アニメ「わしも」のキャラクター等を手がける他、テレビ出演やナレーション、バンド活動も。2016年には映画初監督作品『変態だ』を発表。

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