ラ・ファミリア・ロペス・ヌッサ、キューバン・ジャズの歴史と歩む名門家の物語 | News & Features | BLUE NOTE TOKYO

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ラ・ファミリア・ロペス・ヌッサ、キューバン・ジャズの歴史と歩む名門家の物語

ラ・ファミリア・ロペス・ヌッサ、キューバン・ジャズの歴史と歩む名門家の物語

 二人のピアニスト、二人のドラマーにベースとトランペットという変則セクステットのラ・ファミリア・ロペス・ヌッサ。変わっているのは編成だけではない。彼らは親子、兄弟、幼なじみで構成されたスペシャル・プロジェクト・チームだ。キューバン・ジャズの礎を築き、発展させてきた名門家の軌跡を追った。

Text=Yoshio Terajima

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 常に新しい才能とアーティストを世界に探し求めるブルーノートが注目したのは、2018年の米「ビルボード」誌の記事だ。 "この全く新しい形のジャズ......6人編成のラ・ファミリア・ロペス・ヌッサの躍動感あふれたリズムと見事なハーモニーが凄い。ワシントンD.C.のケネディ・センターで行われた〈キューバン・ジャズ・フェスティバル〉のメイン・アーティストとして出演した彼らの演奏には驚きを越して感動した。このユニークなバンドは一見に値する"。

 キューバ国内、アメリカ東部、メキシコ、コロンビアとキューバ近隣の限られた地域でしか演奏しないラ・ファミリア・ロペス・ヌッサが、この10月に日本に上陸することになった。彼らには日本の音楽ファンが期待をかける下地がある。この数年来、ファミリーの中核をなすアロルド・ロペス・ヌッサ・トリオはコットンクラブの常連だ。彼らが爆発したのは、2016年の〈第15回 東京JAZZ〉でのこと。繊細なギターで観客を魅了したパット・メセニーや、渡辺貞夫の優雅な演奏を尻目に一番人気を取った。トリオの怒涛の演奏に国際フォーラムに詰めかけた5,000人のファンがスタンディング・オベーションで呼応したのだ。翌年の〈定禅寺ストリートジャズフェスティバル〉でも大観衆を熱狂させ、彼らには"キューバン・ハリケーン"の異名がついた。

 ジャズの楽しみの一つに新しい才能を発見することがある。フォーラムや定禅寺に集まった肝いりのジャズメンが口々に発したのは "アロルド・ロペス・ヌッサって何者?" "これまで聴いたことがない凄い音を出す" だった。

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 では、ラ・ファミリア・ロペス・ヌッサって誰だ。彼らの編成はピアニストが二人、ドラム、パーカッション奏者が二人にベースとトランペット。だが、彼らは普通のセクステットとは一味違う。親子、兄弟、幼なじみで構成されたスペシャル・プロジェクト・チームなのだ。

 この音楽一家はキューバン・ジャズ・シーンに足跡を残してきた。ロペス・ヌッサ家のルーツはフランス。彼らは自身に流れるヨーロッパとラテン・アメリカの血を融合させ、音楽で繋がれた家族の歴史を独自の演奏で描き出す。このロペス・ヌッサ一家と共演するのは、アロルドとルイ・アドリアン兄弟と幼少時代から共に修練を積んだベーシストのフリオ・セザール・ゴンザレスとトランペット/ヴォーカルのマイケル・ゴンザレス。兄弟同然の息のあった演奏で一家に華を添える。特にイケメン、マイケルのトランペットは観ていて楽しい。

 この一家がいかにキューバン・ジャズの歴史に関わってきたかを紹介しよう。1950年代、キューバ音楽の原点であるソンとアメリカからきたジャズが融合され、キューバン・ジャズが生まれた時代。フランスから渡ってきた祖父母がこの音楽一家の原点である。キューバ人の祖父レオネルは画家、フランス人でピアノの名手であった祖母ワンダ。彼らはパリで出会い、結婚。その後、革命を達成したフィデル•カストロに共鳴してキューバに永住を決め、ワンダは同地で音楽活動を始める。キューバン・ジャズ先駆者の一人だ。

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 第二世代はルイとエルナン・ロペス・ヌッサ兄弟。キューバ革命後の混沌とした時代に、ルイとエルナンは音楽とともに育った。温厚な長男ルイ・ロペス・ヌッサ(アロルドとルイ・アドリアンの父親)は打楽が氾濫するキューバで独自のドラム学を確立する。今もハバナ音楽アカデミーでドラムを指導しながら、自らのバンド "La Academia"を主宰するバリバリの現役ミュージシャンである。

 次男で末っ子のエルナン・ロペス・ヌッサ(アロルドの叔父)は活動的な少年で、母親の血を継いで幼くしてピアノの才能が開花。若い頃はチューチョ・ヴァルデスらとともに世界を駆け巡り腕を磨いた。"僕はハービー・ハンコックやエルネスト・レクオーナたちの影響を受けた。ルール違反のセルフスタイルなんだ"。そのスタイルは、リズムとリリックとフュージョンを融和させる独特のピアノ演奏だ。1970年初期から活躍してきたエルナンは、自らのバンドや著名グループのピアニストとして演奏を重ね、キューバン・ジャズの世界進出の一画を担ってきた。所謂、アフロキューバンの創設者の一人で、キューバ・ピアノ界の重鎮である。

 エルナンはまた偉大なコンポーザーで多くの名曲を創っている。アルバム『DELIRIUM』(1998年)に収録された「Lobo's Cha」は日本人好みの哀愁感が漂う名曲だ。そして彼は大の日本好き。片言の日本語を話し、箸も上手く使う。"ハバナに来てくれたTOKU、akiko、ラテンヴォーカリストのMakoto。あのセッションは楽しかった。彼らは才能豊かだ。出来ればもう一度一緒にプレーしたいね!" とのメッセージが届いている。



 そして、第三世代はアロルドとルイ・アドリアンだ。ハバナでピアノ教師をしていた母マリアの元に生まれたアロルド(ピアノ)は8歳でハバナの音楽院に入学し、幼少時代にはクラシックを学んだ。数々のシンフォニー・オーケストラで共演したが、やがて世界に名を成していた叔父エルナンの影響もあってジャズに転向。エルナンの助言、先輩や仲間との限りないセッションを経て2005年、〈スイス・モントルー・ジャズ・フェスティバル〉のピアノ・ソロ部門で優勝。一躍、世界に飛び出した。

 チューチョ・ヴァルデス、クリスチャン・スコットといった数多くの鬼才との交流を経て腕を磨いたが、彼が目指すピアノは父親のルイのジャズ学と叔父エルナンの先鋭的なスタイルがベースだ。やがて弟のルイ・アドリアンを引き連れてアロルド・ロペス・ヌッサ・トリオを結成。北米とヨーロッパを主戦場として活動を展開し、高い評価を獲得してきた。アロルドが開拓したキューバンジャズの新境地が世界に浸透し始めたのである。この兄弟は大の日本食ファン。"大好物は?" と聞かれると "神田、菊川のウナギさ! ハハハ" 。アロルドの誠実で飾らない性格は誰をも魅了する。

 弟のルイ・アドリアン(ドラム、パーカッション)は性格もスティック捌きも天真爛漫。父親のドラムを3歳から叩き始めたという。若い彼の迫力がアロルド・ロペス・ヌッサ・トリオ成功の鍵と言っても過言ではない。彼の演奏を間近で見た辛口評論家の寺島靖国は "うーむ、天才だ" と唸った。"特にドラマーは修練をいくら積んでも到達限界点がある。それを超えるのは生まれ持った才能を持つ者だけだ"との持論があるからだ。

 スペイン植民地時代のキューバ。砂糖キビやコーヒー栽培労働に買われてきたアフリカの奴隷たちの楽しみは夜毎の音楽。ドラム缶や鍋を持ちだして創った打楽器の音がキューバン・ジャズのベースである。ラテンのリズムが心と身体を揺ぶるのは、まさにこの打楽感だ。 "ルイの感性と躍動感、彼の右に出る者はない"。かつてトリオを組んだセネガル出身のベーシスト、アルーン・ウェイドの評価だ。異才ドラマーとしての地位を確立しつつあるルイ・アドリアンのドラムスを聴けば、キューバ打楽の原点が感じられるはずだ。



 キューバが世界に通用するピアニストを輩出していることは周知の事実である。このカリブ海の孤島では19世紀の後半からヨーロッパ・スタイルのピアノが主流だった。祖母ワンダもフランス伝統のピアノをキューバで教えた。やがて、キューバではアフロキューバン文化を融合した独特のピアノ演奏が形成されてゆく。チューチョ・ヴァルデス、ゴンサロ・ルバルカバ 、そして若手の実力派アルド・ロペス・ガビラン......列挙のいとまがまない。その中でもエルナンとアロルドはロペス・ヌッサ一家独特のピアノ帝国を確立してゆく。

 ラ・ファミリア・ロペス・ヌッサの "完璧な一体感" はホーム・セッションで培われた。何かお祝いごとがあると家族や仲間たちが集って、キューバでは最高のおもてなしである子豚の丸焼きでビールを楽しむ。そのうちにアロルドがピアノを、ルイのドラムとフリオ・セサールのベースが続き、またとないタイミングでマイケルがトランペットを吹き出せばもう最高調。彼らのセッションは好き勝手な演奏で始まり、ヴァイオリンやカホン、マラカスなど楽器のオンパレードとなる。だから、このファミリアには本番に向けてのリハーサルは必要ない。彼らにとってステージ演奏は生活の延長線だからだ。

 ファミリアには「Dinga Dunga Donga」「Capulito de Aleli」「Isla」などの代表作があるが、10月の公演はロペス・ヌッサ一家三代にわたるファミリアの歴史の集大成だ。キューバを代表するエルナンとアロルドのピアノを聴き比べるのも楽しいし、ルイとルイ・アドリアン親子のドラム対決も迫力満点だ。彼らはキューバン・ジャズの真髄をファミリアなりの形で表現してくれるに違いない。一見の価値がある。

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寺島義雄(てらじま・よしお)
アロルド・ロペス・ヌッサ・トリオ後援会会長。2014年夏、ロンドンのロニー・スコッツでアロルド・ロペス・ヌッサと出会い衝撃を受ける。翌年には後援会を発足させ、コットンクラブ、ブルーノート東京、定禅寺ストリートジャズフェスティバル、大阪ロイヤルホースなどの日本公演をサポートしている。ジャズ評論家の寺島靖国氏は実兄。ロサンゼルス在住。

LA FAMILIA LÓPEZ-NUSSA
ラ・ファミリア・ロペス・ヌッサ
2019 10.3 thu., 10.4 fri., 10.5 sat.

10.3 thu., 10.4 fri.
 [1st]Open5:30pm Start6:30pm [2nd]Open8:15pm Start9:00pm
10.5 sat.
  [1st]Open4:00pm Start5:00pm [2nd]Open7:00pm Start8:00pm
公演詳細はこちら → http://www.bluenote.co.jp/jp/artists/harold-lopez-nussa/

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