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ベニー・ゴルソンという「影の主役」

ベニー・ゴルソンという「影の主役」

伝説的サックス・プレイヤーが
ジャズの歴史に残した偉大なる功績

 プレイヤーとしてはもちろん、作・編曲家としても数え切れないほどの名曲をこの世に送り出してきたジャズ・レジェンド、ベニー・ゴルソン。今年90歳を迎えた彼が、ジャズ界に残した軌跡を、レコード・プロデューサー/音楽評論家の行方均氏が紹介する。

text = Hitoshi Namekata
**live photography = Takuo Sato

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「ウィスパー・ノット」と「クリフォードの思い出」をベニー・ゴルソンが書いたのは1950年代半ば、モダンジャズが黄金時代に向かわんとするころだ。これらは作者自身の録音より早くサド・ジョーンズ、リー・モーガン、ドナルド・バードらにこぞって取り上げられ、現在もジャズ史上の名曲中の名曲として演奏され続けている。

 ベニーについてもうひとつ特筆すべきは、アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズの立て直しだ。1955年、ブレイキーとホレス・シルヴァーの双頭に近い形で結成されたジャズ・メッセンジャーズだが、56年、音楽監督のシルヴァーが離脱すると、音楽的にも営業的にも不振の時代に陥る。58年、トラでジャズ・メッセンジャーズの公演に参加したベニーは「あの」ブレイキーの名グループの、ギャラと観客の少なさに唖然としたという。そして自らブレイキーに立て直しを申し出たのだ。



 ベニーは音楽監督の立場に就き、メンバーを一新した。リー・モーガン、ボビー・ティモンズら、出身地フィラデルフィア時代の仲間を集めたのだ。そして「ブルース・マーチ」「アロング・ケイム・べティ」など自身の新曲を持ち込み、ティモンズが抱えていたメロディにヒントを与え「モーニン」として完成させた。

 この"フィラデルフィア"メッセンジャーズの第一作『モーニン』(58年10月録音)は、タイトル曲を筆頭に世界的な大ヒットを記録、いわゆるファンキー・ブームを現出し、ジャズは名実ともに世界音楽となる。ベニーはいちバンドの立て直しを越えて、モダンジャズに次の段階をもたらしたともいえる。



 ジャズ・メッセンジャーズは1961年正月、"最初の本格的モダンジャズの初来日公演"を果たすが、音楽監督とサックスは既にウェイン・ショーターに替わっている。職務は完了とばかり、ベニーは59年早々にブレイキーのもとを去り、アート・ファーマーとジャズテットを結成したのだ。

 ベニーがメッセンジャーズ立て直しを引き受けた頃の1958年8月12日、ハーレムで一葉の白黒写真が撮影されている。実に57人のジャズ・ミュージシャンが、古いビルの石段と前の舗道に並ぶ歴史的な集合写真だ。『ア・グレイト・デイ・イン・ハーレム』のタイトルで知られ、当日をドキュメントしたDVDも出ている。カウント・ベイシー、コールマン・ホーキンス、チャールズ・ミンガス、レスター・ヤング、ディジー・ガレスピー、セロニアス・モンク、アート・ブレイキー、ホレス・シルヴァーら錚々たる顔ぶれが並ぶ中に、売り出し中のベニー・ゴルソンの顔も見える。中央の一番後ろ、石段の最上段だ。

20190626BENNYGOLSON_image02.jpg Photo by Art Kane



 ロン・カーターの70歳のパーティに招かれた時だから、2007年のことだ。ニューヨークに向かう機中、僕は機内ヴィデオでスピルバーグの『ターミナル』(2004)を見ていた。映画もスピルバーグも大好きだったが、なぜか見損なっていたのだ。そして驚くべき大発見をする――なんとこれはジャズ映画ではないか。空港で待たされる男の話とは知っていたが、彼の旅の目的がベニー・ゴルソンと会うことだったとは。

 つまり、男の目的はハーレムの57人のサインすべてを集めるという亡き父親の夢をかなえること。最後に残されたひとりがゴルソンという設定だった。どうも日本の映画会社は、映画の宣伝からジャズを隠す傾向があり(あるいはあったし)、ジャズ映画にすらジャズを使わなかったりもする(した)。まあ、知らなかった自分が悪いのだけれど。



 そしてニューヨークに着き、ホテルで着替え、僕は会場のリンカーン・センターに向かった。大きな部屋を一渡り眺めると、なんと一角に立っているではないか、ベニー・ゴルソンが。ロンにあいさつするのも後回しにして、僕は見たばかりの映画のクライマックスを再現してみることにした。ゴルソンに歩み寄ってこう話しかけたのだ「ようやく会えましたね!」。映画公開から3年、彼はまったくピンと来ていなかったけれど。

 ベニー・ゴルソン90歳。ジャズの歴史を裏で支えて来た"影の主役"がまたやって来てくれる。「待ってました!」と今度は言ってみよう。

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BENNY GOLSON QUARTET
ベニー・ゴルソン・カルテット


Member:
Benny Golson(sax), Mike LeDonne(p), Buster Williams(b), Carl Allen(ds)

6.24 mon. 静岡・三島市民文化会館(ゆぅゆぅホール)
http://mishima-youyouhall.com/task/126/
6.26 wed., 6.27 thu., 6.28 fri., 6.29 sat. ブルーノート東京
http://www.bluenote.co.jp/jp/artists/benny-golson/
7.1 mon. 札幌・道新ホール
https://www.doshin-acty.co.jp/doshin/schedule/?ym=201907

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行方均 (なめかた・ひとし)
1951年生まれ。早大政経学部卒。76年東芝EMIに入社、83年よりブルーノートを中心にジャズレコード制作に携わり、ロン・カーター、大西順子ら多数のの作品を世界に送る。EMIミュージックジャパン最後の代表取締役などを経て2014年よりフリーに。近著『ジャズ書と名盤』(2018年・シンコー)他編著書も多数。

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