6月公演 ビル・フリゼールにインタビュー、「今しかありえない音を披露するよ」 | News & Features | BLUE NOTE TOKYO

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6月公演 ビル・フリゼールにインタビュー、「今しかありえない音を披露するよ」

6月公演 ビル・フリゼールにインタビュー、「今しかありえない音を披露するよ」

1月にチャールス・ロイド公演の一員として来日し、
鮮烈なプレイを魅せたビル・フリゼールが自身のユニットで登場!
公演について、また共に来日するぺトラ・ヘイデンについても
大いに語ってくれた。

1月にチャールス・ロイド&ザ・マーヴェルスのメンバーとしてブルーノート東京のステージに立ったギタリスト、ビル・フリゼールが6月に再来日。今回は自分のプロジェクトを率いてのショウを展開する。

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「ルディ・ロイストン(ドラムス)、トーマス・モーガン(ベース)、そしてペトラ・ヘイデン(ヴォーカル、ヴァイオリン)。2016年に録音した『星に願いを』のメンバーで来るよ」

  『星に願いを』は、映画やテレビドラマ音楽のカバーアルバム。『007は二度死ぬ』『サイコ』『いそぎし』『ゴッドファーザー』などの楽曲を演奏している。

「僕には映画やドラマの音楽のレパートリーがたくさんある。その一部を録音したのが『星に願いを』。思い入れのある曲ばかりだよ。音楽そのものが好きだったり、その映画を観た時の僕自身の状況が思い出深かったりね。バート・バカラック、ヘンリー・マンシーニなど、映画音楽のコンポーザーには素晴らしい人材が多い。そんな巨匠たちへのリスペクトを込めて演奏した。個人的にもっとも印象的な映画は『007は二度死ぬ』かな。作曲はジョン・バリー。コロラド州デンバーにいた若いころ、自動車のライセンスをとって初めてのデートでダウンタウンのシアターまで行って観た映画なんだ。でね、今年の1月に来日した時に滞在したのがホテルオークラだった。『007は二度死ぬ』でジェイムス・ボンドが潜入する敵のアジトだったよね。10代で観た映画の舞台になったホテルに自分が滞在してショウをやっていると思うと興奮する。こういう体験は、演奏する音楽を特別にする」

 アルバムでも、来日公演でも、この曲を歌うのはペトラ・ヘイデン。2014年にこの世を去った名ベーシスト、チャーリー・ヘイデンの娘だ。

「僕は高校時代に、チャールス・ロイドのショウを観てジャズに憧れた。その時のメンバーは、ドラムスがポール・モチアン、ベースがロン・マクルーア、そしてピアノがキース・ジャレットだった。すぐに僕はキースのレコードを買ってね。それがポールとチャーリー・ヘイデンのトリオだった。そのチャーリーの娘との共演は運命を感じる。彼女は力強いシンガーでヴァイオリニストだ。僕のどんなアプローチにもまったく動じることなく演奏で応えてくる。信頼関係があるから、おたがい遠慮せずにチャレンジングな音楽がやれる。父親のチャーリーも力強い音楽家だった。似ているよ。生まれつき持ったナチュラルな素養なのかもしれないね」

 主にジャズシーンで活躍するビルだが、音からはブルース、ロック、カントリーからの影響も感じる。

「僕は1950年代に生まれて'60年代にギターを手にした。最初に興味を持った音楽はビートルズやローリング・ストーンズ。ストーンズからさかのぼり彼らのルーツであるブルースも聴いた。その後ジミ・ヘンドリックス、マイルス・デイヴィスへと興味が移った。いい時代で、毎月刺激的な音楽に出会えたよ。リスナーとしてのキャリアは演奏する音にも反映されるもの。それを思うと、今演奏しているテレキャスターは僕にぴったりのギターだね」

 ビルはジャズではあまり見かけない、ヘッドにJ.W.ブラックのロゴが入ったトレモロ・アーム付きテレキャスターを演奏している。

「確かにジャズのフィールドでトレモロ・アームを使うギタリストは少ないかもしれない。でも、アームは役に立つよ。弦を歪ませて、それまでとまったく違うギターサウンドになり、まったく違う音楽にできる。J.W.ブラックは、もともとフェンダーのカスタムショップのマスタービルダーなんだ。僕は'50年代、'60年代のテレキャスターの音がずっと好き。この年代のテレキャスにはマジックがあると思っている。ブラック氏は、こうした古い世代のギターの音と真摯に向き合い、今のギターに反映させている貴重な存在。伝統と新しさのバランスが抜群だ。彼の作るテレキャスターはとてもレンジが広い。ハードでラウドな音からソフトな音まで自在に表現できる。だから、自分の声のような演奏ができる。しかも音色はとても自然で、ときどきアコースティックギターを弾いているんじゃないかと錯覚するほどだよ。すぐれた楽器は、演奏者の頭の中で鳴っている音が現実にできる。それがまさしくこのギターだ。しかも、サイズがコンパクトなので飛行機で持ち運びやすい」

 テレキャスターの持つ伝統と新しさのバランスは、ビルの音楽そのものに反映されている。

「僕はポール・モチアンやチャーリー・ヘイデンとの共演で彼らのエッセンスをもらい、また彼らがかつて影響を受けたビル・エヴァンスやコールマン・ホーキンスの音楽も受け継いでいる。あるいは、ロン・カーターとの共演で、マイルスのエッセンスも受け継いだ。そして、今回はペトラ・ヘイデンをはじめ、若い世代とやれる。こうした世代の融合によって、今しかありえない音を披露するよ。『星に願いを』をリリース以降、さらに多くの映画音楽を演奏している。6月のショウは楽しみにしていてほしい」

photography = Hiroyuki Matsukage
interview & text = Kazunori Kodate
interpretation = Kazumi Someya

神舘和典(こうだて・かずのり)
音楽ライター。1962年東京生まれ。'90年代後半にはニューヨークを拠点にジャズの取材を重ねる。『新書で入門 ジャズの鉄板50枚+α』(新潮新書)『上原ひろみ サマーレインの彼方』(幻冬舎文庫)』『25人の偉大なジャズメンが語る名盤・名言・名演奏』(幻冬舎新書)など著書多数。

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