現代最高峰のヴォーカリスト、カート・エリングの魅力 | News & Features | BLUE NOTE TOKYO

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現代最高峰のヴォーカリスト、カート・エリングの魅力

現代最高峰のヴォーカリスト、カート・エリングの魅力

 幾多の男性ジャズ・ヴォーカルがいる中で、世界的に成功を収めた者は少ない。ここでは伝説的ヴォーカリストを振り返りつつ、現代の最高峰といえる存在、カート・エリングの魅力をご紹介したい。

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歴史に名を残す男性ジャズ・ヴォーカリストたち

 フランク・シナトラ、トニー・ベネット、ビング・クロスビー、ナット・キング・コール、チェット・ベイカー、etc。歴史に名を残す男性ジャズ・ヴォーカリストというと、このような名前が上がるのではないだろうか。20世紀の半ばに隆盛を極めたジャズの歌い手たちは、その後の音楽シーンに大きな影響を与えた。彼らをリスペクトするミュージシャンは、ポップスからR&Bのシーンまで後を絶たないし、ブラジルのボサノヴァやキューバのフィーリンだって彼らのようなクルーナーがいなかったら生まれていなかっただろう。

 そして、こういった王道の系譜は現在にも脈々と受け継がれており、現時点での最高峰といえる存在が、カート・エリングである。ビシっとスーツを着こなし、優雅な雰囲気をたたえながら、スタンダードなメロディをクールに歌う。まさに、レジェンドのエッセンスを現代にアップデートしたといってもいいたたずまいは、今や敵なしといってもいいほどだ。

※クルーナー唱法:正しくは「クルーニング唱法(crooning)」で、始まりは1920年代のポピュラー音楽からと言われ、鼻にかかったような声で囁くような優しい唱法。

カート・エリング
Where the Streets Have No Name (live @ Cartagena Jazz Festival 2015)

★おさえておきたい代表的ジャズ・ヴォーカリストたち

フランク・シナトラ
Frank Sinatra - New York New York(Live)



トニー・ベネット
Tony Bennett - I Left My Heart In San Francisco



ビング・クロスビー
WHITE CHRISTMAS - Bing Crosby



ナット・キング・コール
Nat King Cole, Unforgettable



チェット・ベイカー
Chet Baker & Stan Getz Quartet - My funny Valentine

現代の男性ヴォーカリストのトップに立つ、カートの背景

 1967年にシカゴで生まれたカートは、聖歌隊の指導をしていた父の影響で早くから歌うことに親しんでいた。そして大学生の時にジャズと出会い、ジャズ・ヴォーカリストとしての道を歩み始める。クラブで歌いながら腕を磨いていくと同時に、デモテープの制作を開始。1992年にはブルーノート・レーベルと契約し、アルバム『Close Your Eyes』でメジャー・デビューを果たした。

 そこからの快進撃ぶりは、眼を見張るものがある。ブルーノートでは、『Man In The Air』(2003年)まで6作のアルバムを発表するが、すべての作品がグラミー賞にノミネート。そして、2007年にコンコードへと移籍。『Dedicated To You』(2009年)で、ついにグラミー賞最優秀ジャズ・ヴォーカル・アルバムを獲得。名実ともに、ジャズ・ヴォーカルの頂点に到達することができた。

 前述した通り、カートは先達のヴォーカリストたちからのDNAを受け継いだ存在といえるだろう。現在活躍するジャズ・ヴォーカリストには様々なタイプがいる。デヴィッド・フォスターに見出されたマイケル・ブーブレ、UKロックをほのかに香らせるジェイミー・カラム、R&Bやヒップホップとも密接なホセ・ジェイムズなど、バラエティに富んだスター・シンガーたちは何人か挙げられるだろう。こういったなかにおいても、カートほどど真ん中を歩んでいる人はいないように思う。小手先のギミックに頼らず、声の力だけで勝負できる実力派なのだ。

カート・エリング
Kurt Elling | Dedicated To You EPK



マイケル・ブーブレ
Michael Buble and Blake Shelton - Home ( Live 2008 ) HD



ジェイミー・カラム
Jamie Cullum - Save Your Soul (Live At Abbey Road)



ホセ・ジェイムス
José James - Yesterday I had The Blues - The Music of Billie Holiday (a tribute)

個性的で存在感のあるサポート・メンバーの顔ぶれ

 とはいえ、彼の音楽はけっしてノスタルジーに溺れているわけではない。それは、サポート・メンバーの顔ぶれを見てもわかるはずだ。例えば、デビューからしばらくは、パット・メセニー・グループを長年支え、ジャズからプログレまでをカヴァーするスーパー・ドラマーのポール・ワーティコがプロデュースに関わっている。オーセンティックになり過ぎないカートの魅力の裏には、ワーティコの存在は大きかったはずだ。

 他にも、ベースの鬼才クリスチャン・マクブライド、オラクルを率いるドラマーのケンドリック・スコットなど新世紀ジャズの面々も要所で加わり、フレッシュな印象を与えてくれる。ベテランからニューフェイスまで、実力あるミュージシャンをさりげなく起用するセンスは、彼のプロデュース能力の賜物といってもいい。

今回、ドラムとして来日するケンドリック・スコット
Kendrick Scott Oracle "Cycling Through Reality" Live at Jazz Standard NYC



パット・メセニー・グループ「ラスト・トレイン・ホーム」のドラムはポール・ワーティコ
Michael Buble and Blake Shelton - Home ( Live 2008 ) HD

スタンダードやポップス等、親しみやすいナンバー

 また、選曲に関してもなかなかユニークだ。ソングライターとしても優秀なためオリジナル・ナンバーも多いが、スタンダードやポップスのカヴァーも聴きどころである。「My Fooish Heart」、「April In Paris」、「Body And Soul」といった定番曲を歌いこなすのはもちろん、『The Messenger』(1997年)ではゾンビーズ「Time Of The Season」をカサンドラ・ウィルソンとデュエットし、『The Gate』(2011年)にはジョー・ジャクソンの「Steppin' Out」やスティーヴィー・ワンダーの「Golden Lady」をクールに決めている。おまけに、『Dedicated To You』はジョン・コルトレーンとジョニー・ハートマンのデュオ作品をまるごとカヴァーしたライヴ盤だ。いずれにしても、器用ながらも自己の世界感を絶対に崩さない歌声は、カートの実力を物語っている。

 そして、パフォーマーとしても、まるでハリウッド映画のセットから出てきたようなスーツ姿の完璧な出で立ちで、堂々たる歌を聴かせてくれるのだ。理想のジャズ・ヴォーカルということでいうと、これ以上他に望むものはないだろう。カート・エリングのライヴを体験すれば、間違いなく王道でありながらも、現在進行形で進化する極上のジャズ・ヴォーカルに触れることができる。

Bundesjazzorchester feat. Kurt Elling STEPPIN' OUT



Kurt Elling - Dedicated to You

栗本 斉(くりもと・ひとし)
旅&音楽ライター/選曲家。雑誌やウェブの執筆、ラジオや機内放送などの選曲、CDの企画やライヴのブッキングまで幅広く活動中。ブラジル、アルゼンチンからジャズ、ロック、和モノまで雑食系。SNSでも発信中です!

優しく囁くような歌声で魅了する
日本唯一のヴォーカリスト&フリューゲルホーン・プレイヤー
TOKUさんからのメッセージ

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 カート・エリングが4年ぶりにブルーノートに帰って来る!2001年、同じフェスティバルに出演していた僕は、初めてカートのパフォーマンスを目の当たりにして度肝を抜かれたのを、今でも昨日のことのように覚えている。以来、僕は彼の大ファンになってしまった。彼がどれだけすごいかって挙げたらキリがないんだけど、まずはあの圧倒的な歌唱力。彼は世界でも数少ない、ジャズの先人達のアドリブソロに歌詞を付け歌う手法・ヴォーカリーズを駆使する人で、それを可能にするのだから相当なテクニックの持ち主。そして、様々な内容の歌詞を書くことができる知識の持ち主でもある。

 また、去年僕がニューヨークでライヴをした時に、彼には何も知らせてなかったのにわざわざ予約して聞きに来てくれた、そんなスイートな面も持っている人なのです。

 とにかく、この彼のまさしくOne & Onlyな世界を堪能できる滅多にない機会、ぜひ体験してもらいたいです!

★公演情報
『Dear Mr. Sinatra』スペシャル・ゲストと
弦楽四重奏を交えた豪華なライブ、ふたたび
TOKU "Dear Mr. Sinatra" -AGAIN-
2016 5.15 sun.

公演詳細はこちら>>

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