ハービー・ハンコックが、今最高峰のカルテットで登場! | News & Features | BLUE NOTE TOKYO

News & Features

ハービー・ハンコックが、今最高峰のカルテットで登場!

ハービー・ハンコックが、今最高峰のカルテットで登場!

13年ぶりのブルーノート公演は
最強メンバーで

 9月4日、巨匠、ハービー・ハンコックが13年ぶりにブルーノート東京のステージで演奏する。メンバーはヴィニー・カリウタ(ドラムス)、ジェイムス・ジナス(ベース)、リオーネル・ルエケ(ギター)。今最高峰のカルテットだ。今回の来日公演はどんなショーになるのか? アコースティック主体か? エレクトリック主体か? 期待は高まる。

READ MORE

 巨匠、ハービー・ハンコックのピアノはエロティックだ。ある時はリスナーにささやきかけ、次の局面では優しく包み込んでくれる。なぜこれほどうっとりさせられるのか─。スペース感覚、抑揚、響きが絶妙なのだ。特に1音から次の1音へ進む"間"はあまりにも気持ちよく、胸を苦しくさせられる。それが、譜面では伝えることのできない、ほかのピアニストが真似できない色気を生んでいる。

アーティストであり、ポップスターでもある

 ハービーには、『ガーシュウイン・ワールド』『フューチャー2フューチャー』『ポシビリティーズ』『リヴァー~ジョニ・ミッチェルへのオマージュ』......などのリリース時にインタビューを重ねてきた。その都度ハービーは前回とまったく異なる空気をまとって現れた。

 1999年、アコースティックピアノを演奏した『ガーシュウイン・ワールド』の時は髭をたくわえ、ダークブラウンのスーツ姿。芸術家のたたずまいで「僕は今、アナログに興味がある」とはっきり言った。

「絵画に例えると、デジタルは点描画だ。距離をおいて鑑賞すると美しい画だったとしても、接近すると細かい点がわかる。一方、アナログは水彩画だ。筆で描いた水彩画は遠くから見ても、近づいても美しい。デジタルはまだアナログにはかなわない」

 2001年の『フューチャー2フューチャー』の時はまるで別人だった。ホテルのラウンジにてかてか光るパープルのスーツで現れた。シャツもパープル。ネクタイも光沢のあるオレンジ。黒のサングラス。強いコロンの香り。マフィアのボスかと思った。「新作はダンサブルなポップ。今、僕はデジタルサウンドで頭がいっぱいだ」という2年前と正反対の発言。唖然とするこちらの表情を見て笑みを浮かべる。

「僕は2年前の僕ではない。髭をやめて顔は変わった。アルコールをやめて内臓がフレッシュになった」 ハービーはジャズマンであり、ポップスターでもある。ジャズシーンで、おそらくこの人だけに許されているスタンスである。グラミーもオスカーも獲得してきた巨匠なのに"芸人"の雰囲気を失わずにいるのが大きな魅力だ。だから、『処女航海』『エンピリアン・アイルズ』『スピーク・ライク・ア・チャイルド』のようなジャズの名作を生み、なおかつ『ヘッド・ハンターズ』や『フューチャー・ショック』などデジタルのポップ路線のヒット作も作れた。

 ハービーのショーは3つのスタイルがある。アコースティックピアノ主体のストレート・アヘッドなジャズ、デジタルを駆使したポップなショー、ソロピアノである。それぞれは音楽に合わせたメンバー編成になる。しかし、今回の来日公演は、ストレート・アヘッドなジャズも、エレクトリックのポップも、どちらでも力を発揮するカルテットである。

ブルーノート東京がオープンした1988年の翌年2月に初登場。以来、2001年までに7度の公演を行っている。

世代を超えた腕利きたちとのカルテット

 ヴィニー・カリウタは今世界最高のドラマーの1人。'80年代はフランク・ザッパ、'90年代はスティングのバンドで世界の注目を集めた。'10年代はジェフ・ベックとの演奏が印象的だ。実はユーミンや中島みゆきのアルバムにも参加し続けている。つまり、ロックやポップ路線での活躍が目立っていた。しかし、最近のハービーやチック・コリアとのジャズも抜群。ハービーが生み出す音と音の間のスペースをヴィニーはあらゆる手段で埋めていく。あるいは、ここでスネアがくるぞ、と待っていると、あえてはずされる。その空白すら気持ちいい。叩いても叩かなくても、ヴィニーは超一流だ。

 小曽根真トリオの演奏で日本人にもなじみの深いジェイムス・ジナスは、アップライトでもエレクトリックでも、今もっとも安定した演奏をするベーシストの1人だ。ハービーのカルテットでも、音楽の土台をしっかりと支えてくれるだろう。

 ハービーが代表を務めるセロニアス・モンク・インスティチュートのトライアルに参加したのが、まだ20代のギタリスト、リオーネル・ルエケだった。彼の演奏レベルの高さに驚いたハービーは'05年のアルバム『ポシビリティーズ』で起用した。スティングの曲で、スティング自身がボーカルで参加した「シスター・ムーン」である。その後もコンスタントに共演を重ねたが、圧巻は東京ビッグサイトで行われた東京JAZZ2004だ。最終日のセッションのステージで、リオーネルのエモーショナルなソロに、客席は固唾を飲んだ。その演奏を引き継ごうとしたハービーを引き留めたのはウェイン・ショーターである。このままギターを弾かせよう、と合図をした。それほど、リオーネルのギターは素晴らしかった。

 ハービーと腕利きのジャズマンたちが今回はどんな演奏を聴かせてくれるだろう。楽しみだ。

text = Kazunori Kodate

神舘和典(こうだてかずのり)
音楽ライター。1962年東京都出身。『新書で入門 ジャズの鉄板50枚+α』(新潮新書)『25人の偉大なジャズメンが語る名盤・名言・名演奏』(幻冬舎新書)『上原ひろみ サマーレインの彼方』(幻冬舎文庫)など著書多数。

RECOMMENDATION