映画音楽の新譜が話題の人気トランぺット奏者、ティル・ブレナー | News & Features | BLUE NOTE TOKYO

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映画音楽の新譜が話題の人気トランぺット奏者、ティル・ブレナー

映画音楽の新譜が話題の人気トランぺット奏者、ティル・ブレナー

ジャズとモードの、甘美なる追憶を体感。

 映画音楽の新譜が話題の人気トランぺット奏者、ティル・ブレナー。
年末の好例ライブで、彼のパフォーマンスにおける魅力の本質を体感した。

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 1988年の東京は、JAZZYな空気を纏っていた。少なくとも僕が感じたその空気とは、リアルな体感であった。この年の5月に、チェット・ベイカーが不慮の死を遂げると間もなく、彼のドキュメンタリー映画『Let's Get Lost』が封切られた。東京の街角のあちこちに、宣伝用のポスターが張られた。ポスターは、若かりし頃の甘いマスクのチェットから晩年の姿まで、何パターンかあったが、どれも抜群のモード感に溢れていた。折しも、東京はDCブームの真っ盛り。ジャズとファッションが時代の同じ空気の中で、クールに融合していたのであった。そんな年の11月に、ブルーノート東京は開業した─。

 時代が下がりバブルも終焉した1993年。ティル・ブレナーは、華々しく登場する。貴公子のような甘い風貌、トランペット以外に歌もこなすマルチぶりから「チェット・ベイカーの後継者」と異名をとった。クラシック音楽の出身でドイツ人という異色ぶりもあって、JAZZ界のニューエイジとも評されるが、僕らの世代が彼に強く魅かれるのは、独断を承知でいえば、彼がチェットと同じモードな空気感を纏っているからなのだと思う。それは、今回の公演でもあらためて確信した。ライブでは、彼の名盤の『BLUE EYED SOUL』をはじめ、最新の『THE MOVIE ALBUM』などから、バランスよくチョイスされていた。トランペットとヴォーカルの巧みな切り替えも軽妙洒脱。彼は間違いなく、時代の空気を作れるアーティストのひとりなのだろう。時代といえばそれまでだが、1988年当時の僕らは、ブルーノート東京でチェット・ベイカーのライブを夢想したものだ。自分が彼と同じ時代を生きているという、リアリティを感じたかったのだ。そしていま僕は感じる。ティル・ブレナーと同じ空気で生きていることの幸運についてである。

LIVE1
TILL BRÖNNER
ティル・ブレナー
2014 12.14 sun. - 12.16 tue.
Till Brönner(tp,flh),
Mark Wyand(sax), Jasper Soffers (p),
Christian von Kaphengst(b), David Haynes(ds)

SET LIST
1st
1.INTRO/2.WILL OF NATURE/3.42ND & 6TH/4.LOVE THEME FROM CINEMA PARADISO/5.CAFE COM PAO/6.ONCE UPON A SUMMERTIME/7.BLUE EYED SOUL MEDLEY:NO FUSION GENERATION ~DIAVOLO~ JUST THE WAY YOU ARE/8.A DISTANT EPISODE/9.THERMO/10.OUTRO/EC.CONDOR

※2ndショウは4.CAFE COM PAO、5.LOVE THEME FROM CINEMA PARADISO

LIVE2

photography = Yuka Yamaji
text = Takanori Nakamura

中村孝則(なかむら・たかのり)
ファッションから旅やグルメ等、幅広いフィールドをベースに、国内外で活躍するコラムニスト。現在、世界ベストレストラン50日本審査委員長、ノルウエ―親善大使も務める。近著に『名店レシピの巡礼修業』(世界文化社)がある。

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