松本孝弘、2017公演直前スペシャルインタビュー
日本とハワイ、文化も風土もまったく違うけれど、
共通する島国のテイストは自然に出ていると思います。
B'zのギタリスト、松本孝弘は音楽のジャンルの枠組みに縛られない自在な活動を展開しているアーティストだ。2010年にはジャズ・フュージョン界を代表するギタリスト、作曲家であるラリー・カールトンとともにアルバムを作り、さらに一緒にツアーを回って、ブルーノート東京のステージにも立ち、グラミー賞「最優秀インストゥルメンタル・ポップ・アルバム」部門も受賞している。2017年2月〜3月にかけてはウクレレ、スラックキーギターなどを自在に操るハワイ出身のマルチ・ミュージシャン、ダニエル・ホーとのコラボレーションも実現する。ちなみにダニエル・ホーも2005年〜2010年の間にグラミー賞「ハワイ音楽部門ベストアルバム賞」を6年連続受賞している。グラミー賞受賞ミュージシャン同士の夢の共演はきっと新たな音楽体験をもたらしてくれるのだろう。
2016年4月にロックを軸としたアルバム『enigma』をリリースして、武道館を含むソロ・ツアーを開催。集大成的なステージを展開したのは記憶に新しいが、早くも松本孝弘の新たなプロジェクトが始動していた。
2017年2月にダニエル・ホーとのコラボレーション・アルバム
『Electric Island, Acoustic Sea』をリリースし、2月〜3月にかけて、
「Tak Matsumoto & Daniel Ho Live! 2017 -Electric Island, Acoustic Sea-」も開催される。
どのようにしてこのコラボレーションは実現したのだろうか。
「『enigma』のツアー中にすでに制作はスタートしていました。ダニエルさんと知り合ったきっかけは知人の紹介なんですよ。ロサンジェルスのキャピタルレコードにアナログレコードのカッティングを見学しに行ったときに、その知人が僕とダニエルさんを招待してくれて、引き合わせていただきました。ミュージシャン同士なので、お昼を食べに行ったときに、"機会があったら、何か一緒にやれたらおもしろいですね"という話になり、しばらくして彼から今回のアルバムの1曲目の『Soaring on Dreams』のデモテープが送られてきた。"こんな感じのものを一緒にやりませんか?"って。その時点ではアルバムを制作することも何も決まってなかったですが、彼の家に行って、ギターのパートを僕が弾いたりするうちに、おもしろいものができそうな気がしてきまして。それで僕のほうから"アルバムを創りませんか?"と持ちかけました」
ミュージシャンにとっては音による会話に勝るものはないということだろう。が、互いに多忙なスケジュールをぬっての制作となったわけで、言葉によるやりとりも不可欠になる。何かキーワードのようなものはあったのだろうか?
「方向性みたいなものは言葉に出さなくても、制作していく過程で、こっちに行きたいんだなって阿吽の呼吸で見えてきますよね。基本的な制作の流れはそれぞれが曲のベースになるものを創ってきて、そのデモを聴きながら、自分のパートを録っていくやり方。僕がダニエルさんの家に行ってギターを弾いたり、ドラムのダビングに立ち会ったりもしましたけど、僕も東京にいたり、ロスにいたりして、ダニエルさんもロスが拠点なんですが、いろんな仕事で海外を飛び回っているので、メールとテキストのやりとりはよくやりました。ダニエルさんは譜面でばっちり書いてくるんですよ。小節番号がふってあって、10何小節目のその音をもう少し高めに弾いてほしいとか、リクエストがあったりする。僕もこの曲の何小節目にこれを入れてほしいとか、お願いしたり。離れた場所にいることが多かったので、便利なツールを活用してやり取りしてました」
日本とハワイ。育った土壌は違うのだが、海に囲まれた島国という共通項もある。2014年に発表された松本のアルバム『New Horizon』に収録されている『Island of peace』はハワイで制作された楽曲だった。共通点と相違点。それらが新しい音楽を作り上げる上で、大きなポイントとなったようだ。
「彼の創る音楽って、僕の創るインストゥルメンタルとはちょっと違いますよね。だから2人でやれば、1人で創るのとはまた違ったおもしろいものができるんじゃないかという予感はありました。僕の勝手なイメージで、ダニエル・ホーさんとコラボレーションするなら、『Island of peace』みたいな楽曲が入った作品集になるのかなと思ってたんですよ。僕自身、この曲はダニエルさんと一緒にやりたかったので、今回、新たに録ったんですが、ダニエルさんはダニエルさんで普段の彼の音楽よりもロック寄りのものをやりたかったみたいで。曲ができてくるにつれて、もうちょっと普段の僕のテイストを入れてもいいのかなと思い、『Fujiyama Highway』『Wander Blues』などの曲をアルバム制作の後半に創りました」
松本のエレキギターとダニエル・ホーのスラックキーギターやウクレレ。この弦楽器のアンサンブルは想像するだけでも胸が躍る。
「B'zでもソロでもギター・パートって全部自分でやるじゃないですか。だから新鮮でした。楽器に関しては持ち場持ち場というスタンスですよね。ダニエルさんはスラックキーギター、ウクレレなどの弦楽器で彼のテイストを出せばいいし、僕は自分の得意な分野で出せばいい。そこがコラボレーションのいいところですから。ダニエルさんのアコースティック・サウンドが鳴っている上で、自分がメロディを弾くのはマッチングとしてとてもいいと思いますよ。僕はアコースティックであんなプレイはできないですしね。ダニエルさんの創るメロディや音色には彼の人間的な優しい部分も出ているんじゃないでしょうか。ハワイと日本といえども島国同士なので、そういうテイストも自然に出てきた気がしますよね。和風な部分は僕じゃなくてダニエルさんから出てきている。それがおもしろいなと思いました」
アルバム・タイトルとツアー・タイトルになっている言葉はこういういきさつから出てきたのだという。
「ダニエルさんと2人でタイトルどうしようかって、お互いにアイディアを出し合ってたんですけど、ダニエルさんからこの言葉が出てきてぴったりだなと思いました。作品もそうですし、僕たちのキャラクターを反映してていいなと思ったので、すぐに決まりました」
今回のツアー、ブルーノート東京を始めて22公演あって、かなり密度の濃いスケジュールになっている。どんなステージになるのだろうか?
「せっかく作品を創ったらライブでお客さんに聞いてもらいたいので、内容的にはアルバム中心になりますよね。1日2公演で22本なので、これだけ詰めてやるとバンドがどんどんよくなると思います。東京でスタートして、また東京に戻ってくるときはだいぶん良くなってるんじゃないですか。で、できあがった頃には終わってしまう(笑)。アルバムを聴いて、さらに生で聴いていただくと、『Electric Island, Acoustic Sea』という言葉がぴったりだということを実感してもらえるんじゃないでしょうか。僕のエレクトリック・ギターとダニエルさんのスラックキーギターだとかウクレレだとかのアコースティックなサウンド、お互いのテイストがいい感じで絡み合ってる音楽を堪能していただければと思います」
interview & text = Makoto Hasegawa
- 松本孝弘(まつもとたかひろ)
- 大阪府生まれ。B'z結成以前より多くのセッションやツアーへ参加。ソロではベースであるブルースやロックのインスト作品を発表する。ラリー・カールトンとの『TAKE YOUR PICK』でグラミー賞を受賞。
- 長谷川誠(はせがわまこと)
- 音楽ライター。札幌市出身。雑誌、書籍、webなどで執筆中。著書は『WITH THEE MICHELLE GUN ELEPHANT』(ぴあ)、『PRINCESS PRINCESS DIAMONDS』(シンコーミュージック)など。
Tak Matsumoto & Daniel Ho
『Electric Island, Acoustic Sea』
(Vermillion Records)
※2017 2.8発売
通常盤 CD
アナログレコード LP2枚組
公演限定スペシャルメニュー
松本さんのお好みをブルーノート東京がアレンジ
【ピザ】
Special Pizza "Electric Island, Acoustic Sea"
〜ノルウェー産サーモンとブラータチーズのピザ〜
松本自身がL.A.で気に入っているというクリームチーズと生サーモンのピザ。その味わいをブルーノート東京流にアレンジしてご提供します。皆さんでシェアしてお召し上がりください。
¥2,494(税サ込)
【カクテル】
カクテル名は公演初日の試飲後に決定
[ウォッカ" PRAIRIE"/すりおろし生姜が入ったジンジャーシロップ/レモン/柚子/ソーダ]
L.A.で見つけたオーガニックのウォッカ"PRAIRIE"(プレイリー)。口当たりがよく翌日に残らない味わいで、今回はそのプレイリーを使用し、スペシャル・カクテルをご用意しました。
¥1,782(税サ込)