【来日直前インタビュー】AMI TAF RA
来日直前!
アミ・タフ・ラが語る自身のルーツとなった偉大なシンガーたち
Interview & text = Mitsutaka Nagira
Interpretation = Hitomi Watase
アミ・タフ・ラの音楽はじつに興味深い。夫でもあるカマシ・ワシントンと作り上げたのはカマシの手によるパワフルなスピリチュアル・ジャズや荘厳なストリングスに、アミ・タフ・ラが持っている独特な旋律や歌唱が噛み合った独自の音楽だ。
モロッコ出身のアミ・タフ・ラはモロッコを中心に北アフリカや中東のさまざまな音楽からの影響を消化している。たとえば、「Gnawa」はモロッコのグナワ音楽からの影響を反映したもの。そういった非西洋的な要素が自然に溶け込んでいることが彼女の音楽を特別なものにしている。では、その彼女の音楽の中心にあると思われる北アフリカや中東の音楽とはどんなものなのだろうか。
ここでは彼女が影響を受けてきた北アフリカや中東のシンガーについて話を聞いた。
彼女の影響源がわかれば、彼女のジャンルや地域を超えた壮大な音楽性をもっと理解できるようになると思ったからだ。
――今日はご自身のルーツについて詳しく聞けたらと思っています。まず、Amiさんはモロッコ出身ですが、その出自は音楽家としての自分にどのように影響していますか?
「影響はとても大きいです。私は子どもの頃にモロッコを離れて、ヨーロッパで生きることになりました。その"移住の経験"そのものが、私の音楽のストーリーテリングに強く影響しています。 曲を書くときは、自分の過去について書くことが多いですし、母が家族を残して、私たちのためにより良い未来を探して旅立った、その道のりについて書くこともあります。アルバム『The Prophet and The Madman』に収録している〈Gnawa〉は、まさに母の物語、そして移民たちの物語から生まれた曲です。故郷を離れ、より良い未来を求めて旅をする人たちの話なんです。
音楽的な影響で言えば、私がメロディをどう解釈して歌うか、その歌い方自体が北アフリカや中東の地域から強く影響を受けています。アラブ音楽には微分音があって、私の歌にも自然とそれが入ってきます。 物語の面でも、音楽的にも、それは私のアイデンティティなんです。Ami Taf Raの音楽を聴けば、私の背景や物語が自然と伝わると思います。モロッコは、私の音楽のとても大きな部分を占めていますね」
――特に影響を受けたモロッコのアーティストについて聞かせてください。
「モロッコには素晴らしいアーティストがたくさんいます。まずサミーラ・サイード(Samira Said)。彼女は、おそらくモロッコ出身のアーティストとして初めて、他のアラブ諸国でも大きな成功を収めた存在です。ポップとクラシックの両方を歌えるシンガーですね。彼女は、基本的にはポップ・アーティストですが、クラシックも非常に得意です。声は軽やかで明るく、その"ライトな響き"をとても上手く使います。
それから、ラティーファ・ラーファト(Latifa Rafat)。彼女はモロッコのフォークロア音楽を見事に歌います。クラシックも歌いますが、"シャービ(Chaabi)"という、モロッコではとても重要なジャンルを得意としています。彼女の特徴は感情の表現力です。メロディの中で、感情をとても深く、はっきりと アーティキュレーション(表現)することができます。
そして、私がいちばん好きなモロッコの声は、ナジャート・アタブー(Najaat Atabou)です。彼女の声は、世界中どこを探しても聴いたことがないような、唯一無二のものです。とても力強くて、高音が鋭く突き抜ける声なんです。彼女はシャービのシンガーで、フォークロアの歌い手です。彼女の声を聴くと、アトラス山脈の出身だということがすぐにわかります。彼女が私のお気に入りなのは、彼女こそが"モロッコの音"そのものだからです。アフリカ的な要素とアラブ的な要素、その両方を完璧に体現しています。そのミックスされた感覚こそが、彼女の声の本質なんです」
――モロッコ以外のシンガーで、Amiさんに影響を与えた人たちについても聞かせてもらえますか?
「アラブ世界全体で見たとき、いちばん私に影響を与えた声はフェイルーズ(Fairuz)です。彼女はレバノン出身ですが、私の表現の仕方ととても近いものを感じています。フェイルーズは、ジャズとアラブ音楽を結びつけた最初期の存在のひとりでもあります。西洋の音楽要素をアラブ音楽の中に自然に取り入れた人なんです。
私は10代の頃から、フェイルーズの音楽をたくさん聴いていました。北アフリカ出身でありながら、ヨーロッパで育った自分自身の立ち位置を、彼女はまさに体現しているように感じたんです。アラブ音楽の中で、アーティストとして、クリエイターとして、いちばん自分に近いと思える存在はフェイルーズでした。
最初に惹かれたのは、やはり彼女の声です。彼女の声には、無垢な子どものような純粋さがあります。それから、メロディにも心を掴まれます。総合的に言うなら、彼女の魅力は「魔法」だと思います。本当に、魔法のような存在なんです。歌詞も素晴らしいです。彼女の夫が彼女を見出した人物で、彼とその兄弟が、初期のフェイルーズ作品の中心的な作詞・作曲を担っていました。彼らは、太陽や光、愛、無垢さをテーマにした、美しくて純粋な歌詞を書いていました。
でもフェイルーズは、それだけではありません。彼女はパレスチナについて歌った数少ないアーティストのひとりでもありますし、シリアについても歌っています。人道的なテーマや社会的な問題を、自然に音楽の中に取り込んでいた人です。だから彼女は、あらゆる意味で"完璧なアーティスト"だと思います。私たち音楽家が学ぶべきことを体現していました」
――では、フェイルーズ以外のシンガーについても聞かせてもらえますか?
「エジプトのウンム・クルスーム(Oum Kalthoum) は、母がいつも家でかけていました。だから、彼女の歌を聴くと、幼少期の記憶が一気によみがえります。4歳、5歳、6歳だった頃の感覚ですね。とてもノスタルジックな気持ちになります。
彼女のすごいところは、圧倒的な"ライヴでの存在感"だと思いますライヴでの彼女は、まるでライオンのようです。アラブ音楽の世界において、彼女は間違いなく史上最高のライヴ・パフォーマーだと思います。私は今でも彼女のライヴ映像をYouTubeでよく観ますが、毎回、そのステージ上での存在感に圧倒されます。彼女を見ていて思い出すのは、私の夫のカマシ(・ワシントン)です。彼もステージに立つと、同じような大きな存在感を放つんです。それから、もうひとり思い浮かぶのはマイケル・ジャクソン。ウンム・クルスームは、中東におけるマイケル・ジャクソンのような存在だったと私は思います。
私はアムステルダムで育って、MTVを観たり、ロックを聴いたり、マイケル・ジャクソンを聴いたりしていましたが、同時に家の中では、つねにアラブ音楽が流れていました。音楽があったからこそ、自分のルーツに近づくことができたんです。音楽が、私をアラブ的な背景、北アフリカのアラブ的なルーツへと導いてくれたんです」
たとえばアルバム『The Prophet and The Madman』の〈Love〉では、コーラスをアラビア語で歌って、ヴァースを英語で歌っていますが、それは特別なことではないんです。私自身のふたつの音楽的アイデンティティが自然につながった結果です。それが"アムステルダムで育ったモロッコ人シンガー"である私の音なんです。
今回、カマシと一緒にアルバムを作るときも、私たちは意識的に、私のアラブ的な背景をきちんとアルバムに反映させようとしました。もし英語だけのアルバムにしていたら、それは本当の私ではなかったと思います。モロッコのグナワや、中東のさまざまな影響を取り入れたことで、私自身を表現することができたんです。
たとえば家にいるときや、車の中でカマシと一緒にいるとき、よく音楽をシェアします。彼はお気に入りのジョン・コルトレーンの曲をかけて、私はお気に入りのフェイルーズをかけます。
私は、音楽はユニバーサルな言語だと思っています。たとえ中東出身じゃなくても、アラブ音楽の言葉がわからなくても、人はその音楽を好きになることができます。音楽には、人間同士をつなぐ普遍的な力があるんです」
――ブルーノート東京の公演はどんなショウになりそうですか?
「これまでのツアーでは、カマシのライヴで彼の曲を中心に演奏して、そこに私が数曲ゲストとして加わる形でした。でもブルーノート東京では、私のアルバム『The Prophet and The Madman』の楽曲を中心に演奏します。もちろんカマシもゲストとして参加します。カマシはゲストであると同時にこのアルバムを支えている大きな存在です。東京で彼と一緒にステージに立てるのは、本当に特別なことです。
じつは日本に行くのは今回が初めてなんです。少しドキドキしていますが、日本でこのアルバムの楽曲を演奏して、皆さんと共有できるのが本当に楽しみです。きっと、とても魔法のような時間になると思います」
LIVE INFORMATION
▶︎AMI TAF RA
2026 1.23 fri., 1.24 sat.
1.23 fri.[1st]Open5:00pm Start6:00pm [2nd]Open7:45pm Start8:30pm
1.24 sat.[1st]Open3:30pm Start4:30pm [2nd]Open6:30pm Start7:30pm
https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/ami-taf-ra/
<MEMBER>
アミ・タフ・ラ(ヴォーカル)
アイザック・グリーン(ベース)
ミカ・ハード(ドラムス)
ヴェリタス・ミラー(キーボード)
カマシ・ワシントン(サックス)
- 柳樂光隆(なぎら・みつたか)
- 1979年、島根県出雲市生まれ。音楽評論家。DJ。昭和音楽大学非常勤講師。21世紀以降のジャズをまとめた世界初のジャズ本「Jazz The New Chapter」シリーズ監修者。共著に鼎談集「100年のジャズを聴く」など。
https://note.com/elis_ragina/n/n488efe4981be
★このインタビューのフルver.はnoteに掲載
https://note.com/elis_ragina/n/n42927e48b57a

