【JAM vol.240】EMMET COHEN TRIO | News & Features | BLUE NOTE TOKYO

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【JAM vol.240】EMMET COHEN TRIO

【JAM vol.240】EMMET COHEN TRIO

text = Mitsutaka Nagira

ジャズ100年の歴史を縦横無尽に行き来する
ピアノ・ヒーローが誘うカウントダウン&ニューイヤー・ライヴ

 エメット・コーエンは、きわめて現代的でありながら、同時にきわめて伝統的なジャズ・ミュージシャンでもある。その一見相反する要素を、彼は鮮やかに体現している。これまでに彼のようなアーティストはいなかった。そのオリジナリティの核心にあるのは、ジャズという音楽の捉え方だ。エメットは、ジャズが何であるのか、その在り方を徹底して追求してきた。

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 ジャズがライヴ・ミュージックであることを、ここまで深く掘り下げ、独自の方法で示してきたアーティストは他にいないだろう。彼はライヴや作品発表にとどまらず、YouTube番組「Live from Emmet's Place」を主宰し、大御所から若手まで幅広いゲストを招いている。そこで披露されるのは完成度を競うショーではなく、その瞬間限りのセッションだ。即興性を軸にしながら、場の空気を共有し、互いに個性をぶつけ合いつつ調和を探るーー ジャズが"共同的な音楽"であることを体感させてくれる場になっている。

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 エメット自身はこの姿勢を「ソーシャル・ミュージック=社会的な音楽」と呼び、コミュニティの中で演奏することの喜びを強調する。その中心にあるのは「楽しさ」だ。もともとジャズは大衆の音楽=ポピュラー・ミュージックであり、スウィング・ジャズはダンスホールで踊るためのダンス・ミュージックでもあった。彼は「ジャズはバイブレーションを感じる音楽。パーティみたいなもの」と語る。技巧や芸術性を鑑賞する対象として定着した現代のジャズに、彼はあらためて"楽しさ"という要素を呼び戻そうとしているのだ。

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 さらに特徴的なのは、彼がヒップホップやロック、ファンクといった他ジャンルを加えるのではなく、あえてジャズの伝統へと目を向けている点だ。とりわけストライド・ピアノやブギウギといった戦前のスタイルを積極的に取り入れたことが、大きな成果につながった。エメットは「1920年代のストライド・ピアノを弾くと、誰もが踊り出したくなるようなファンキーなフィーリングが生まれる」と語る。「Emmet's Place」も、禁酒法時代のハーレムで黒人たちが行っていた "レント・パーティ"に着想を得て、コロナ禍のロックダウン期にオンラインで始めたものだった。彼はリスナーを秘密のパーティに招くように、その場に巻き込んでいったのである。そして、コロナ禍が明けてからのエメットは、ヴァーチャルの試みで得たものをライヴ会場で実践している。世界中のジャズ・ファンがエメットのパーティに夢中になっているのだ。

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 こうした100年前のスタイルまで視野に入れる姿勢は、21世紀以降のジャズ・ピアノにおけるひとつの潮流ともなっている。ジョン・バティステやサリヴァン・フォートナーといった現代の代表的ピアニストたちも、古い伝統を現代的な文脈に織り交ぜ、高い評価を得ている。日本でも海野雅威がその流れに連なり、上原ひろみもブギウギ的な左手を響かせることが少なくない。さらに遡れば、ジェイソン・モランはストライド・ピアノの巨匠ファッツ・ウォーラーにオマージュを捧げたアルバムを制作し、フォートナーの師としても知られている。新鋭のショーン・メイソンやアイザイア・J・トンプソンらも戦前ジャズを身に着け、取り入れている。彼らは100年以上にわたるジャズ・ピアノの歴史を自在に横断し、異なる時代の要素を結びつけて新たな表現を生み出しているのだ。シーンの最前線ではエメットのように文字通りの"温故知新"を体現するピアニストたちが活躍している状況がある。

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 スウィングやストライドの高揚感や祝祭性を、現代ジャズならではの洗練やクールさと融合させるエメット・コーエンはそんなピアニストの流れを代表する存在のひとりだ。エメットほど、ブルーノート東京のカウントダウンにふさわしいピアニストは他にいないだろう。そのピアノから放たれるダンスに誘うようなリズムが、新しい一年の幕開けを鮮やかに彩ってくれるはずだ。

LIVE INFORMATION

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EMMET COHEN TRIO
2025 12.30 tue., 12.31 wed.
2026 1.2 fri., 1.3 sat.


12.30 tue., 1.2 fri., 1.3 sat.
[1st]Open3:30pm Start4:30pm [2nd]Open6:30pm Start7:30pm

12.31 wed.
[1st]Open6:30pm Start7:30pm [2nd]Open10:00pm Start11:00pm
★12.31 wed. 2ndショウではカウント・ダウンを行います。
https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/emmet-cohen/

<MEMBER>
エメット・コーエン(ピアノ)
中村恭士(ベース)
ジョー・ファンズワース(ドラムス)

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