【来日記念特集】 THE LEGENDARY COUNT BASIE ORCHESTRA directed by SCOTTY BARNHART
カウント・ベイシー・オーケストラが
90年間続いている理由は?
祝!結成90周年。音楽史に燦然と輝く"ビッグバンドのバイブル"ことカウント・ベイシー・オーケストラ。数多の名プレイヤーを輩出し、いまなお現役で活躍するこの名門楽団は、なぜ90年の長きにわたり愛され続けるのか。その謎と魅力に迫る。
Text = Koji Murai
今年2025年は、カウント・ベイシー・オーケストラ結成90周年のアニヴァーサリー・イヤーだ。
1904年にニュージャージー州に生まれ、ニューヨークを拠点にピアニストとして活動していたカウント・ベイシーが、ミズーリ州カンザスシティのベニー・モーテン楽団に加入したのは1929年のこと。35年にモーテンが急死し、バンド・メンバーの主力が集まって、ベイシーをリーダーとする新しいバンド「カウント・ベイシー・アンド・ヒズ・バロンズ・オブ・リズム」を結成した。そこにはレスター・ヤング(サックス)、ジョー・ジョーンズ(ドラムス)、ウォルター・ペイジ(ベース)、ジミー・ラッシング(ヴォーカル)といった、のちのベイシー・オーケストラのスターたちが既に参加していた。
はじめは9人編成だったバンドは徐々にメンバーを増やし、36年にはビッグバンドの編成になった。そしてその年、著名なレコード・プロデューサーだったジョン・ハモンドが偶然ベイシー楽団の実況放送をラジオで聴いて驚愕し、ベイシーと仲間たちの初めてのレコーディングを行った。そして彼らは翌年ニューヨークに進出、当時全盛だったスウィング・バンドの中でも群を抜いた演奏力とスウィング感覚でシーンに衝撃を与えたのだった。
初期のベイシー楽団の演奏は、シンプルなリフの繰り返しの間にレスター・ヤングやハーシャル・エヴァンス(サックス)、バック・クレイトン(トランペット)らによる素晴らしいソロが挟まり、ベイシーのピアノ、37年に加入したフレディ・グリーンのギター、ペイジのベース、ジョーンズのドラムスによる"オール・アメリカン・リズム・セクション"の上で、バンド全体が沸き立つようにスウィングしながら突き進んでいくサウンドが特徴だった。今に至るまでバンドのテーマ曲となっている「ワン・オクロック・ジャンプ」、ライヴ演奏での定番のひとつである「ジャンピング・アット・ザ・ウッドサイド」は30年代から現在まで演奏され続けている。
第二次世界大戦後、一時は人数を減らしたバンドで活動していたベイシーが、満を持して新しいビッグバンドを組織したのは1952年のこと。リズムを支えるギタリストのグリーン以外は若いメンバーを起用した50年代の"ニュー・ベイシー・バンド"には、名リード・アルト・サックスのマーシャル・ロイヤル、アルト、テナー、フルートをこなすフランク・ウェス、サックス以外に作編曲者としても才能を発揮したフランク・フォスター、トランペッターで作編曲家でもあるサド・ジョーンズ、ダイナミックなドラミングで場を沸かせるソニー・ペインら個性的な面々がずらりと顔を揃えていた。
作編曲はフランク・フォスターとサド・ジョーンズが担当し、外部からはニール・ヘフティ、アーニー・ウィルキンスなどが楽曲を提供した。「エイプリル・イン・パリ」「シャイニー・ストッキングス」「コーナー・ポケット」「キュート」「リル・ダーリン」など、今でもライヴでよく演奏されるレパートリーは50年代のものが多い。そして何よりも、バンド結成以来の最大の特徴である"ひたすらスウィングしまくるダイナミックなパフォーマンス"は、この時期ますます冴えまくることになった。
60年代に入ると、クインシー・ジョーンズが編曲を手掛けた作品も多い。それと並行して、フランク・シナトラやエラ・フィッツジェラルド、サラ・ヴォーン、トニー・ベネットといった一流歌手たちとの共演作が増えていった。中でもシナトラとは、ラスベガスのホテルでのショーの伴奏を務めるなど深い信頼関係を築いたのだった。
そしてサミー・ネスティコが作編曲を提供した68年の『ベイシー...ストレート・アヘッド』は、カウント・ベイシー・オーケストラが現在でも数多くの熱心なファンを擁していることの、ことによったら最大の原因なのかもしれない作品だ。というのは、ここに収録されたネスティコの楽曲、「ベイシー...ストレート・アヘッド」「イッツ・オー・ソー・ナイス」「マジック・フリー」「ザ・クイーン・ビー」などが、発売されてから今に至るまで、世界中のアマチュア・ビッグバンドの「定番曲」になっているからだ。
親しみやすくて演奏も比較的しやすく、それでいて奥が深いサミー・ネスティコの楽曲はアマチュア・ビッグバンドに愛されていて、75年のアルバム『ベイシー・ビッグバンド』に入っている「ウィンド・マシーン」「フレックル・フェイス」「オレンジ・シャーベット」「ザ・ヒーツ・オン」なども人気が高い。学生時代にビッグバンドに所属していた人たちが卒業後もアマチュアのバンドを結成してベイシーを演奏し続ける、という現象によって、"演奏を通じてのカウント・ベイシー・ファン"の数は毎年累積されていくのだ。
1984年、亡くなる直前までステージでバンドを率いていたカウント・ベイシーが世を去り、1987年に初期からのギタリスト、"ミスター・リズム"ことフレディ・グリーンが亡くなってからも、ベイシー・オーケストラは卒業生たちがリーダーになって存続した。ベイシー没後の歴代のバンド・リーダーは、サド・ジョーンズ、フランク・フォスター、グローヴァー・ミッチェル、ビル・ヒューズ、デニス・マックレル、そして2013年からがスコッティ・バーンハートがバンドを率いている。
Photo by Yuka Yamaji
1930年代から現在まで、カウント・ベイシー・オーケストラのいちばんの特徴は"スウィング"なのだと思う。やみくもに力技で突っ走るのではなく、聞こえないほど小さな音から耳をつんざくフォルテシモまでを効果的に使い、ギターとベースによるクッションの効いたドライヴ感が、あたかも大馬力の高級車に乗っているかのような気持ちよさを与えてくれるベイシー・バンドのスウィングは、一度生演奏を体験するとまた聴きたくなる魔力を持っている。親しみやすいシンプルなメロディを持った楽曲の数々と、それを最も気持ちよく演奏する技術が常に保たれていることも、ベイシー・オーケストラの大きな魅力だ。
そして、"みずからが演奏すること"を通じてカウント・ベイシー・オーケストラの素晴らしさを体感し、演奏会場に熱心に足を運ぶ人たちが世界中にたくさん存在していることも、ベイシー・オーケストラが今も"現役"であることの大きな理由だろう。ほぼ50年間アマチュア・バンドでベイシーの曲を演奏し続けている(ギターです)わたくしも、ベイシー・オーケストラが来日すれば万難を排してかけつけるのだった。今年も、もちろん。
LIVE INFORMATION
▶︎The 90th Anniversary Residency
THE LEGENDARY COUNT BASIE ORCHESTRA
directed by SCOTTY BARNHART
2025 12.23 tue., 12.24 wed., 12.25 thu., 12.26 fri., 12.27 sat., 12.28 sun. ブルーノート東京
https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/count-basie/
★12.24 wed., 12.25 thu.は全席グラスシャンパン&クリスマス・ディナーコース付
<MEMBER>
Scotty Barnhart(conductor,tp)
Dave Glasser(as,fl)
Stantawn Kendrick(as,fl)
Doug Miller(ts)
Doug Lawrence(ts)
Joshua Lee(bs)
Frank Greene(tp)
Shawn Edmonds(tp)
Brandon Lee(tp)
Endre Rice(tp)
Clarence Banks(tb)
Isrea Butler(tb)
Martin McCain (btb)
Mark Williams(tb)
George Caldwell(p)
Will Matthews(g)
Trevor Ware(b)
Robert Boone(ds)
- 村井康司(むらい・こうじ)
- 音楽評論家。1958年生まれ。著書『あなたの聴き方を変えるジャズ史』『JAZZ 100の扉』『現代ジャズのレッスン』『ページをめくるとジャズが聞こえる』『教養としてのジャズ』(監修)他。尚美学園大学講師(ジャズ史)。

