【来日直前インタビュー】FIEVEL IS GLAUQUE

interview & text = Shino Okamura
interpretation = Kazumi Someya
混乱や不安定から生まれる意外性
ファイベル・イズ・グロークが理想とする音世界とは
ニューヨークはブルックリンとベルギーのブリュッセルを拠点とするファイベル・イズ・グローク。マルチ・プレイヤーのザック・フィリップスとシンガーのマ・クレマンの二人は、過去の様々なポップスのカケラを拾い集めるように音の意外性を楽しんでいるという。初来日公演直前に話を聞けたのでお届けしよう。
──もともとどのようなユニットとして誕生したのですか?
ザック・フィリップス「僕らはいつもギリギリまで何も決めないんだ(笑)。場合によっては実験的にバンド経験の少ない人をゲストに呼んでみたりするもする。快適なことや予想通りのことだけじゃなく、混乱や不安定さから新しい結果が生まれるのが好きなんだ。それが結成した頃からこのユニットの基本かもしれないな。こういう感覚って、僕が最も影響を受けたアーティストで、一緒にアメリカでライヴをやったりレコーディングもしたことがある日本のマヘル・シャラル・ハシュ・バズと、そのリーダーの工藤冬里からの影響なんだけどね」
──その工藤冬里さんが、今回のあなたがたの初来日公演に出演するそうですね!
ザック「そうなんだよ! 僕ら6人編成に冬里が加わる形になると思う。楽しみにしていてほしいな」
マ・クレマン「私たちもマヘルもちょっと居心地悪いところから生まれる混乱を楽しむ感じよね。既によく知っている状況で、新しい状況を作り出すような感じ、といえばわかるかしら。ザックは意外性を求めるのが理想って言ってなかった?」
ザック「うん、好きな要素を意外な形で組み合わせたいってことかな」
──最初のアルバム『God's Trash Man』はライヴ録音による作品でした。これもその意外性を引き出したかったからですか?
ザック「実は、全部スタジオで録音した音源もあるんだよ。でも、ボロボロのマランツのカセットマシンと2本のマイクを使ってモノラルで録音したものの方が魅力的だったんだ。それこそ意外性があった」
マ「全部リハーサルのような感じだったわね。しかも全部ザックが録音エンジニアもやっていたの。ほんと、腕がいくつあるの? って感じ」
ザック「大したことはしてないよ。バンドの演奏にマイク1本、ヴォーカルに1本でライヴ・ミックスして......って感じ。もちろん僕はキーボードも弾いている。これがめっちゃ楽しいやり方なんだよ。ファーストだけじゃなく3枚のアルバム全部ライヴ録音なんだけど、ファーストが一番ライヴっぽいのは、それを録音している時にまさかそれが作品としてリリースすることになるとは思っていなかったから。まさしく意外性! ここがすごく大事なポイントなんだ」
──ザックとマだけではなく、録音やライヴをサポートしてくれる仲間がいますが、彼らとはどのようにその"意外性の極意"を伝え、共有しているのですか?
ザック「基本はみんなに自分なりのアプローチでやってほしいってことかな。簡単なコードとハーモニーのコンセプトを渡すだけで、あとは自由にしてもらっている。即興部分が実は多いんだ。今となっては曲はメンバーみんなで作っている実感があるよ。しかも未発表の曲がまだ100曲くらいあるんだよね」
──最新作『Rong Weicknes』の作り方はどうでしたか? ポケット・オーケストラとでも言うように、ホーンやパーカッションももりだくさんでカラフルなアレンジですよね。
ザック「基本は同じ。でも、よりレイヤーを重ねるように作っていったんだ。8人くらいが録音に参加したんだけど、3回くらい重ねて録ったかな。最初にリハ通りのベーシック・トラックをタイトに録音して、次にほぼ同じトラックを重ね、3本目はフリーに必要だと思った瞬間だけバッと演奏して重ねていく感じ。普通はテイクを重ねて選ぶけど、この最新作ではいいテイクが録れたらそれにしたがって重ねていったんだ。3本目のテイクだけを独立してリリースしてみたいねって笑って話したりもしたよ」
──それにしても驚くのは、ポップではあるけれど、ここまで複雑に入り組んだ曲を、よくマは歌いこなせているなってことです。
ザック「最初にマと出会った時、彼女、"私なんでも歌えるわ"って言ってくれたんだ。ビックリしたよ。めっちゃ自信家だな! なんでも歌えるなんて無理でしょって(笑)。でも、これが本当だった。試しに家でシェールの「Believe」を歌ってもらったらこれがすごくハマってたんだ」
マ「自信家どころか、私、シャイだから、何歌える?って訊かれてなんと答えていいかわからなかっただけなのにね(笑)」
──最新アルバムのタイトル『Rong Weicknes』はWrong Weaknessをもじったもので、実際にはないスペルです。こうした言葉遊びのような感覚は何にヒントを得たものなのでしょうか?
マ「タイトルや歌詞はコンセプトを考えてるわけじゃなく、めっちゃ直感的なの」
ザック「ポップ・ミュージックに文学的な態度を持ち込むってほどじゃないけど、僕とマは言語の違いでコミュニケーションが難しいと感じる時もあるけど、翻訳の面白さ、可能性を楽しんでいるところもあるんだ。英語やフランス語でふざけたことを言ったり、言葉遊びをしてみたり......僕自身は母国語以外のライティングにすごくハマってるよ。言葉の違いから、アルバム・タイトルのようなありえないスペルが浮かんできたりするってことなんだ」
マ「いろんな国の小説も読むしね。私はイタリアのゴリアルダ・サピエンツァを最近知ってハマってるわ」
ザック「僕もイタリアの作家が好きだな。イタロ・ズヴェーヴォとかね。日本の作家も好きだよ。子供の頃は安部公房に夢中だった。最近僕らは三島由紀夫を読んでるんだ」
LIVE INFORMATION
FIEVEL IS GLAUQUE (ファイベル・イズ・グローク)
2025 8.27 wed., 8.28 thu.
[1st]Open5:00pm Start6:00pm [2nd]Open7:45pm Start8:30pm
https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/fievel-is-glauque/
<MEMBER>
ザック・フィリップス(ピアノ、キーボード)
マ・クレマン(ヴォーカル)
ギャスパー・シックス(ドラムス)
アナトール・ダミアン(ベース)
シルヴァン・ハーネン(ギター)
アンドレ・サカルソト(サックス、フルート)
Guest:工藤冬里 [Maher Shalal Hash Baz]
- 岡村 詩野(おかむら・しの)
- 音楽評論家、『TURN』編集長。京都精華大学、昭和音楽大学非常勤講師。ラジオ番組『Imaginary Line』(FM京都 毎週水曜日)のパーソナリティも担当。