【JAM vol.238】PASQUALE GRASSO TRIO

text = Kenichi Aono
端正かつしなやかなギターが奏でるジャズ・スタンダード
パスクァーレ・グラッソがブルーノート東京に初登場
クラシカルな面持ちのブラウン系のスーツに白いワイドカラー・シャツ、黒っぽいソリッド・タイ----アルバムの裏ジャケットに写る彼の着こなしを見て、「端正だけれど柔らかでこなれた雰囲気があっていい」と思った。彼、とはギタリストのパスクァーレ・グラッソ、アルバムはデビュー作『ソロ・マスターピース』(2021)のことである。アルバム・ジャケットの印象と楽曲を再生したときのそれが見事に重なったことにも驚いた。ジャズのスタンダード、名曲をギターのみで演奏しているこの作品からは、しなやかで流麗ながらもよく耳を傾ければ一音一音が淀みなく聴こえてきて、「すごいことをすごいと思わせないくらいさりげなくやっている」とすっかり感心してしまったのを覚えている。
パスクァーレ・グラッソは1988年イタリア・カンパニア州生まれ。一家が音楽好きだったとのことで、子どもの頃からギターを学んだ。8歳のときの先生はギタリスト、アゴスティーノ・ディ・ジョルジオ。アメリカ出身だがのちにヨーロッパに拠点を移し、パスクァーレが出会った頃はイタリアに居住していた。アゴスティーノはかつてギタリストのチャック・ウェインに師事しており、パスクァーレはアゴスティーノを通じてチャック・ウェインの独特なフレージングや演奏スタイル----チャーリー・パーカーやコールマン・ホーキンスといったサックス奏者に影響を受けたといわれている----に触れ、それを吸収していった。ついでパスクァーレが師事したのはアメリカ人ピアニストのバリー・ハリス。バリーは演奏家としての顔に加えて、1980年代からはジャズ理論と実技のワークショップを各地で開催する講師の一面を持ち、パスクァーレもこのワークショップに参加するようになったのだ。
やがてパスクァーレはボローニャ音楽院に進学。ここではクラシックを習得し、その後、拠点をニューヨークに移して、2015年には「ウェス・モンゴメリー国際ジャズ・ギター・コンペティション」で優勝。翌年、パット・メセニーがパスクァーレの演奏を絶賛したことで一躍注目を浴びるようになった。2019年にはソロ・ギターによるEPを配信オンリーでリリースし、レコーディング・アーティストとしてのキャリアをスタート。先の『ソロ・マスターピース』はこれらEPからの楽曲を選りすぐってまとめたものだ(日本盤CDには加えて「エヴリタイム・ウィ・セイ・グッバイ」がボーナス・トラックとして収録されている)。
ビ・バップを愛聴し、お気に入りのアーティストにバド・パウエル、アート・テイタムとピアニストを挙げている彼の演奏スタイルは、「ジャズ・ギター」のひと言では括ることのできないユニークなもの。師事したアーティストの個性や音楽院で学んだクラシック・ギターの影響が大いに感じられるワン・アンド・オンリーなサウンドが特徴である。今回が初登場となるブルーノート東京公演は、『ファーヴァンシー』(2025)の録音メンバーであるアリ・ローランド(ベース)、キース・バッラ(ドラムス)とのトリオ編成ということで、よりメリハリの効いたアンサンブルが期待される。加えていうなら、リラックスして楽しむことができるのも彼の音楽の魅力のひとつ。ギターの音色が晩夏のひとときを優しく包みこんでくれそうだ。
RELEASE INFORMATION

『ソロ~ビ・バップ!』
(ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル)
※デジタル配信中
※2025年8月27日発売 (※CDリリースは日本のみ)

『ファーヴァンシー』
(ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル)
LIVE INFORMATION
PASQUALE GRASSO TRIO
2025 8.25 mon., 8.26 tue.
[1st]Open5:00pm Start6:00pm [2nd]Open7:45pm Start8:30pm
https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/pasquale-grasso/
<MEMBER>
パスクァーレ・グラッソ(ギター)
アリ・ローランド(ベース)
キース・バッラ(ドラムス)