【来日直前インタビュー】CAMILA MEZA

Interview & text = Mitsutaka Nagira
Interpretation = Miho Haraguchi
"光を探し続けよう、私たちにはできるんだ"
6年ぶりのニューアルバム『Portal』に込めた祈り
カミラ・メサが6年ぶりの新作を発表した。リリースはスナーキー・パピーのマイケル・リーグ率いるGroundUPから。カミラと言えば、卓越した歌とギターを駆使した音楽のイメージだが、本作はそこに止まらない。エレクトロニックなサウンドやポストプロダクションにもチャレンジし、エレクトロニックでシネマティックなサウンドをみずから作り出すことに成功している。
また本作にはカミラの視点を通して見た世界を巡るさまざまな状況が映し出されている。もともと彼女はメッセージのある曲を歌う人だ。その姿勢はそのまま新作『Portal』にも入っている。つまり、これまでの彼女の姿勢そのままの部分もあれば、新たなチャレンジもある。それらがこれまでの彼女の作品とは少し異なるムードで調和している。
ブルーノート東京での来日公演を前に、そんな彼女の新境地について話を聞いた。
――このアルバムのコンセプトから聞かせてください。
「まずこのアルバムのほとんどの楽曲が、NYのジャズ・ギャラリー(Jazz Gallery)から依頼を受けたコミッション・ワークの一部なんです。約8ヶ月間で1時間分の音楽を書き下ろす必要があったんですが、私にとっては、それだけの音楽をその期間で作るのは短いなって感じ。普段はもっと長い時間をかけるから。つまり今回はまったく違うやり方で曲を作っているんです。
ほぼ毎日作曲していたから、アイデアが連続してつながっていく感覚があって、楽曲全体がひとつの物語のようになっていって、最終的には、まるで頭の中に映画が流れているような感覚になりました。
当時は、全体的に"何についての音楽なのか"は自分でもはっきりわかっていなかった。でも、頭の中には"変容"や"闇を光に変えるようなイメージ"が浮かんでいて、自分の音楽を通して"調和"をもたらしたいという強い思いがあった。それは私の個人的な生活のあらゆる領域にも当てはまったし、社会全体――今も見えている社会の状況にも当てはまりました。
だからこのアルバムに関しては語るべきことがたくさんあります。テーマがとても広範だから。そしてこの曲たちは6年の時を経て、私にとってさらに豊かな意味を持つようになりました」
――そのコミッションを受けたのはいつ頃ですか?
「2019年。2019年の6月にライヴで演奏したからすでに6年経っていますね。多くの曲は、NYのアパートで書きました。何ヶ月もずっと取り組んでいたから、チリで作曲した時もあったと思う。
作曲の面でも、今回のプロセスは興味深かった。インスピレーションを得るために、さまざまな方法を探る必要があったので、時にはギターを手放してピアノを弾いたりもしました。私はピアニストではないけど、何かの音からインスピレーションが湧くかもしれないと思って、とりあえず音を出してみたりして。ギターを弾いていると、"あ、このコード知ってる"と思って、それに対してすぐに判断してしまって、そこで止まってしまう。だからそういう思考から逃れるための方法をいろいろ試しました。ギターのチューニングを変えることもそのひとつ。それにより新しいコードや響きを手に入れようとして。そういうプロセスを経て曲が生まれていくのはとても楽しかったです」
――手癖から逃れることで新しいものを自分の中から出そうとしたと。
「あと、世界の状況とこの作品の関係についてなんですが、これはある意味で"続き"のような感じもある。ここ10年くらい、ずっと続いている流れというか。重たい空気だったり、人間同士の対立だったり、不協和音があちこちで起きている。でもその一方で、そこに対抗するようなエネルギーも確実にあって、"目覚め"とか"気づき"みたいなものを感じている。"こういう世界があったらいいな"っていうヴィジョンをちゃんと描くことで、それに向かって進もうとする力がある。
だからこのアルバムの曲たちは、どこか祈りのような形でできていて、私が信じている理想や、こうなってほしいって思っている世界を音楽の中で描いているんです。今の世の中はまだ暗い部分もあるけど、それでも私は希望を失ってないし、人間にはもっと美しい現実をこの世界に生み出す力があるって信じています。
このアルバムはずっとそのエネルギーに立ち返っていて、"光を探し続けよう、私たちにはできるんだ"って何度も語りかけてくるような作品になっていると思う」
――今回のアルバムはエレクトリックで、たぶんいろいろな加工をしていると思います。こういったサウンドにした理由を聞かせてもらえますか?
「じつはこのサウンドを構想して、実際にジャズ・ギャラリーでライヴ演奏したとき、すでにいくつかエレクトロニックな音を加えていたんです。でも、その後アルバムとして形にしようと考えたとき、私一人でコンピュータを使って作業することにしました。すると、より空間的で抽象的な方向に進んでいったんです。完全にアコースティックで地に足がついたような実感のあるサウンドではなくて、もっと浮遊感のある感じ。その理由の一つは、電子音というツールが持つ力だと思う。使うことで"絵を描く"ように音を構築できるから。まるで映画のようなサウンドスケープを本当に作り出せる。
実際、この作品を考えていた頃のブレインストーミングのようなメモ帳を見返したら、"たくさんのイメージを持たせたい"とか、"映画のようにしたい"って書いてあった。つまり私はこの音楽をシネマティックにしたかったってこと。視覚的な物語を伴うような作品にね。
そして現実的な状況としても、すべてが変わってしまったなかで、"この音楽をいま、どうしても録音したい"という衝動に駆られるようになったんです。でもその頃、友人たちは世界中に散らばっていて、誰もが孤立して離れ離れになっていた。だから、これまでとはまったく違うやり方を取らざるを得なかったのもそうなった理由。私はこれまで、一斉にスタジオに入って"1、2、3"と全員で演奏するやり方しかしてこなかった。でも、今回は全部レイヤーで録音しました。パートごとにひとつひとつ重ねていくという方法。そしてここで感謝しなければならないのが、シャイ・マエストロ。彼がいなかったら、こうしてこの作品について話すこともできていなかったと思う。彼がそばにいて制作を一緒に支えてくれたからこそ、このアルバムは完成したと思うから」
LIVE INFORMATION
CAMILA MEZA presents "Portal"
2025 6.8 sun., 6.9 mon.
6.8 sun.
[1st]Open3:30pm Start4:30pm [2nd]Open6:30pm Start7:30pm
6.9 mon.
[1st]Open5:00pm Start6:00pm [2nd]Open7:45pm Start8:30pm
https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/camila-meza/
<MEMBER>
カミラ・メサ(ギター、ヴォーカル)
ガディ・レハヴィ(ピアノ)
オフリ・ネヘミヤ(ドラムス)
アレハンドラ・ウィリアムス・マネリ(キーボード、バックヴォーカル)
- 柳樂光隆(なぎら・みつたか)
- 1979年、島根県出雲市生まれ。音楽評論家。DJ。昭和音楽大学非常勤講師。21世紀以降のジャズをまとめた世界初のジャズ本「Jazz The New Chapter」シリーズ監修者。共著に鼎談集「100年のジャズを聴く」など。
https://note.com/elis_ragina/n/n488efe4981be
★このインタビューのフルver.はnoteに掲載
https://note.com/elis_ragina/n/nb5037f758d37