【来日直前インタビュー】HARVEY MASON | News & Features | BLUE NOTE TOKYO

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【来日直前インタビュー】HARVEY MASON

【来日直前インタビュー】HARVEY MASON

Interview & text = Eisuke Sato
Interpretation = Kazumi Someya

変幻自在な"カメレオン"ドラマー
ハーヴィー・メイソンが語る音楽哲学

ハーヴィー・メイソンはフュージョン興隆期に登場したドラマーのなかで、異彩を放つ存在だ。バークリー音大/ニューイングランド音楽院を経て業界入りすると、彼はハービー・ハンコックの1973年一大転機作『ヘッドハンターズ』に抜擢され一躍脚光を浴びた。その後、彼はスタジオ界のファーストコールとしても大車輪。彼のドキドキする躍動創出の恩恵を受けた人は本当に山ほど。

一方、彼は1975年より趣向を凝らしたリーダー作を随時リリースしていき、ジャズの広がりを身をもって体現してきた。そんな彼のこの5月初旬のブルーノート東京公演は、なんとゴンサロ・ルバルカバとフェリックス・パストリアスを擁するピアノ・トリオによる。彼はさまざまなピアニストとベーシストの組み合わせを試みた『With All My Heart』と『チェンジング・パートナーズ』を出してもいるが、今回のショウはそのヴァリエイションを汲むと説明もできようか。来日を前に、コペンハーゲンに滞在する彼に話を聞いた。

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HARVEY MASONの画像2 2023 9.15 BLUE NOTE TOKYO (Photo by Makoto Ebi)

――今、デンマークに滞在しているそうですが。

「"エピキュラス"っていうジャズクラブでレジデンス公演をやっているんだ。五つ星レストランを2軒持っているオーナーが始めた最新の店でね。フェリックス・パストリアスとニルス・ラン・ドーキーのトリオでやっているよ」

――お元気ですね。ずっとアクティヴに活動してらっしゃいますが、そのモチベーションとなるのはなんでしょうか?

「こうやって続けていることが、健康を保っているのかな。前ほどアクティヴではないけど、歳を取るほどやり続けることが大事になってくるのかなと思う。若いとき以上にね。あと、ドラムってフィジカルなものだし、それも役に立っているのかもしれないね」

HARVEY MASONの画像3 2014 5.26 BLUE NOTE TOKYO (Photo by Takuo Sato)

――2010年代以降のブルーノート東京公演は、LAの新人や新たな視野を持ったミュージシャンを連れてくる"カメレオン"プロジェクトが回数を重ねています。カマシ・ワシントンもベーシストのモノネオンも、その後何度も来日しますが、ぼくが彼らを初めて見たのはあなたのブルーノート公演でした。

「若い連中と一緒にやるのが楽しいんだよね。彼らの成長を見守ることで、音楽がフレッシュに保たれる。自分がエキサイトするのがいちばんの動機なんだ。都合さえ合えば、どんどん連れていきたいと思ってる。前回の公演はフェリックスを連れて行ったけど、女性サックス奏者のヘイリー・ニスワンガーやマーク・ド・クライブ・ロウ、彼は日本の血を引く才人だけど、彼らを日本のオーディエンスに紹介できるのが嬉しい。僕自身があらゆることをいろんなセッティングでやりたいので、"カメレオン"は僕にぴったりなプロジェクトなんだ」

――そして、今度はピアノ・トリオという編成です。『チェンジング・パートナーズ』は曲ごとにピアニストが異なりますが、それと同時にベーシストまで違う人を組み合わせているのには驚かされます。顔が広く創意を持つあなたならではの作品だなと感服させられます。

「とにかく、音楽に関しては自分自身が興奮することしかやりたくないからね。何が起こるかわからない、それがいちばん楽しいんだ。だから、心と耳をオープンにして構えている。ピアニストとベーシストの組み合わせはやっぱり相性なので、自分なりにこうやったら上手くいくんじゃないかと考えてはいるんだけど、ゴンサロとフェリックスの組み合わせはとてもスペシャルになるよ。フェリックスはエレクトリック・ベースを弾くのでそれも異化作用を生むはずだし、どんなふうになるか楽しみだよね。やっぱり楽しさ、僕が追及しているのはそれなんだ」

HARVEY MASONの画像4 2019 8.16 BLUE NOTE TOKYO (Photo by Yuka Yamaji)

――ゴンサロはブルーノート・レコードと契約していた2000年代には壮絶としか言いようがないクインテット表現をブルーノート東京で披露していましたし、同郷キューバの先輩であるチューチョ・バルデスと歓びあふれるデュオ公演をしたこともありました。また、2022年にはホールでピアノ・ソロの公演をしたのですが、その際は息を飲むピアノ美学で聴き手を魅了しました。そんな彼があなたとやったらどうなるんだろう、そしてそこにフェリックスが加わったら......本当に、これは体験ですよね。

「自分のなかではある程度絵は描けているんだけど、実際はどうなるのか分からない。とにかく優秀なミュージシャンなのでお互いの愛情やリスペクトのもと、音楽がどんどん育っていくところが見てもらえるんじゃないかな。皆さんがよく知ってる曲もやるし、ゴンサロも参加している『チェンジング・パートナーズ』の曲もやるし、スタンダードもやる。ただ、毎晩やることは変えるよ!」

――それは楽しみです。

「変化ってことが、このプロジェクトの鍵なんだ。僕はハービー・ハンコックとジャコ(・パストリアス)と〈4AM〉(ハンコックの1980年作『MR.ハンズ』に収録)という曲をやっているんだけど、それも今回ゴンザロとフェリックスとやろうと思ってるんだ。それがどうなるか見どころだね」

――フェリックスとゴンサロが一緒にやるのは、今回が初めてですか?

「その通り。今回がまったく初めてだよ」

――そもそも、フェリックスとはどうやって知り合ったのでしょうか。

「"インターナショナル・ジャズ・コレクション"っていうバンドで、そこのベーシストがダリル・ジョーンズだったんだけど、(ずっと彼が入っている)ザ・ローリング・ストーンズが忙しくて、誰かいないか探していて、(フェリックスがメンバーだったことがある)イエロージャケッツの経歴からフェリックスを勧めてみた。やってみたらすごく楽しくて、また一緒にやれるといいなって思ってたときにブルーノートの公演が決まって、それにフェリックスを入れたんだ」

HARVEY MASONの画像5 2023 9.15 BLUE NOTE TOKYO (Photo by Makoto Ebi)

――彼のどんなところが好きですか?

「すごく背が高いところ(笑)。演奏はもちろん、耳もいいしテクニックも素晴らしい。しっかり聴いて発信してくるところから、また広げていきたくなるんだ。とにかくエネルギーがすごくて、まだ41歳くらいだと思うんだけど、頼もしくて楽しい存在だね」

――今度はピアノ・トリオというベーシックな編成ですが、あらゆるフォーメイションでいろんなミュージシャンとやってきたあなたにとって、それはどんな位置付けなのでしょうか。

「僕はピアノ・トリオが大好きなんだ。いちばん好きな形態と言ってもいい。昔からマッコイ・タイナーやいろんなピアニストとやってきたけど、その都度とにかく楽しんできた。楽器が3つしかないので、空間を開くことができるんだ。そこにサックスが入ってくるとなると、自分が入る余地が限られることもある。それはそれでやりやすい時もあるけどね。一方、トリオだと空間の広さをしっかり聴いてみんなで作っていく醍醐味がある。今から、みんなの笑顔が目に浮かぶよ。とにかくこの3人に関しては、相性がいいと思ってる」

HARVEY MASONの画像6 2023 9.15 BLUE NOTE TOKYO (Photo by Makoto Ebi)

――ぼくはハーヴィーさんの70年代アリスタ時代のヴォーカルを使った曲も好きなんです。ジャズと繋がったブラック・ポップの作り手としたあなたに注目したことがありました。

「当時は楽しんでたよ。僕はもう歌ってないんだけど、ここ最近ヴォーカル・プロジェクトを進行してるんだ。とてもスペシャルなプロジェクトで、たくさんのミュージシャンも加わってくれているよ」

――楽しみに待ちます。そんないろんな人とさまざまなことができるあなたが、今回はピアノ・トリオでショウをする。いろんなことができる音楽って素敵ですね。

「だからこそ音楽は楽しいんだ。やりようによってはシンフォニック・オーケストラだってできる。実際、オーケストラでティンパニーを叩いたこともあるしね。そういう姿勢を教えてくれたのは、クインシー・ジョーンズかな。彼と仕事をするなかで、いろんなことを学んだ。彼は僕のメンターだね」

――現在ハーヴィーさんは若いミュージシャンにとって、その位置にいると思います。

「そうだね。音楽はとにかく楽しい。誰だって音楽は好きだよね。音楽は生命力なんだ」

HARVEY MASONの画像7 2019 10.16 BLUE NOTE TOKYO (Photo by Takuo Sato)

――ブルーノート東京では何度も公演を行っていますが、何か印象に残っていることはありますか?

「もう、いい思い出がたくさんあるよ。(ストーンズの)チャーリー・ワッツが会いに来てくれたことがあったな。日本には最初ナベサダ(渡辺貞夫)が呼んでくれたんだ。それから何度も来ることができた。今度行ったら貞夫さんに会いたいな。とにかく、素晴らしいミュージシャンが出演していて、出会いがたくさんある。あとはオーガナイズもいいし、エンジニアやスタッフもいいし、食事も美味しい。とにかくお気に入りのクラブだよ」

――最後に、今度の公演の抱負を語ってください。

「もうすぐだね! エキサイティングで楽しいショウになるから、ぜひ観にきてほしい。毎回新しいことをやるから、一緒に楽しみましょう! あ、それからマコト・オゾネ(小曽根真)に会いたいな。『チェンジング・パートナーズ』にも参加してくれて、アレンジメントもやってもらってるんだ。彼が大好きなので、また一緒にやりたい。誰かマコトに伝えておいて(笑)!」

LIVE INFORMATION

HARVEY MASONの公演バナー画像

HARVEY MASON
featuring GONZALO RUBALCABA & FELIX PASTORIUS
"Changing Partners / Trios 2" Vinyl Release Party

2025 5.8 thu., 5.9 fri., 5.10 sat.
5.8 thu., 5.9 fri.
[1st]Open5:00pm Start6:00pm [2nd]Open7:45pm Start8:30pm
5.10 sat.
[1st]Open3:30pm Start4:30pm [2nd]Open6:30pm Start7:30pm
https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/harvey-mason/

<MEMBER>
ハーヴィー・メイソン(ドラムス)

ゴンサロ・ルバルカバ(ピアノ)

フェリックス・パストリアス(ベース)

佐藤 英輔(さとう えいすけ)
1986年から音楽の文章を書く仕事に。ロック、R&B、ワールドミュージックやジャズなど幅広く執筆。スティングやオーネット・コールマンほか、多くの音楽家にインタビューしてきた。ライヴ好きで、ブログは、https://eisukesato.exblog.jp。最新刊「越境するギタリストと現代ジャズ進化論」(リットーミュージック)発売中。

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