【スペシャル・インタビュー】松居慶子 | News & Features | BLUE NOTE TOKYO

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【スペシャル・インタビュー】松居慶子

【スペシャル・インタビュー】松居慶子

世界規模で活躍するコンテンポラリー・ジャズ・ピアニスト
未来へ向かう想いを込めた新作『EUPHORIA』を
携えての待望の帰国公演

 L.A.在住のピアニスト、作・編曲家の松居慶子は、オリジナル曲を"届いた"もしくは"授かった"と表現することが多い。まるで、天からの贈り物と言わんばかりに。そのギフトを次なる待ち人たちに届けようと世界各地を巡り続け、早35年以上が経過した。輝かしい功績を残しながら、人道的なサポートも行っているコンテンポラリー・ジャズ界の寵児は、日本ツアーを目前に控え、エナジー溢れる晴れやかな表情でインタビューに応えてくれた。

Interview & text = Hijiri Kanno

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「世界的にクレイジーだったこの数年、それぞれの立場で皆さん、本当に大変だったと思います。その時間を乗り越え、私たちは今、新しい時代の入り口に立っているのではないでしょうか。これからは、それぞれが自分の幸せを追求しながら、優しさを持って周りの人と接すれば、地球上に調和の空気が広がると私は信じています。逞しさや勇気、愛情で未来は変えて行ける、そんな気持ちをニュー・アルバム『EUPHORIA』に込めました」

 "多幸感"という意味を持つタイトルの最新作は6月28日に日本盤でも発売。ブックレットにはセルフ・ライナーノーツや旅先でシャッターを押した写真なども掲載したスペシャル仕様となっている。ツアーがストップした2020年から約2年の間に書き溜めた12曲で構成したアルバム『EUPHORIA』。

「2004年に日米交流150周年記念外務大臣賞をいただいた時、受賞者のひとりだった宇宙飛行士の毛利衛さんから"トレーニング中に貴方の曲をラジオで聴き、以来、ずっとファンでした"と光栄なお言葉を頂戴しました。それを機に時々、やり取りをさせてもらっていたのですが、2020年の夏に、毛利さんが館長を務めていた(2021年退任)日本科学未来館で開催されたイベント"空間インスタレーション<ひらめきの庭>"の一角にピアノを置いたスペースがあるという情報をシェアしてくださったので、これは是非、体感したいと足を運びました。そこから今回の新曲作りがスタートしたのです。その後、L.A.の自宅にいる時に授かったモチーフやテーマを元にした曲、一時帰国した際、武蔵野の郊外を歩いていた時に聴こえてきたベース・ラインを駆使したアレンジの曲など、様々な場面で誕生した作品がニュー・アルバムには詰まっています」

 レコーディングは至福の時間だったと振り返る松居慶子。

「スタジオでメンバーと会い、顔を見ながら互いの音を感じ、一緒にプレイバックを聴いた時、本当に幸せな気持ちになりました。もちろん、今の時代は家に居ながらデータ交換で簡単にアルバムを作れますが、私は彼らと直接会って演奏したかったので、その日を心待ちにしていたのです。3つのリズム・セクションをベースに、レイラ・ハサウェイ(vo)やランディ・ブレッカー(tp)、マイク・スターン(g)をはじめとする素晴らしいミュージシャンをフィーチャーした楽曲も収録しています。再会の喜びや躍動感のある演奏、良い意味での緊張感あるプレイを残すことが出来ました」

 今年の3月からスタートしているツアーの先々で、オーディエンスがとてつもなくエキサイトしている様子が松居の語るエピソードから伝わってくる。

「先日のライヴでは"僕は今夜、間違いなく天国にいたよ"と興奮しながら感想を言ってくれた方がいました。カリフォルニアのブルーノート・ナパで演った時はオレゴンからわざわざ来てくださった30年来のファンだと名乗る方に"自分はいつ死ぬかわからない。だから、ケイコにどうしても言っておきたいことがある。貴女の音楽に出逢えて僕がどれだけ幸せだったか!世の中をベター・プレイスにしてくれて本当にありがとう"と涙を流しながら話してくれて。そんな風に音楽を心でキャッチしてくれる人たちがいたからこそ、私は35年以上に渡り、活動出来たのです。アルバムのラストに入れた「NEW PASSAGE」はファンから受け取ったメッセージを読んだ時に聴こえてきたフレーズを元にした曲で、聴き手のみなさんに感謝の意を込めたプレゼントのつもりで収録しました」

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Live Photo by Yuka Yamaji

 日本公演でも会場は興奮の渦が巻き起こるだろう。その舞台に上がるミュージシャンは、松居が"マイ・ファミリー・オン・ザ・ロード"と呼んでいる気心知れたツアー・メンバーとホーン奏者ふたり。

「キューバ出身のドラマー、ジミー・ブランリー、ベーシストはオランダ出身のリコ・ベレット、ブラジル出身のギタリスト、JP・モラウオは優れた音楽家であり、人間としても素晴らしく、心から信頼しています。余談ですが、みんな、チョコレートとエスプレッソが大好物で、美味しい食事にも目がありません(笑)。アメリカではバンド活動をしていても、ライヴが終わればそのまま解散するのが一般的ですが、このグループは開演前に待ち合わせて気になるコーヒー・ショップに行ったり、終演後、レストランで食事をするなど、家族以上に食卓を囲んでいる仲間でもあります(笑)。そこにイリヤ・セロフという最近、メキメキと伸びているトランペット&フリューゲル奏者と、今回初めてお会いするデイヴィッド・ネグレテというサックス奏者を迎えたステージをお届けします。アルバムを聴いていただき、その曲たちを生演奏で受け止めてもらえるのは、私にとって更なる喜び。本当に素敵なメンバーたちです。是非、会ってやってください」

 オフィシャルなインタビューが終了した後、"松居さんのお気に入りのミュージシャンは?"と尋ねたところ、そこから話は広がり、心温まる逸話も紹介してくれたので書添えておきたい。

「ジャンル関係なく、色々な音楽を聴いていますが、素敵だなあと思っているのはスティーヴィー・ワンダー、マルタ・アルゲリッチ、スティング、他にもたくさん!学生時代から聴き続けていたボブ・ジェームスとジョー・サンプル(2014年他界)には、友人だと言ってもらえて本当に光栄だなあと思っています。ボブとの出会いは、野外音楽堂<ハリウッド・ボウル>で開催されたフェスティヴァルに、私が初出演した時です。他に、グローバー・ワシントンJr.とフォープレイも出演しまして、大好きだったボブに挨拶をしたら"君のアルバムを愛聴しているよ。アイ・ラヴ・ユア・ミュージック!"と言ってくださったのです。驚きましたし、本当に嬉しかったです。数年後に"僕のアルバムで演奏してほしい"とオファーがあり、連弾の譜面とマイナス・ワンのテープが届きました。共演した音源はボブのアルバム『ダンシング・オン・ザ・ウォーター』に収録されていますが、もうひとりのゲストがジョー・サンプルで、更なる喜びでした。ジョーとの出会いは、1990年頃に出演したジャズフェスの舞台。"ケイコと僕は共有する何かがあると思う"と言ってランチに誘っていただいたり、彼の自宅に招かれ、私のバンド・メンバーも交えたバーベキューを夜遅くまで楽しんだことも懐かしい思い出のひとつです。オリジナル曲を演奏し続けているミュージシャン同士ならではの話もしました。彼が病気になった時も連絡をくれて"君はまだまだ旅をしながらコンサートが出来ていいね"と言われたことは忘れられません。ジョーだけでなく、この地球でもっともっとプレイしていたかったミュージシャンの無念さを思うと、こうして元気に生かされている私は、彼らの分まで演奏していかなくては、と強く思うのです」

LIVE INFORMATION

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松居慶子グループ

2023 6.30 fri. 高崎芸術劇場 スタジオシアター
http://takasaki-foundation.or.jp/theatre/concert_detail.php?key=1114
2023 7.1 sat., 7.2 sun. ブルーノート東京
https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/keiko-matsui/

<MEMBER>
松居慶子(ピアノ、キーボード)
ジミー・ブランリー(ドラムス)
リコ・ベレッド(ベース)
JP・モウラオ(ギター)
イリヤ・セロフ(トランペット)
デイビッド・ネグレテ(サックス)

★松居慶子 / ニュー・アルバム『EUPHORIA』リリース記念 トーク・セッション
2023 7.2 sun. Start 1:00pm ブルーノート東京 B1Fロビー
ブルーノート東京公演を 6.15 thu.までに予約された方の中から抽選で30名様をご招待
応募方法など詳細はこちら→https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/keiko-matsui/#clinic




菅野聖(かんの・ひじり)
構成作家/ライター。23歳からフリーランスでラジオを中心に番組制作&選曲に携わる。CD解説をはじめ、雑誌や新聞、webサイトといった様々な媒体でミュージシャンを中心としたインタビュー記事やコラムなどを執筆。

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