【公演直前インタビュー】海野雅威 | News & Features | BLUE NOTE TOKYO

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【公演直前インタビュー】海野雅威

【公演直前インタビュー】海野雅威

かけがえのない出会いの数々とジャズへの愛
困難を乗り越え挑む待望の復帰ステージ

 ヘイトクライムによる暴行に遭い、一時期はピアニスト生活の危機にも陥った海野雅威が、奇跡の凱旋復帰ライヴを開催する。筆者は9月に行なわれたNYブルックリン「バーベス」公演を配信で観たが、強烈なスウィング感、ドライヴ感に魅了されつくした。来たるブルーノート東京公演でも、ジャズへのリスペクトに溢れた圧巻のステージを届けてくれるに違いない。

interview & text = Kazunori Harada

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「一時期、ミュージシャンは人前で演奏する場所を失っていましたが、今年の春頃からジャズ・クラブの再オープンが始まりました。僕も8月にジョン・ピザレリ・トリオの一員としてブルーノート・ニューヨークで演奏し、ようやく怪我からの復帰を果たせました。長いトンネルから少しづつ抜け出してきたという感じですね。コロナ禍以前の日常が決して当たり前ではなかったということに、あらためて気づかされ、生きていることへの感謝、そしてまたピアノが弾けるようになった喜びが今まで以上に芽生えています。ブルーノート東京には特別な思い出があるんです。9歳の頃(1989年)、アート・ブレイキーを聴きに骨董通りの旧店舗に父親が連れて行ってくれました。その時にアートが"Nice Boy"と頭をなでてくれたことが僕のジャズ体験の原点で、今でも忘れられません。2008年にニューヨークに渡って、2017年にはロイ・ハーグローヴ・クインテットの一員としてブルーノート東京に戻ってくることができました。その思い出の場所に、今回リーダーとして帰ってこられるのは全ての繋がりが感じられて本当に嬉しいです」

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 11月12日のブルーノート東京公演は、10月下旬から始まる凱旋ツアーの最終日となる。

「名古屋から始まり、各都市で演奏後、地元東京に戻ってブルーノート東京で千秋楽を迎えます。メンバーは全員"Look for the Silver Lining"(海野を支援するために日本のミュージシャンが集結して、昨年11月15日に開催した配信コンサート)に参加してくれて、僕の復帰を誰よりも願ってくれた仲間たちです。

吉田豊さんと海野俊輔さんとの日本でのレギュラートリオは、結成20年近くになる気心知れたメンバー。大切な家族ともいえるトリオでの演奏は格別です。ツアーを廻る中で、このトリオならではのサウンドがより自由になっているところをお聴きいただけたらと思っています。

豪華なスペシャルゲストの皆さんについてですが、akikoさんとはアルバム『Simply Blue』(2005年)で共演以来、僕は心軽やかで素敵なセンスのakikoさんのファンでもありますが、なかなかご一緒できていなくて、今回がとても楽しみです。支援コンサートでは長時間に渡り司会もしてくださいました。小沼ようすけさんも本当に自然体の方です。渡米前に一度だけ念願だったデュオで演奏しましたが、その時のあたたかな感覚が今も残っています。TOKUさんは僕が高校生の頃に出会い、僕にとっては"兄貴分"という存在です。ロイとも交流があって、彼のフリューゲルホーンのマウスピースはTOKUさんがプレゼントしたものだったんです。TOKUさんと僕はロイを通じてつながっている部分もあります。大好きな素晴らしいメンバーとの演奏に今から心踊らせています」

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 "ニューヨークで最も愛され、信頼されている日本人ジャズ・ピアニスト"と称される海野。ロイのほかにも、ジミー・コブ、ハンク・ジョーンズら数々のジャズ・ジャイアンツから薫陶を受けた。

「ハンクもジミーもロイも音楽にすべてを捧げていて、しかもそのレベルが想像を超えるものです。ハンクは朝から晩まで、スーツを着て、常にビシッとした姿勢で練習していました。そういう姿を見ると、音楽とは単なる趣味とか楽しみではない、途方もなく大きいものだと実感します。生涯現役で活動し、"これでいいんだ"という終わりのない高みを目指して努力に努力を重ね・・・・・・彼は病院で僕の手を握りしめながら亡くなったんです。最後の最後まで "Tada(=ニューヨークでの海野の愛称)、家に戻って練習したいよ" と言っていました。音楽の使者、神様の使いなのではないかと思うほどの方でした。ハンクからは音楽的な事はもちろんですが、その生き様から人生観を学びました」

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 この夏には、久々となるリーダー・アルバムのレコーディングも完了した。

「ピアノを弾くことができなかった時期は主に作曲をしていました。創作意欲が湧いてたくさんのオリジナル曲ができたので、再びピアノが弾けるようになった7月にクリフトン・アンダーソン(トロンボーン奏者。ソニー・ロリンズの甥)のプロデュースでレコーディングしました。たまたまミキシングの作業中、クリフトンの電話にソニー・ロリンズから連絡があったんです。ロイたちを通じて僕のことを知ってくれていたようで、"君が復帰できないなんて、私はこれっぽっちも思っていない。さらにストロングになって帰ってくるだろう、君は大丈夫だ"と電話口で激励をいただきました。ロリンズの優しさに感動しましたね。

ルネー・ヌーヴィルとのプロジェクトも進んでいます。ロイが"素晴らしいシンガーだから紹介したい"と僕につないでくれました。ロイがそうするのはめずらしいのですが、彼の中に"ルネーと僕が共演したら何かいいものが生まれるんじゃないか"という直感があったのかもしれませんね。ロイが亡くなった後のトリビュート・ライヴで何回か共演して、オリジナル曲に歌詞が欲しいなと感じた時に、作詞家でもある彼女のことが浮かんで、一緒に音源を制作中という感じです。11月後半にアメリカに戻った後、またスタジオに入りたいなと思っています」

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「意欲が溢れ出して止まらない感じですね」と伝えたら、「今後どうなっていくんだろうという期待が高まってきて、自分でも本当に楽しいんです」という言葉が返ってきた。

「多くの方にご心配していただいた責任もありますし、ジャズ・ジャイアンツから授かったものをいかに自分の音楽に反映していくか、これも大きな課題です。大怪我という困難を乗り越えて、またステージに戻ってくることができた喜びと共に、これからの自分自身の新たな音楽人生のチャプターにも非常にわくわくしています」


原田和典(はらだ・かずのり)
「ジャズ批評」誌編集長を経て、2005年ソロ活動を開始。米国のジャズ誌「ダウンビート」国際批評家投票メンバー、ミュージック・ペンクラブ・ジャパン理事。代表的著書にソウル・ジャズを特集した『コテコテ・サウンド・マシーン』がある。

LIVE INFORMATION

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☆海野雅威トリオ
with special guest TOKU, akiko & 小沼ようすけ

2021 11.12 fri.
[1st]Open3:00pm Start4:00pm [2nd]Open5:45pm Start6:30pm
https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/tadataka-unno/

<MEMBER>
海野雅威(ピアノ)
吉田豊(ベース)
海野俊輔(ドラムス)

Special Guests:
TOKU(トランペット)
akiko(ヴォーカル)
小沼ようすけ(ギター)

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